「筑豊の炭鉱王」と呼ばれた伊藤伝右衛門(1861~1947)の旧邸宅が、謎解きゲームの主舞台になった。ぜいを尽くし、福岡県飯塚市に構えた建物は、妻だった歌人柳原白蓮(びゃくれん)と過ごした場所。ここに、どんな「宝物」が眠るというのか。スマートフォンを握り、QRコードを読み取りながら手がかりを集めた。
「旧伊藤伝右衛門邸に残された宝物を探せ!」―。こんなタイトルが付いたゲームは、新型コロナウイルス禍で年約64万人(2021年)に半減した観光客を呼び戻そうと、飯塚市が主催した。旧邸宅はメイン会場。このほか、市歴史資料館、長崎街道内野宿など市内4カ所の観光拠点のうち1カ所を訪ねて謎解きをしながら、「飯塚」への関心を高めてもらおうという狙いだ。
専用サイトで仮想空間を巡る「3Dオンライン版」と、実際に各施設を訪ねる「AR(拡張現実)リアル版」の2種類あり、今回は、リアル版に挑んだ。
深い歴史
旧邸宅に向かう前、まずはJR新飯塚駅から徒歩5分ほどの場所にある市歴史資料館を訪ねた。
入り口にはQRコードがあった。スマホのカメラで読み取ると、画面に男性キャラクターが現れた。スーツ姿で鼻の下にひげを蓄えた風貌…。どこか見覚えがあると思ったら、伝右衛門がモデルらしい。このゲームで謎解きの手がかりがある場所を示唆してくれる妖精「デン紳士」という。
手がかりは観光拠点1カ所につき四つ。はやる気持ちを抑え、館内を歩いた。
この間、館内の豊富な展示物が気になった。市内にある弥生時代の遺跡群「立岩遺跡」から出土された土器や甕棺(かめかん)などを、地域の深い歴史を感じながら眺めていると、あっという間に30分以上が過ぎた。軌道修正して手がかりを集め終え、メイン会場へ向かった。
巨万の富
旧邸宅では、案内役のアシスタントリーダー、瀬下嘉浩さん(43)が玄関で迎えてくれた。
明治、大正、昭和にかけ、日本最大の出炭量を誇った筑豊地区で、伝右衛門は巨万の富を築いた一人。
旧邸宅はそんな伝右衛門の栄華のシンボルとも言え、明治期に建てられた後、増改築を重ね、1934(昭和9)年ごろに完成したとされる。2020年12月には主屋などが国の重要文化財に指定された。瀬下さんはそうした概要を簡潔に説明してくれた。
「季節外れの桜を探せ」―。ここでもデン紳士が現れ、指示してきた。早速、「桜」を探して建物の中を歩くと、造花を飾った和室があった。ここに手がかりがあるようだ。
この間、やはり気になったのが、建築美だ。アールヌーボー調の暖炉やイギリス製のひし形ステンドグラスがある応接間など、和洋折衷の調和が取れた美しさが目を引く。
ハイカラ
1911(明治44)年に伯爵の娘だった白蓮と結婚した伝右衛門。何度も重ねた増改築は「妻のため」ともされ、2階の白蓮の部屋からは国指定名勝の庭園が一望できる。シャンデリアや、金具の引き手に帆掛け船をあしらったふすまなど、「ハイカラで細部までおしゃれにこだわった伝右衛門の人柄があらゆるところに感じられる」と瀬下さんは説く。
そんな室内にARのデン紳士を登場させると、当時の風景がよみがえるようだ。思わず何度もスマホ画面をスクリーンショット(画面保存)した。
資料館と旧邸宅で計八つの手がかりを集め終えた。それぞれ突き合わせてみると、あるキーワードが浮かんだ。謎解きの答えは、飯塚になじみ深かった。
飯塚市商工観光課の伊藤拓也主任は「ARのデン紳士はかつて伝右衛門が使った『主人居間』に立たせるのがお勧め」と話す。1度、挑戦してみては。(大橋昂平)
「旧伊藤伝右衛門邸に残された宝物を探せ!」
福岡県飯塚市が観光推進を目的に制作したゲーム。専用サイトの「3Dオンライン版」と施設を訪ねる「AR(拡張現実)リアル版」の2種類あり、旧邸宅、市歴史資料館、ザ・リトリート、長崎街道内野宿、サンビレッジ茜―の計5拠点を対象に謎解きを楽しむ。
答えを専用ホームページに入力すると、抽選でカレーやコーヒーなどの特産品が計200人に当たる。参加無料。リアル版は施設の入館料が必要。3月15日(水)まで。
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