私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
祖母が八歳の夏の夜。
暗闇の中を何かが転がってきて、寝ている祖母の腹に当たった。
横になったまま探ると硬い物に触れた。
起き上がって見ると、拳くらいの真っ黒い石が腹にくっついている。
不気味に感じた祖母は何度も何度も引っ張ったが取れない…。
「おい、おい!」
兄の声で目が覚めた。うなされていたらしい。
嫌な夢だったなと思いながら朝食をとっていると、兄が何かを磨いている。
「!」
それは夢で見た黒い石だった。
「それ、どうしたの…」
「昨日、隣りのS村まで皆で遊びに行ったら半分崩れた家があってな、そこを探検して見つけたんだ」と言いながら兄は得意そうにその石を見せた。
薄れてはいるが顔や文字が刻まれていて、不吉なものを感じさせる石だった。
その晩も同じ夢を見て、ひと晩中うなされた。
その次の晩も同じ夢を見た。
そしてその次の晩も。
これは普通じゃないと思い、兄に元の所へ返すように言うと、いつになく素直に同意した。
実は兄も同じような夢を見て怖くなり、近所の川に捨てに行ったと言う。
「そしたら何でもない所で滑って脚を切ったんだ。石を捨てるどころじゃなかった」
兄の左脚には包帯が巻いてあった。
こんな物は少しでも早く手放した方がいいと、二人でS村に出かけた。
だが、石を見つけた家は取り壊されており、しかたなくそこに置いて帰った。
家に帰り着いてこれで安心と思っていると、S村に住む顔見知りのTさんが訪ねて来た。
しばらくして父に呼ばれた。
「お前達S村に行ったろう。Tさんがわざわざ忘れ物を届けてくれたぞ」
そこにはあの石があった。
血の気が引くのが分かった。
どうしようもなくなった二人は、父母にこれまでのことを打ち明けた。
それを聞いた父はあわてて出て行ったかと思うと拝み屋さんを連れて来た。
「これは…扱い方を間違えると大変なことになる」
見るなり血相を変えた拝み屋さんは、すぐに桐の箱と白い絹を用意しろと言う。
父と祖母がそれらを買ってくると、拝み屋さんは絹を広げた上に石を置き、回りに土を盛って祝詞(のりと)を唱え、終わるとそのまま石と土を包み、桐の箱に入れ封をした。
「これをなるべく人通りの多いところに置け。誰かが持っていってくれればそれでもう大丈夫だ」
兄と祖母は言われるまま駅まで持って行き、待ち合いの机に置いてしばらく見ていた。
三台目の汽車が到着したあと、桐の箱は消えていた。
「あの石は捨てても戻ってくるから、この方法しかなかった。お祓(はら)いはしたので、持って行った人が開けるころには悪さはしなくなっているだろう」
そう言うと拝み屋さんは帰って行った。
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「それから石は帰ってこなかったよ。物には思いがこもっているのかもしれないね。持ち主がいなくなった後もずっと…」
祖母はそう締めくくった。