結婚・妊娠・産後・育児期の夫婦のパートナーシップを育む『夫婦会議』の大切さを提唱し、『世帯経営ノート』『夫婦会議ノート』などの夫婦会議のツールやサービスを開発しているLogista株式会社。今回は、ライターの森 熊太郎さんが、「家庭が社会の最小単位であり、子どもたちが最初に触れる社会そのもの」と語る、共同代表の長廣百合子(ながひろ・ゆりこ)さんと、長廣遥(ながひろ・よう)さん夫妻に、起業から現在までの道筋とこの先に描くビジョンを伺いました。
産後の危機と〝対話〟から生まれた『夫婦会議』
長年、企業・官公庁の採用支援や若手人財のキャリアデザインに取り組んできた百合子さんと、販促・採用・農業の支援、地域活性のコンサルティングなど幅広い分野に取り組んできた遥さん。 知り合って間もない頃から「一緒に仕事ができたら面白いだろうな」とお互い好印象だった二人が結婚し、翌年には愛娘が誕生。しかし、その10カ月後にはすでに、二人は離婚の危機に直面していた。
遥さん 「子どもを授かり、「よし!仕事をもっと頑張るぞ」と、夫として、父として、一生懸命に働いて稼ぐことが、自分の一番の役割と思っているところがありました。」
百合子さん 「結婚当初から”一家団らん”がふたりの共通ビジョンでした。そこに、家事・育児などを協力し合う必要も加わる中、夫の働き方には変化が見られず「家の仕事」=「妻の仕事」の構図がしばらく定着してしまったんです。 でも、こんな夫婦・家族のカタチをめざして結婚したわけではない、と。夫に対しては「産後クライシス(※1)」状態。夫が勤める会社にも、子育て支援に手薄な政治にも、不満や怒りが募っていきました。」 (※1 産後クライシス……出産後2年以内に夫婦仲が悪化する現象を指す、2012年にNHKが提唱した用語。) 産後の心身のバランスの乱れとワンオペ育児が続く中、産後うつ気味にもなっていた百合子さん。子どもの予防接種や保育園のこと、家の購入、自身の仕事復帰のことなど「話し合い」を持ちかけようにも、仕事で帰宅が遅く「家のことは任せるよ」というスタンスの遥さんとの間ですれ違いが増え、百合子さんの脳裏には何度も”離婚”という言葉がよぎった。 遥さん 「もともと”一家団らん”は僕自身の夢。生まれ育った家庭でも、最初の結婚でも味わえず、次こそ実現したいと意気込んで彼女と再婚しました。でも、子どもが生まれたら自然に手に入ると思い込んでいて、「妻だけでなく夫の自分も働き方を変える必要がある」ということを本当の意味で理解できていなかったんです。」 話し合うタイミングさえつかめなかった二人が、それまでのすれ違いに終止符を打ったのは産後10カ月目のこと。百合子さんが運転する車の助手席で、「家庭も仕事も両方大切にしたいのにうまくいかない」と遥さんが号泣。お互いに”一家団らん”を大切に思っていることを心から確認し合えた30分間の”対話”で、産後の危機から脱することができた。 遥さん 「仕事も家庭もうまくいかない、大切にしたいはずの”一家団らん”にも向き合えていない。自分がどうすればいいのかまったくわからない。そんな僕に妻は「一緒に一家団らんを実現しよう」と、たびたび”対話”を持ちかけてくれていました。」
何度も話し合う中でふたりが気づいたのは”対話”の大切さ。”一家団らん”ひとつとっても表面的な言葉のやり取りで共有できているつもりにならず、互いに協力し合える行動レベルにすり合わせるプロセスが重要であること。妻と夫という関係に、親という役割が加わるタイミングで”対話”を通じて夫婦のパートナーシップを向上させていくことが、新たな家族として加わる子どもたちの安心・安全な育ちにつながると気づいたのだ。 こうして自分たちが繰り返してきた夫婦の”対話”を『夫婦会議』と名付け、その意味や手法を広めようと考えた二人。子どもが最初に触れる最小単位の社会である”家庭”をより良いものにする。さらにこの取り組みを単なる啓発活動ではなく、ビジネスとして成り立たせることに徹底してこだわったのは、その仕事が誰にどう役立つのか、社会をどう変えていけるのかを常に意識しながら仕事をしてきた二人にとって当然のことであった。
上手な話し合いで信頼関係を深めて欲しい。『夫婦会議』ツールの開発へ
夫婦で起業し、本格的に事業を開始した百合子さんと遥さん。手始めに自主開催でスタートさせた『夫婦会議』の講座やイベントは当初から盛況で、実体験をもとに提唱する『夫婦会議』の重要性に、参加者から大きな反響が寄せられた。 やがて夫婦のパートナーシップに注目する自治体、企業、産婦人科、子育て支援団体などから、研修や講座、講演の依頼が入るようになり、『夫婦会議』の意義と実践を広く呼び掛ける機会に恵まれるようになった。
百合子さん 「『夫婦会議』では、最低限2つのポイントを踏まえて取り組むことを推奨しています。一つは、「世帯経営」という考え方を土台にすること。そしてもう一つが”対話”を重視することです。 「世帯経営」とは、”わたし”だけでなく”わたしたち”で未来を創るという姿勢で、夫婦の理想をカタチにする思考法。そして”対話”とは、価値観の違いを尊重し、互いに納得のいく結論を導き出していくコミュニケーションのこと。 「これまで散々話し合ってきたけどうまくいかなかった」というご夫婦でも、上手な話し合い方が身につきさえすれば”わたしたちとしての答え”を創り出していけるようになります。」
やみくもに話し合った結果、夫婦関係そのものを諦めそうになっている人は少なくない。一方、回を重ねるごとに「私たちとして、どうする?」という共同経営者感覚が育まれ、夫婦間に新たな協力体制築かれていくのが『夫婦会議』だ。二人が生み出した『夫婦会議』と『世帯経営』は、言葉だけが独り歩きして「うまくいかない話し合い」を繰り返すことのないよう、ともに商標登録されている。 遥さん 「『夫婦会議』には、夫婦で子育てを実践する上で大切な考え方・行動・対話の手法が詰まっていますが、全てのご夫婦が一回の講座で『夫婦会議』のコツをつかめるわけではありません。 そこで、講座に参加しなくても楽しく『夫婦会議』を学び、習慣化してもらえるツールを開発しようと考えました。」 「具体的に何をどう話し合えば良いのか分からない」「対話が重要なのはわかるが、当たり障りのない会話で終わりがち」「筋道を立てて冷静に話し合うのは意外に難しい」「つい感情的な議論になってしまう」「せっかく話し合って決めごとをしても、忘れてしまう」。そんな声に耳を傾け、開発した夫婦会議のツールの一つ目が、妊娠・産後・育児期の夫婦を対象とした『世帯経営ノート』である。
内容は、ビジョン・家事・子育て・仕事・お金・住まい・セックス・自由時間・美容と健康・人間関係など、産後にズレが生じがちな10のテーマで構成。テーマごとに用意された質問に順に答えながら話し合っていくうちに、夫婦間の認識や価値観が共有でき、自然と”わたしたちとしての答え”に行き着けるよう工夫されている。 その後、ライフステージや世代を問わず、すべての夫婦を対象とする『夫婦会議ノート』も開発した。こちらは、自由に議題を設定できる点が特徴。「年末の大掃除」「子どものお小遣い」「亡父の香典返し」「車の購入」「母の介護体制」など、身近なテーマについて気軽に『夫婦会議』が進められる。『世帯経営ノート』を一冊完成させた夫婦にも「夫婦会議を続けやすい」と評判だ。
全国に広がる『夫婦会議』。夫婦のパートナーシップの大切さを知る仲間と次のステージへ
Logista株式会社は、2015年7月7日(夫婦の願いが叶う七夕の日)の設立以来、着実に事業を展開してきた。『夫婦会議』や『世帯経営』という概念を、ビジネススキームとして確立した草創期。サイトやSNSを積極的に活用しながら、リアルタイムな情報発信と独自のネットワーク構築を実践してきた成長期。そして今、事業展開は新たなフェーズに進んでいる。 遥さん 「昨年、夫婦会議ツールのユーザー数が1万組を突破しました。でも、年間の婚姻数や出産数と比べればまだまだ。今年から『夫婦会議』の広がりを加速させるべく、「一緒に広げたい」と思ってくださっている個人の方とも、積極的に連携する仕組みをスタートさせました。」 もともと全国各地の自治体や企業、NPO、産婦人科、助産院、産後ケア施設、保育機関などと連携する「夫婦会議推進プロジェクト」を展開してきた。 そこに今年は、『夫婦会議』の実体験を次の夫婦へとつなげる「夫婦会議アンバサダー」の活動や、自身のお客さまの『夫婦会議』の実践をサポートする認定講師「夫婦会議サポーター」の資格制度など、個人ユーザーや個人事業者を対象とした連携メニューを追加した。問い合わせは後を絶たず、こうした新たな取り組みが多様な広がりを見せ、『夫婦会議』への認知と共感をさらに高めるに違いない。
1年間じっくりと活動することになる「夫婦会議アンバサダー」の活動。第1期メンバーには定員を大幅に超える応募があり『夫婦会議』を次の夫婦につなぐ想いを持った男女15名が就任。柔軟で共感性の高い新たな仕組みが、次々に始まっている。 百合子さん 「私たちが目指すのは「より良い夫婦のパートナーシップ」はもちろんのこと、「家庭内のより良い子育て環境」を実現できる夫婦であふれる社会です。 産後うつや虐待、DVなどの母子の命にかかわる危機や、産後クライシス、セックスレスなどの産後離婚につながる危機が、身近な問題として存在しています。 その中で「親になる夫婦がどのような家庭環境を子どもたちに創り出していくのか?」という問いに対する答えを、自助努力に委ねて突き放すことのないよう挑戦を続けていきます。」 起業から今に至るまで常に見据えているのは、『夫婦会議』を通じて、子どもたちにより良い家庭環境を創り出していける夫婦の姿だ。子どもは、親が思う以上に夫婦(両親)の関係性を敏感にキャッチする。子どもが将来、他者と協力し合い、対話によって人生を心豊かに生きていく人間に成長するには、一番身近な存在である夫婦(両親)が「対話によって協力する姿」を見せるのが一番だ。 「子どもの未来は、日本の未来。子どもたちの未来を思うなら、まず、親になる夫婦を支えることが肝心」と語る百合子さんと遥さんは、夫婦会議と子育て支援を掛け合わせた領域から、日本の未来づくりに取り組んでいる。”対話”なしに夫婦間のパートナーシップは育まれない。夫婦の対話を育む『夫婦会議』は、日本の未来に向けた事業戦略。Logista株式会社の歩みはとどまることを知らない。 文=森 熊太郎
Logista株式会社 <ロジスタ>
https://www.logista.jp ■設立/2015年7月 ■住所/福岡市中央区天神2-3-36 ibbfukuokaビル5階 ■電話/092-776-5578