私が小学2年生の頃、年明けに家族で出かけたデパートの初売りバーゲン会場。大混雑のなかよその子と間違えられたのか、知らない女性が私の手をつかんだまま離さず、幼い私はおろおろ。今ではちょっとした笑い話の懐かしい経験をお話します。
正月明けは家族で初売りセールへ
年末年始は祖母の田舎で過ごし、帰省から戻ると神社に初詣。その後、デパートで掘り出し物のお得な初売り商品探し。これが、幼い頃の家族行事のルーティンでした。
姉は母と、私は父と手をつなぎ、大勢の人でごった返す正月明けの店内を、迷子にならないように歩きます。
昭和の後半。もちろん携帯電話などない時代、はぐれたら大変なので、家族でぞろぞろ行動。もしくは、何時に何階の何処で待ち合わせと決めて。今思い返すとのどかな時代ですね。
左腕がいきなり誰かにつかまれた!
その年も、例年通りの神社参拝後デパートへ。小さな帽子を頭に載せた美しいエレベーター嬢(今では死語?)が、透き通る声で
「上へ参ります」。やがて開いた扉の向こうには、広大な初売りバーゲン会場が広がっていました。
とにかく様々な商品のワゴンがあり、どのワゴンも人だかり。山積みのセール品をさぐり、ワゴンの四方を取り囲む人でいっぱいで入り込む隙間がないほどです。
バーゲンに挑む人の熱量は、もはや戦闘モード。私たち家族は、ワゴンが所狭しと並ぶ通路を、めぼしい商品ワゴンを品定めしながら歩き回りました。
その時! 私の左腕が、誰かにいきなりつかまれたのです。
私の腕をつかんで離さない他人
私の右手は父の左手に包まれていましたが、いきなり左腕をつかまれて、前へ進めなくなりました。父は突然の私の停止に驚いて振り向きました。前を歩く母と姉の姿がみるみる遠ざかっていきます。
私の左側をみると、ワゴンを囲む人の群れから、後方に突き出た女性らしき右腕が。そしてその手は、私の左腕を強くつかんで離しません。私が振りほどこうと身をよじると、さらに強い力でぎゅっと握りしめてきます。
洋服山積みのワゴンに左手と頭を突っ込みながら、恐るべき握力の右手で、私の腕を決して離さないその人。父は私の右手を強く握りながら、焦った顔で人の輪の隙間に押し入り、その人の肩あたりを揺さぶりました。
さすがに驚いたのか、ようやくワゴンから離れて輪の外に出てきたのは、母と同じくらいの歳に見える女性です。
ようやく私は自由に
女性は、自分の右手が知らない女の子の左腕をつかんでいる異常事態をすぐには飲み込めない様子。そして、戦利品らしき洋服数枚をつかんだ左手と見比べ、慌てて私の腕を離しました。
女性は、仏頂面の父と泣きそうな顔の私に、代わる代わるペコペコ頭を下げ、謝り続けました。そしてハッとしたように、オロオロどこかへ。きっと、わが子を見失ったことに気づいたのでしょう。
その後、再会できた母と姉に
「子どもを間違えるとは、何考えてんだ!」と、興奮した顔で状況説明する父。なぜかそれを楽しそうに聞く母と姉。私を心配しないの? 人見知りの性格だった当時の私は、知らない女性からつかまれた腕が痛く、何よりたまらなく不安だったのに! とモヤモヤした気持ちに…。
その後、美味しいものがあれば機嫌が直るのを知っている両親は、去年はどうせ残すからと却下されたプリンアラモードを
「今年は食べていいよ」と特別に頼んでくれました。
それにしても、あの女性はちゃんとわが子と再会できたかな。毎年、初売りの季節になるとよみがえる懐かしい思い出です。
(ファンファン福岡公式ライター/山ナオミ)