街角の〝エモい〟看板を記録 「建て書き鑑賞家」とは?

 趣味にかける情熱や時間は、人生をより豊かにしてくれます。夢中になる対象は、意外なところに転がっているものです。今回は普段の生活で多々見かける「あるもの」を鑑賞する男性をクローズアップ。少しのお金で人生を豊かにするヒントを聞いてみました。

今回の趣味人:建て書き鑑賞家・yoriyoriさん(福岡市)

出典:ファンファン福岡
目次

Q 「建て書き」とは

 「建て書き」を一言で表すと、建物の名称が○○ビル、○○マンションなどと表示されている部分のことです。 表記部分の呼び方って、「看板」「ビルサイン」「建築名称板」などさまざま。それで自発的に呼ぶようにしました。ネーミングは端的に、そして耳に聞こえがいいようになど、実はこだわって考えました。この建て書きを、福岡市内を中心に全国各地で鑑賞しています。  自分の中の評価ポイントがいくつかあり、まずは「書体」ですね。書体そのものが格好いい、かわいいなど注目点があること。そして建て書きの「周辺環境」も重要。壁のデザインや配置バランスも写真に残す際に「絵」となります。

出典:ファンファン福岡

 あとは「ネーミング」。例えば「世界文化ビル」なんかは壮大な名前ですし、「マンショーン勝之」はなぜ「ショーン」って伸ばしたんだろうと引っかかります。

出典:ファンファン福岡

 「状態」も評価ポイントです。たまに建物の劣化により建て書きの一部がはがれて、「ビル」が「ヒル」になっていたりするんですけど、そんなツッコミどころも好感度につながります。

出典:ファンファン福岡

 いいなと思った建て書きは、一眼レフカメラやスマホで撮影し、撮影年、都市別に保存しています。SNSに投稿するときに真正面から見えるようにこだわって撮影します。その方がアーカイブで並べたときに整って見えますから。  大学で都市、建築分野を専攻していて、建築物を見て回ることが趣味でした。2012年当時、書籍、Webメディア、SNSなどを通してさまざま都市鑑賞のカテゴリーがあることを知りました。全国のいろんな都市鑑賞者を紹介していた写真家の大山顕さんにも感化されました。以前から建物名の表記部分に興味を持っていたので、僕も本格的に記録写真を収集しようというきっかけになりましたね。

Q おもしろさを教えてください

 例えば、街なかの商業看板や道路標識は、既存のフォーマットで統一されているので似たデザインをたくさん見かけますよね。しかし建て書きは、建物によって名称から書体、デザイン、たたずまいまで異なり、1軒ごとに個性が見られるのがおもしろいんです。

出典:ファンファン福岡
出典:ファンファン福岡

 僕が一番魅力を感じるのは1960~70年代の建て書きで、看板職人さんが1点1点、その建物に合わせて作り上げたもの。職人さんのこだわりを感じさせるデザインがなされていたり、ビルオーナーの趣味嗜好が反映されていたり、それぞれの個性が色濃く出ているんです。逆に今の時代の建て書きは、カタログからセミオーダーで発注されることがほとんどなので、個性が薄れている印象です。もしかすると数十年たったら、このフォーマットも平成時代の特徴と呼ばれるのかもしれませんね。

Q これまでに費やしたお金は

 建て書きは街のいたるところにあり、お気に入りを探しあてて鑑賞すること自体にはお金がかかりません。 別でかかったものをあげると、記録、公開するための機材費ですね。一眼レフカメラや望遠レンズ、記録保存用のハードディスク、交通費、参考書代。2016年に発行した自主制作の小冊子の費用も合わせて、ここ7年間でざっと20万円くらいでしょうか。

Q 忘れられない建て書きは

 建て書きの宿命として、経年劣化により取り外されたり、交換されたりするんです。僕が好きな1960~70年代の古い建物の建て書きも、ビルの取り壊しや外装リニューアルでだんだん減ってきていて、残念に思います。だからこそ、完成時のままの名作を写真に残さないと。建物全体の写真はあっても、建て書きにフォーカスした写真はないので、せめて僕だけでも撮り残していかねばという使命感があります。

出典:ファンファン福岡

 愛知県の名古屋駅前にある「大名古屋ビルヂング」を撮りに行ったのも、そういう思いから。ネーミングも素晴らしいし、空に浮かぶように掲げられている姿も格好いいんです。そんな建て書きがビル解体によってなくなると聞いて、これは実際に見て、記録しておかねばという衝動にかられて名古屋へ向かいました。

Q 失敗談はありますか

 人があまり通らないマニアックな場所に、いい建て書きが隠れているケースがあるんですよ。ところが以前、たまたま全身黒の格好で小道をうろついていたら、通りかかったパトカーの警察官から職務質問を受けてしまいました。カメラ内の写真を見せて、不審者じゃないと納得してもらえましたが、これは都市鑑賞者の悲しい「あるある」ですね。「不審者注意」と貼られた電柱を見たら、絶対に疑われないように注意します。

Q 鑑賞を始めて変化したことは

 「都市鑑賞」という同じジャンルの趣味を持つ人と、県をまたいで交友が広がりました。僕が「建て書き」と掲げるきっかけをくれた写真家の大山顕さんや、「ピクトさん」研究などの活動で知られる内海慶一さんと直接つながれたこともうれしくて。拠点も年齢も違う第一人者たちと、SNSを通して知り合い、リアル(現実世界)でも交流を持つようになりました。また、電線好きのタレント・石山蓮華さんも同様で、僕や建て書きのことをSNSで知ってくれていたそうで、そこから仲良くなりました。

出典:ファンファン福岡

 今では20代の同世代に看板好き、電線・電柱好き、団地好きなどが増えてきています。僕は建て書きが専門分野ですが、他の子はまた違う部分に注目していて、その話を聞くと自分も探してみたくなるんですよ。なので、お互いにおもしろいスポットを見つけたら「こんなのあったよ」と写真を送り合って盛り上がっています。  なにげない日々も、いろんなところに目を向けると街歩きがより楽しくなりますし、こんな風にささいところにも面白みを見いだすことで、人生がもっと楽しくなるんじゃないかなと思います。

出典:ファンファン福岡

yoriyori 建て書きHP

建て書き専用 Instagram

出典:mymo

「サボテン愛」高じて300万円 予測不能な個性が魅力

※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

ファンファン福岡(fanfunfukuoka)は、街ネタやグルメ、コラム、イベント等、地元福岡・博多・天神の情報が満載の街メディア。「福岡の、人が動き、人を動かし、街を動かす」メディアを目指しています。

目次