福岡市地下鉄大濠公園駅から徒歩約2分、白い壁のモダンな建物に大きく書かれた「愛とうなぎ」の文字。2020年12月1日にオープンした同店(福岡市中央区)は、すし店が運営しているうなぎ専門店です。
焼き場が見える大きな窓、そこから漂う、香ばしいうなぎの匂い。この香りに誘われて、店に入る前から期待感が高まります。店内はカウンター9席のみ。ニューノーマル時代に生まれた店らしく、客席の前にはしっかりとパーテーションが施された安心感の高いしつらえです。うなぎ店はなんだかハードルが高いのでは? という若い世代も気軽に楽しめる雰囲気で、既にSNSでも話題になっています。
なぜすし店がうなぎ専門店を立ち上げたのか、その理由はコロナ禍で客の流れが一変したことがきっかけでした。オーナーの木宮一洋さんが19年にオープンした「鮨(すし)料理 一高(いちたか)」(福岡市中央区)は、首都圏からや海外からの客などにも注目されていた高級店。しかし、20年5月の緊急事態宣言前の4月時点で一時休店。何できるかを改めて考え、まずはテークアウトに着手したといいます。
「すし店が本気で考えるお弁当で、まず地元の方々に喜んでいただきたいと『金シャケ極上のり弁』や『キングあじフライ』など、こだわりの弁当の提供を始めました」と話すのは企画広報の木宮佳菜子さん。さらに、それらを約200食ほど医療従事者や宅配業者などへ無償配布する取り組みを自腹とクラウドファンディングで実施しました。
その際、最も喜ばれたのが「うなぎ弁当」だったそうです。 「『鰻田(うなだ)官兵衛定食』と名付けて店で提供していたら、あまりの人気にすし店なのにいつも煙たいほどに(笑)。そこで、徹底的に本気を出したうなぎ専門店を立ち上げようということにしました。先が見えない今だからこそ、愛が必要だと考えます。みんな元気になってほしい、私たちの提供するうなぎで世の中を元気にしたい。店名そのものが私たちのコンセプトです」と木宮さんは熱く語ります。
同店の食事メニューはウナギを1匹丸ごと提供する「うなぎ丼」とタレを付ける前の白焼きで提供する「長焼き」のみ。一番人気はウナギを1匹丸ごと使った「うなぎ丼 一本」(3,630円税込み)。使うウナギは国産、しかも上質なウナギを扱う名人として知られる「泰斗商店」(鹿児島県大崎町)の横山桂一さんが目利きした物を仕入れています。
2種類の備長炭を巧みに使い、火力を自在に操りながら焼き場に立つのは、店主の池田圭士郎さん。「外側、主に皮目は香ばしくカリッと。身はふんわりと焼き上がるのが炭火調理の利点です。完全自家製で2日に1度作って味の調整をし続けている自家製のタレをしっかりからめて焼き上げます」と話します。
「タレは本当に微妙な味の調整。いまは甘さを詰めて辛めに寄せ、とろみを追求しています」。
注文を受けてから炊き始める米は、佐賀県産の無化学肥料・無農薬の「ゆめしずく」を使用。しかももみ殻がついたまましばらく寝かせて、あえて水分をほどよく飛ばしたものを使うそうです。こうすると南部鉄器の釜で炊くときにきれいに粒がたった米になるそうで、さすが、すしの世界で培われた経験とこだわりです。
鉄器は効率よく熱が伝わるので約15分程度でコメが炊き上がります。さらに冷めても米の甘さが際立つため、この炊きたての米だけのテークアウトメニューもあるほどです。
同店のこだわりは、うなぎだけでなくみそ汁にも。滋賀県彦根市から取り寄せる「鮎(アユ)節」と昆布でとった「鮎だし」と宮崎県産の合わせみそを使用。うなぎの濃厚なうま味とタレに負けない、鮎のおいしさが濃縮した味わいです。一緒に提供される自家製のぬか漬けも、山椒の(サンショ)風味がほのかに感じられ、味のバランスの良さにうなります。
ちょっと一杯、という人に朗報。アルコールを注文した方には、サービスで「うなぎの肝の串焼き」が提供されます。1皿に4匹分のうなぎの肝が盛られていて、肝好きにはたまりません。店頭のメニューには載っていない、お得情報です。
皿からはみ出るボリュームなので、子連れの方は取り分けもOK。その際は、子ども用にタレをかけたご飯とみそ汁はサービスで提供されます。味へのこだわりだけではなく、店名同様とことん「愛」に満ちた、新時代のうなぎ専門店です。
DATA 座席…カウンター 9席 平均予算…3,500円 個室…なし
愛とうなぎ
住所:福岡市中央区大手門3-9-10 電話:092-707-2886 営業:11:00~16:00(L.O.15:30)、テークアウト ~19:00(うなぎ売り切れ次第閉店) 火曜休 インスタグラム @love_and_eel