明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」、「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
小学三年生の師走、祖母とK商店街を歩いていた。
I百貨店でクリスマスに買ってもらうプレゼントを下見した帰りだった。
バス停に向かう角を曲がると人だかりがしている。
近寄ってみると初老の男性が卓を広げ、対面に座った若い女性を占っていた。
囲むように見ている友人と思われる五、六人の女性たちは占い師の見立てに一喜一憂。
「来年は結婚の運気が高まります」
このひと言に大きな嬌声が上がった。
「おばあちゃん、占いって当たるのかな?」帰りのバスの中で聞いた。
「占いは聞く側の心にもよるところが大きいね。なにかあると『あぁ、あの時の占いはこのことだったのか』って勝手に思ったりするから…でも不思議な予言をされたことはあるよ」
「どんな予言? いつ?」
「あれもバスの中だったねぇ…」そう言うと祖母は話し始めた。
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結婚して三年が経った夏、祖母は親戚を訪ねた帰りのバスの中にいた。
とても暑い日で、疲れが出てうとうとしていると後ろの席の人が肩をつつくとこう言った。
「元気に育つけど女難がある。こればかりは仕方がない」
「えっ?」眠気も吹っ飛び、祖母は思わず振り返った。
そこには長い黒髪の着物の女性が座っていた。
怪訝な顔をする祖母に続けて言った。
「あなたのおなかの男の子」
「私の…赤ちゃん?」
「もうここにいるよ」と祖母のおなかに手を当てた。
「なぜ分かるんですか? 女難とは?」
「なぜと聞かれても〝分かる〟からとしか説明できない。でも信じていいよ」
そう言うと女性はバスを降りた。
ポカンとしたまま残された祖母は、ぼうっとしていて乗り過ごしてしまった。
翌年、女性の予言通り祖母は元気な男の子を生んだ。
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「それがあなたのお父さん。なかなか子どもができなくてあきらめかけていたんだけどね」
「すごいね! なぜ分かったんだろう?」
「不思議な人だったねぇ。見も知らぬ私にそれだけ告げるために現れたような感じだったよ」
「女難ってのは当たったの?」
「女難って何のことか分かっているの?」
「知らない…」
「じゃあ、もう少しあなたが大きくなったら話してあげるよ。さあバスが着いたよ」
冬の日暮れは早く、家に帰り着いたときにはもう真っ暗だった。
それから半世紀、父も祖母も鬼籍に入り、残念ながら〝女難〟の件は聞きそびれてしまった。
チョコ太郎より
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