2021年2月、福岡が誇る世界的ラーメンブランドの「博多 一風堂」から、「プラントベース赤丸」という名のラーメンが発表されました。パッと見は一風堂の定番豚骨ラーメン「赤丸新味」。しかしながらこの一杯、豚骨はもちろん、玉子も肉も一切使わず、植物由来の素材で赤丸を再現したラーメンなのです。今回は、ライターの前園 興さんが、この「プラントベース赤丸」をきっかけに、実はあまり知られていない一風堂の商品開発の裏側にフォーカス。決して豚骨だけに縛られない、一風堂の“しなやか”な商品づくりに迫ります。
話題のプラントベースフードシーンに、ラーメンで参戦!
最近、「プラントベースフード」という言葉を目や耳にする機会、増えていると思いませんか? 植物由来の食品や料理を指す言葉で、代表的なものでいえば大豆ミートバーガーなどが挙げられます。数年前から欧米を中心に広がりを見せており、人の健康や栄養面だけでなく、環境保全にも貢献できる新しい食のライフスタイルとして、今最も注目されているフードカルチャーです。
そんなプラントベースの“ラーメン”を作ってしまったのが、ご存じ博多 一風堂。1985年に福岡・大名で創業し、今では日本を含む世界15カ国・地域に展開しているグローバルブランドです。創業者の河原成美氏が、“ラーメン業界に一陣の風を吹かせる”という思いを込めた屋号の通り、これまでも斬新な取り組みでラーメンシーンを賑わせてきました。そんな一風堂が2月から販売している「プラントベース赤丸」は、動物性の食材を一切使わずに、豚骨ラーメンの見た目や味わいを再現したという異色の一杯。まずはどういったラーメンなのか、さっそく食べてまいりました。
まずは実食! プラントベースラーメンのお味はいかに?
やってきたのは一風堂 西通り店。店頭にもポスターが大きく掲示されています。キャッチコピーは、「とんこつのようで、とんこつじゃない。植物由来の原料で作られた未来志向のラーメン」。卓上のメニューの裏面には細かな商品の解説が書かれています。商品が出てくるまでの間にじっくりと読み込みます。
そうこうしているうちに「プラントベース赤丸」が着丼! 見た目は普通の豚骨スープですが、実はこのスープのベースとなっているのは“豆乳”。植物性油脂と大豆タンパクの研究開発を60年以上続けている不二製油との共同開発によって生まれたスープで、さらに昆布だしやポルチーニ茸を加えることでコク深い味わいに仕上げています。何も知らずに食べていたら、普通に豚骨スープと思い込んでもおかしくないくらいに濃厚な味わいです。
麺も通常の一風堂とは異なり、全粒粉を配合した玉子不使用のストレート麺。さらに食物繊維を加えているということで、心なしか優しい味わい。チャーシューのように見えるトッピングは、ペーストしたインゲン豆や小麦タンパクを合わせ、肉のような繊維質を再現しもの。サクッとした食感で、しっかりと旨味も感じられます。
これまでプラントベースの食べ物と聞くと、必ずと言って良いほど味わいやボリュームの面での物足りなさが語られがちでしたが、しっかりと一杯のラーメンとして満足度の高い仕上がりになっています。
商品開発本部長・栁本啓輔さんに聞いてみた!
なぜ今、一風堂はこのようなオリジナリティのあるラーメンを出したのか? 一風堂の商品開発を司る、栁本啓輔さんにお話を伺いました。
栁本 「一風堂は2008年にNYで海外進出を果たし、今では日本を含めると15カ国・地域に展開させていただいてます。元々福岡・大名が発祥の地ですから、海外でももちろん豚骨ラーメンをメインに勝負をしていますが、一方で文化の違いや宗教上の理由で、動物性の食材を一切取らないという方も世界にはたくさんいらっしゃるんですね。一風堂は、“ラーメンを世界食に”という思いで海外展開も積極的に進めてきましたので、ラーメンという日本の誇る食文化をより多くの方に届けたいと考えたときに、豚骨以外のラーメンも必要だということで、ビーガンやベジのラーメンも開発するようになりました。その延長上に今回の商品もあると言えると思います。」
ーーー発売開始から約1カ月。お客さんの反応はいかがでしょうか?
栁本 「大袈裟にではなく、かつてない反響があります。発売直後から、HPを通じて全国のお客さんから『美味しかった』『このラーメンを作ってくれてありがとう』『ぜひレギュラーメニューに』といった声が、本当に毎日のように届いています。中には外国人の方がわざわざ英語で声を届けてくださるケースもあって、こんなに嬉しいことはないですし、食の選択肢が広がることがこれほどまで求められていたのかという発見もありました。これだけニーズがあるのならと、プラントベースラーメン専門店の構想も始まっています。」 プラントベースフードが広がりを見せている背景には、世界的な人口増による将来的な食糧不足の問題や、畜産による温室効果ガスの発生を抑制といった環境保全への期待も大きいと言われています。海外展開をきっかけにそのような世の中のニーズを実感し、さらに柔軟に応えることで新たな価値を生む。しかも、一風堂のスタンダードである“豚骨”を一切使わないという英断を下してまで…。それってなかなか簡単にできることではないのでは?と、栁本さんに投げかけたところ、意外な答えが返ってきました。
一風堂だから豚骨しか出さない、なんていう考えは全くない。
栁本 「一風堂=豚骨、という印象はもちろんあると思うんですが、実は一風堂ってこれまでにも豚骨以外のラーメンはたくさん作ってるんですよ。『コンソメ中華そば』や『茸香るベジ麺』といったラーメンを季節限定で出しましたし、一日限定のイベントで作ったものも入れると、もう思い出せないくらいあります。一風堂の経営理念に『変わらないために、変わり続ける』という言葉があるんですが、これは、お客様に飽きられることなく長く支持されるためには、時代と共に少しずつ変化していかなければならないという意味です。だから、博多 一風堂だから豚骨しか出さない、なんていう考えは全くありませんし、そもそも1985年に創業したときから、豚骨と一緒に醤油ラーメンを出していたくらいですからね 。」
大名本店には、醤油ラーメンが復活していた!
そうなんです。実は今年の1月、一風堂の大名本店はラーメンを一新し、本店限定メニューとして「博多醤油らぁめん」なるメニューも登場しています。ベースは豚骨ですが、豚清湯スープ(豚骨が白濁する前の透明なスープ)と、地元・大名のジョーキュウ醤油を合わせた醤油ラーメン。これもまた、従来の一風堂のイメージを覆す、クリアで優しい味わいの一杯でした。
“豚骨だけにこだわらない”という一風堂のしなやかな姿勢。それこそが、福岡や日本に止まらず、世界各国にファンを増やし続けている要因なのかもしれません。皆さんもぜひ、“豚骨だけじゃない”一風堂の奥深いラーメンワールドに足を踏み入れてみてはいかがでしょうか? 文=前園 興