在宅勤務、会議はオンライン、営業活動もオンライン、プライベートで受講するセミナーもオンライン、飲み会もオンライン。すっかりコロナ禍の生活に慣れてきた私たち。そんななか、同窓会などの在り方も変化してきています。今回は、最高齢88歳、参加者の6割が60代以上というオンライン大学同窓会の話題です。女性活躍ジャーナリストである村山由香里は、昨年度より、この同窓会組織、九州大学女子卒業生の会「松の実会」の事務局長をしています。
54年前、男女差別入試に声をあげて誕生した「松の実会」
九州大学女子卒業生の会「松の実会」(以下、「松の実会」と表示)は、九州大学、大学院を卒業した女子だけの同窓会です。昭和42年(1967年)、薬学部の入試要項に「男子が望ましい」と書かれていたことに男女差別だと意義を申し立てた薬学部卒業生の集まりに端を発し、その運動が全学部に広がり女子だけの同窓会が創設されました。
「松の実会」は、男子率の高い九州大学において、少数派の女性たちが、学部を超え、世代を超えてつながることのできる同窓会です。会員の年会費(2,000円)のみで運営し、理事は2年ごとに学部が持ち回り、半世紀を超え、つないできました。今年度理事は薬学部で、来年度から教育学部にバトンタッチします。 九州大学は創立110年。女子卒業生の総数は2万人を超えます。「女子の卒業生は全員会員」が原則の「松の実会」は、ビッグな会員数を誇る同窓会組織なのです。地元福岡の、西南学院大学、福岡大学の女子卒業生の会ともつながり、交流を深めています。
今年度の総会はオンラインでしよう!
「松の実会」では、毎年、総会と同時に講演会、懇親会を開催しています。今年2月の総会は昨年早々にオンラインでの開催を決定。密にならないような会場で開催するか、懇親会なしにするか、中止にするか、先が見えない中で悩みに悩んだ結論でした。 会長の女賀信子さん(76)にその経緯をうかがいました。
女賀会長: 「総会には毎年100名近くの会員さんが集まられ、交流を深めます。総会議事だけでなく、講演あり、懇親会ありの楽しい会です。昨年2月、福岡で開催された東京大学名誉教授 上野千鶴子さんの講演をお聴きし、ぜひ来年は上野先生を「松の実会」でお迎えしたいと思いました。 即決をいただき、準備に入ったところで新型コロナ感染があっという間に拡大していきました。“すぐには収束しそうにない、でも、どうしても上野先生の講演を実現させたい”とオンライン総会開催に踏み切りました。」
「毎月の理事会は、感染拡大が始まってからはzoom会議に変更しました。はじめは難しかったのですが、理事のみなさんが頼もしくてたくましかった。私も間違ってもいいから発言し、触っていこうと慣れていきました。会報の企画や校正もすべてzoomででき、効率よく会議ができたと思います。 わかりやすく案内をするにはどう書いたらいいのか、総会案内の打ち出し方に苦慮しました。敬遠される方もいらっしゃるだろうなとも思いました。一方で、若い方や、今まで参加できなかった福岡以外にお住まいの方も参加できる可能性があると期待しています。」
令和2年卒から昭和30年卒まで。幅広い参加者の顔ぶれ
昨年11月に総会案内を掲載した会報を発送したところ、開催1ヶ月前の時点で申込総数130名。いまだかつてない反響の大きさとスピードです。しかも、6割は60歳以上で、最高齢は88歳。昭和30年代、40年代卒業の方が思いのほか多く、そのチャレンジ精神に頭の下がる思いです。 「高齢者は新しいものに挑戦する意欲が低い」などと言われますが、そんな一般論なんか吹き飛ばしてくれますね。令和2年卒をはじめ、20代とおぼしき方も10人以上いて年齢の幅は広い。 3人の方にお話をうかがいました。 最高齢88歳の昭和30年文学部卒、元筑紫女学園大学教授の石橋美恵子さんは、開口一番、「いやー、うまくできるかどうかわからないのよー」と不安ながらも楽しそう。 石橋さん: 「私たちの学年は、女子学生は全学部合わせて27人でした。翌年から倍々に増えていきました。少数民族だったからみんな仲が良かったのよ。総会には、ほぼ毎年参加しています。 うまくできるかどうかわからないけど、女性差別反対の思い、創設の思想を大事に思うし、上野さんの話も聴いてみたいしね。zoom事前勉強会にも申し込みましたよ。初めての経験にトライします!」 頭も声もクリアで今年89歳になられるとは思えないお元気さにこちらが元気をいただきました。
菊川律子さん(69歳) 昭和49年教育学部卒は、来年度より理事を務めます。 菊川さん: 「この1年で、きっとみなさん、リモートに慣れたんですね。女性団体など、団体活動は、コロナ禍でどこでもすっかりリモートになっていますよ。私たちの世代は、さまざまな団体活動をされている方が多く、私が所属している団体でもいち早く変化に対応してきました。仕事をしている人のほうが遅いくらい。 それに、意識の高い方が多いので、上野千鶴子さんの講演は聞き逃せないと思われたのではないでしょうか。若い世代の方も増えてきたとのこと。楽しみですね。」 坂本美登利さんは平成2年教育学部卒業の53歳。フリーランスでライターや相談業務をしています。
坂本さん: 「オンライン総会と聞いて、いいなと思いました。実は総会には数回しか参加したことがないんです。「松の実会」ってうっすらとは知っていたけど、敷居が高くて参加しようという気にならなかった。社会的に名を馳せた錚々たる方ばかりが参加されているのではないかと勝手に思ってしまい…。 参加してみれば、いろんな方とお話できて楽しかった。今回は、遠くの方や若い方も参加しやすいですよね。「松の実会」の新しいカタチができるのではないでしょうか。九大卒女性は人財の宝庫です。結びついたら何かやれそうですよね。」 ほんとにそう。若い人こそ、学部や世代を超えて先輩とつながってほしいと思う。つながりは仕事にプライベートに自分の世界を豊かにしてくれます。
コロナ禍を新しいチャレンジのチャンスに
前述の女賀会長 「ポストコロナ時代に、今回のオンライン総会は、「松の実会」のターニングポイントになりそうな気がしています。会議もオンラインだと、仕事に子育てに忙しい働く女性の参加障壁が小さくなります。集まらなくてもできるという実例ができたので、ぜひ、次の理事のみなさんにも伝えていきたいですね。 ただ、ジェンダーバイアスの強い日本では、女性にしわ寄せがきています。最初の緊急事態宣言が発令され、学校が休みになった時、家で子育てを引き受けたのはほとんど女性だったのです。私は薬局を経営していますが、子育て中の薬剤師は1ヶ月休みました。 今回、こういうことが浮き彫りになったので、「女性だけが子育てするのはおかしいぞ!」と意識して、これからはもっとフェアな時代が来るのではないでしょうか。」
コロナ禍をプラスに転じ、社会が変わるきっかけになったら
今回、大先輩方の、わからないものを拒否するのでなく、やってみようとチャレンジする姿勢に、尊敬の念を禁じえませんでした。 そして、ミシェル・オバマさんの名言を思い出しました。 「新しいことにチャレンジしなさい。恐れてはだめ。居心地のいい場所から抜け出して、高く舞い上がること。いいわね?」 子ども向けに言われた言葉ですが、年齢を問わず心に響く言葉です。 知らないことを知るのは楽しい。 新しいことができるようになるのは楽しい。 チャレンジの先には、新しい世界が拓けています。 私も、いくつになっても、新体験にチャレンジする気持ちを持ち続けたいなあと思います。
—- 【九州大学女子卒業生の会「松の実会」オンライン総会】 日時:2021年2月14日(日)14:00~17:00 内容:総会、講演、海外からのレポート、おしゃべりタイム 講師:上野千鶴子さん(東京大学名誉教授) 講演テーマ:「もっと輝け女性たち〜日本が女性活躍後進国を脱するために〜」 総会について:https://koyukai.kyushu-u.ac.jp/alumni/24/association_news/detail/974 文=村山 由香里