九州と本州を隔てる関門海峡。かつては、日本を代表する国際貿易都市として栄えた門司港を中心ににぎわいましたが、今は少し寂しい印象という声も……。そんな関門海峡のイメージを払しょくするために立ち上がったのが、「海峡レモン部」です。今回は、ローカルのおいしいモノ好きなライターの戸田 千文さんが、「海峡レモン部」発起人のひとり合同会社ポルトの菊池勇太さんに、プロジェクトへの思いやクラウドファンディング参加のきっかけを伺いました。
下関&門司港に農作物の特産品を!新しい特産品づくりを目指す
九州最北端に位置し、タイムスリップしたかのようなレトロで異国情緒溢れる街並みが残ることでも知られる門司港。 そんな門司港で、ゲストハウスや飲食店を営んでいる菊池勇太さんが『海峡レモン』プロジェクトを思いついたのは昨年のこと。菊池さんの出身地でもある門司港は、観光地としては人気があるが、特産品として地元で作られている農産物がほとんどなく「何か自分にできることはないか」と、ぼんやり考えていたのだといいます。と、同時に、関門海峡の素晴らしい風景を楽しんでもらうきっかけをつくれたらな、とも考えていました。 そんな時にふと思い浮かんだのが『海峡レモン』。関門海峡を挟む門司港と下関にたくさんのレモンの木を植え、その景色で人を呼び込み、収穫したレモンが特産品になればとの思いで2020年春にプロジェクトがはじまりました。菊池さん以外に2人、新たな仲間が加わり、「海峡レモン部」としての活動も同時にスタートです。
「作る」「届ける」「広げる」3人の力で地域を巻き込む『海峡レモン部』
「海峡レモン部」を主宰するのは、菊池さん、農家ダンサーというちょっと変わった肩書を持つ石川雄一さんことノッポさん、そして下関市で3つのカフェを経営する合同会社CRAFTSMANの青山高志さん。 「海峡レモン部」の構想を思いついたときに、菊池さんが声をかけて集まったメンバーです。
菊池さん: 「地元の人にとっては当たり前にある関門海峡。ずっと見ていても飽きないけれど、眺めていて楽しい気分になるようなものを作りたいと思ったのがプロジェクトのはじまりです。 どうせなら、観光資源や特産品になるようなものがいい。そこで思い浮かんだのが「海峡レモン」でした。レモンであれば加工しやすいので、果実をそのまま販売する以外にも、飲食店やほかの特産品とコラボレーションするといった、広げ方ができますから。」
「とはいえ、僕には農業や加工の知識はありません。そこで、農家ダンサーのノッポさんと下関市役所の隣でカフェを経営する青山さんに声をかけたんです。 ノッポさんはレモンを作る人、青山さんはみんなに届ける人、そして僕は取り組みを広げる人として、それぞれの得意分野を生かした役割があります。また、生産者であるノッポさんと実際にレモンを使う青山さんが、密に連携できることもメリットです。 生産者の課題のひとつが、規格外の商品ができてしまうこと。一般的に、規格外の商品は価格が下がり、販売できないものもあります。でも使う人からすれば、些細なことで問題にならない場合も多いですし、もし今ある商品に使うのが難しいなら新しく商品を開発すればいい。 うまくマッチングして擦り合わせができれば、農家の課題解決だけでなくフードロス削減にもなるんです。3つの歯車がハマることで、よりスムーズにプロジェクトを進められると考えています。」
クラウドファンディングの支援者は、ブランドを育ててくれる心強い存在
「海峡レモン部」の活動資金の調達は、クラウドファンディングを利用。2020年11月に支援の募集を始め、およそ1カ月半で239人から320万円もの支援が集まりました。菊池さんが主宰となりクラウドファンディングで資金を集めるプロジェクトは、「海峡レモン部」で5つ目になります。 菊池さん: 「「海峡レモン部」がクラウドファンディングにチャレンジしたきっかけは、下関市の「ふるさと起業家支援補助金」の対象事業に認定されたことにあります。クラウドファンディング型のふるさと納税で、ほかのふるさと納税と同様、「海峡レモン部」への支援金は税額控除の対象とすることができる仕組みです。 クラウドファンディングで大変なのは、プロジェクトの内容をいかに伝えるかということ。まだ商品になっていないものを写真やテキストで紹介するのは、やはり手間がかかります。 また、多くの人に伝えるからこそ、ネガティブな意見を聞くことになります。反面、自分がやりたいことを告知でき、一般的なニュースリリースよりたくさんのことをお伝えできるのはよい点です。」
「初期のブランドを育ててくれる支援者とつながりができるのも大きなメリット。まだ形になっていない企画に賛同して応援してくれる良質なお客さんは、僕たちのファンでいてくれる心強い存在です。賛同者が可視化されることで、どんな人に何が求められているのかが分かるので、ブランディングやマーケティングにも役立ちます。」
目指すのは海峡レモンの“エンタメ”化
下関・門司港のほか、全国各地の支援者からパワーをもらった「海峡レモン部」。3人が台風の目となり、周囲の人を巻き込みながら活動を本格化させています。 菊池さん: 「「海峡レモン部」の取り組みをまず知ってもらいたいのは、地元の人たちです。海峡レモンを通じて、地域の魅力を再認識してもらいたい。 当たり前にあるこの風景が、特別なものだと知ってもらいたいんです。それに気づくことで、自分のまちは自分で作っていくという意識が芽生えてくるのではないでしょうか。レモンの木は目に見えて変化しますから、「自分たちの手で作っている」という感覚を得やすいと思います。」
「一方で、押しつけがましく、かたい形で学んでもらうというのはやりたくないんです。せっかくなら、おもしろく、楽しく親しんでもらう。気が付けば肌で感じているというのがいいなって。だからこそ僕たちは、海峡レモンをエンタメ化したいと考えているんです。 「海峡レモン部」と付けたのも、部活動のように楽しんでもらいたいから。畑は、レモンを栽培する楽しい空間。農園体験だけではなく、バーベキューをしたり、ハンモックでゆっくり過ごしたりして、畑に訪れたくなるような仕組みを作りたいんです。」
クリエイティブでおもしろく、格好よく解決したい
もともと菊池さんが立ち上げた合同会社ポルトは、門司港を中心に北九州エリアの特性を生かしたまちづくりを行っています。ゲストハウスや飲食店の経営なども行いますが、どれも「門司港」という土台があってこそ。「海峡レモン部」をはじめ、多くのプロジェクトを立ち上げた菊池さんが目指すものは何なのでしょうか。 菊池さん: 「僕が暮らす門司港は、課題先進都市だと思っています。日本を代表する貿易都市として、いち早く発展し、そして衰退をしました。縮小した都市として、多くの課題に直面しているんです。 今後は、門司港のような課題を抱える町が日本や世界にも増えてくる。だからこそ門司港を中心に地域の人、そして外から訪れる人が幸せになれるコンテンツづくりに、これからもチャレンジしていきたいですね。 目指すのは、クリエイティブでおもしろく、格好よく社会課題を解決すること。80歳の人が多い地域で、無理に若い人を主役に引っ張ってくるのではなくて、今ここで暮らす80歳の人たちがおもしろく感じてくれて、「やってみたい」と思えることに挑戦してみたいです。」
「その挑戦の一歩として、クラウドファンディングの力は大きいです。支援者を募るということは、有言実行するための覚悟を持つということ。自分の中にとどまっていた考えが、表に出ることでたくさんの応援の声がかかります。 応援がプレッシャーになるのではと考える人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ背中を押してくれて、何かあっても支えてくれる重りのようなもの。風が吹いても飛ばされないようにしてくれる、テントのウエイトみたいな存在です。 クラウドファンディングをはじめると、世界は変わります。迷っている人は、勇気が足りないだけ。やりたいことがあるなら、ぜひトライしてほしいと思います。」 今年5月15日には、下関市役所近くで「海峡レモン祭り」を開催。「農家ダンサーのノッポさんを中心に、海峡レモン音頭を準備中。盆踊りみたいに、みんなで楽しんでもらえたら」と笑う菊池さん。レモンが実るのは5年後、地域の人々を巻き込んで生まれ変わる関門海峡の新しい姿に期待が膨らみます。 文=戸田 千文