3月博多座公演 主演の藤山直美さんにインタビュー

 3月に博多座(福岡市博多区)での「藤山寛美歿(ぼつ)後三十年喜劇特別公演」に主演する藤山直美さん。没後30年を迎えた松竹新喜劇の名優である父・藤山寛美さんの十八番だった人情喜劇「大阪ぎらい物語」を演じます。寛美さんは244カ月連続公演という演劇史上例のない記録を打ち立てるなど、昭和を代表する喜劇王。そんな父の存在や公演への意気込みについて聞きました。

目次

「喜劇は役者がピュアでなければ」

出典:https://fanfunfukuoka.aumo.jp/

―名喜劇役者だった父・寛美さんをどう捉えていますか。  もう本当に人間の“種類”が違うんです。数年に1度は、歴史に残るような、ああいう人が現れるのでしょうね。私は父から、良い部分も悪い部分も血を分けてもらっていますが、同じ喜劇役者として本当にレベルが違うんです。洋服の表示ラベルがありますよね。綿何%とか、アクリル何%とか。その表示が違う。人間をつくっている組織が違う、生まれながらの喜劇役者というか、天才なのでしょう。正直に言うとそう思います。

出典:松竹

―娘の視点で見る、父・寛美さんの存在は。  情に厚い人でしたよ。亡くなってから分かることが多いです。人と人のお付き合いのことや、生き方。「あっそうか、あの時、そういうことを意図して言ってくれてたのか」ってね。当時は、反発することもありましたけど。また、上方喜劇について父とあまり話していないのですが、その原点である歌舞伎や新派については語り合ったりしましたね。今、私は父の(亡くなった)年齢を超えましたが、やっぱり全然違う。父のスピード感で生きると倒れてしまいますよ。やっぱり裏の表示が違う、ウールマークとかが違う(笑)。

出典:松竹

―「大阪ぎらい物語」は寛美さんの代表作ですが、演じる難しさやプレッシャーは。  父とは性別はもちろん、元の素材も違うし、比較の対象にならないと思っているので、プレッシャーはないんです。のんきなんかな(笑)。この作品は、昔の良き時代の大阪が舞台です。私が演じる千代子は、自分の願い事を一番最後にするような子。何事もわれ先にではなく、周りに先に行かせて、自分は最後。そんな心優しい、商家のお嬢さんに見えないとダメなんですよね。お嬢さんでちょっと変わり者だけど、心はすごくピュアで青空。人を疑うこともなく、家族が大好き。千代子という女性のことを考えると、昔は本当にこんな良い人っていたんだろうなと思って…。そう思える人にならないといけないので、めちゃくちゃ難しい! もうイヤ(笑)。

出典:松竹

―千代子はすてきな女性なのですね。  そう! だから難しい。役は人を語るといって、いくら演じても、その人にその素質や要素がないと見えない。難しいです。 ―喜劇の難しさも改めて感じていますか。  喜劇やお笑いは小さい頃から大好きで、ずっと見ていますが、やっぱり喜劇は難しいです。演じる役者がピュアでいなければいけないし、真っ白でなくてもいいけど、心がとことん白に近い人でないと無理だと思います。そこが闘いですね。そして、「ここでお客さんが笑ってくれるよね」とか、当て込むことは絶対に無理。一番大切なのは、物語や登場人物がちゃんと成立しているか。そこがしっかりしていて次に起こるのが笑いなんです。作品と役をいとおしんで、とにかく丁寧に演じることを大切にしています。

出典:松竹

―3年半ぶりの博多座公演で楽しみにしているのは。  福岡に行った時、お休みの日には天神や西通りをいつもウロウロしていますよ。1人でショッピングしたり、ギョーザ食べたり。必ず行く料理屋さんもあります。(福岡ソフトバンクホークス球団会長の)王(貞治)さんの大ファンでね、ホークス戦も見たいですね。小学校1年の時に、王さんのホームランの弾道の美しさに感動してからずっと大好きです。 ―読者にメッセージを。  なかなか安心できないコロナ禍ですが、体を大事にして長生きしていきましょう。うがいと手洗いを忘れずに! 元気でお過ごしくださいね。

ふじやま・なおみ

 1958年生まれ、大阪府出身。松竹新喜劇の俳優・藤山寛美を父に持ち、64年にテレビ番組「お好み新喜劇・初代桂春団治」で親子共演デビュー。2006年度放送のテレビドラマ「芋たこなんきん」をはじめ、舞台など多岐にわたる活動を展開。12年初演の舞台「ええから加減」で第38回菊田一夫演劇賞演劇大賞を受賞。

取材/秋吉真由美

博多座「大阪ぎらい物語」ページ

※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

「ファンファン福岡/サブクリップ」(福岡都市圏内配布、福岡市地下鉄駅駅設置)紙面に掲載した話題、編集部員が突撃取材した話題などを紹介します!

目次