福岡の書店員さんに、福岡ゆかりの本を紹介してもらうファンファン福岡の「福岡キミスイ本」シリーズ。第5回は、天神の真ん中に店舗を構える「ジュンク堂書店福岡店」の細井実人店長を訪ねました。
精神科医で九大にもいた、あのフォークグループのメンバー自伝
『きたやまおさむ「心」の軌跡 コブのない駱駝(らくだ)』 きたやまおさむ著
―細井店長、今日はよろしくお願いします。ここは3階の「心理」コーナーですね。 そうなんですよ。実は、福岡や佐賀には多くの精神分析家がいらっしゃいまして。
―え、いくら福岡ゆかりの本とはいえ、精神分析の専門書は少々ハードルが… いえいえ、ご安心を(笑)。今回ご紹介するのは、自伝です。『きたやまおさむ「心」の軌跡 コブのない駱駝(らくだ)』(岩波書店・1,800円+税)です。2016年11月に出版されています。
―きたやまおさむ、何だか耳にしたことがあるような… 「帰ってきたヨッパライ」でおなじみのフォーク・クルセーダーズ(以下フォークル)のメンバーで作詞家として名高いので、フォークソングが好きな方などは、ご存じかと思います。バンド解散後には精神科医になられて、九州大学で2010年まで20年近く精神分析学の教壇に立っておられたので、九大関係者などにも特に知られていると思います。 精神分析の分野では北山修という漢字の本名で活動されていて実績のある方。本書はご自身の人生を振り返る“分析的自伝”、“北山修によるきたやまおさむの心の分析”と説明されています。
―なるほど安心しました! それでは内容を少し教えてください。 思春期、加藤和彦との出会い、フォークル時代、精神科医になって、福岡に通った九大時代のこと。特にバンド時代の裏話的なエピソードは、「そうだったのか」とおもしろいですね。加藤和彦さんが自ら命を絶たれてしまった時の話や、それに関する北山さんの悲しみもつづられています。バンド時代の貴重な写真もあります。 ―細井店長が個人的にお持ちの分には、付箋(せん)がたくさん貼られていますね。 好きな箇所や気になる箇所です(笑)。福岡の海の中道大橋の描写で「陸地が福岡湾に向かって、ひょっこりと突き出ているところ、無意識が海上に思わず顔を出し、忘れられたような美しい場所」とあるのですが、分析医らしい表現ですよね。ほかにも「空しさにも意味がある」「あれかこれかではなく、あれもこれもやってみる」「潔く去って行かない」など、印象的な言葉が散りばめられています。 ―そもそも、この書を手にされたきっかけは? 最初は「なぜか売れるなあ」と気になって。フォークソングが好きだったこともありますし、あるライブ会場で北山さんがすぐ近くに座っておられたり、九大時代には当店にも足を運んでくださっていたかもと考えたり、親近感もありました。
―タイトルには、どういった意味があるのでしょう。 フォークル時代の曲名なんですよ。「コブのない駱駝は馬」「鼻の短い象は河馬」「立って歩く豚は人」という歌詞なんです。最後にこの詞を取り上げながら、「人は、ラクダか馬か、ゾウかカバか、豚か人かの選択を迫られる局面があるかもしれないけれど、『いや両方なんだ』と胸を張って堂々と主張はしなくても、その分かれ目に立っていてもいいじゃないか」と締められています。 ―何だか救いを感じるメッセージですね。 そうなんです。全体を通して、悩みがあったり、生きづらさを抱えていたりしても、「生きていることに意味があるんだろうなあ」と思わせてくれる一冊です。きつくなった時に、ふと思い出すフレーズがきっとあると思います。
※情報は2019.2.14時点のものです