お金は、あればあるだけよいというものではありません。使い道があってこそ、本領を発揮するものです。趣味の世界に、情熱と時間と、そしてお金を費やしている人たちがいます。植物コレクターの益田日向さん(福岡市)に、その幸せなお金の使い道を聞いてみました。
植物にはまったわけ
もともと母親がガーデニング好きだったため、生まれてから植物は身近にあったのですが、ある時サボテンに出合ったのが〝植物沼〟に落ちるきっかけでした。「どうしてこんなに不思議な形をしているんだろう」と調べてみると、サボテンはCAM型光合成という仕組みでエネルギーを合成していて、昼間に気孔を開く必要がないために、大きな葉が必要なく、トゲトゲの形状になること。さらに過酷な乾燥にも耐えられるということを知りました。 この機能と形が一致していることのおもしろさにはまって、サボテンを入り口に多肉植物にすっかり夢中になりました。手軽に行けるナーセリーで隅から隅まで眺めては、自分好みの個体を見つけては家に連れ帰り、オークションサイトでユニークな個体を見つけては落札し…。あっという間に50鉢くらいに増えていました。
初心者は3鉢買え
よく「植物を枯らしてしまって、育てる自信がない」と言う人がいます。気持ちは分かりますが、植物は、枯らしてしまう経験を積み重ねて、少しずつ育てるコツをつかんでいくものだと思っています。 植物の師匠から「初心者は3鉢買え」と教わりました。二つが枯れたとして、残った鉢との比較によって、なぜ枯れたのか、反対になぜ生き残ったかの条件を検討していけば、植物を育てるのが少しずつうまくなっていくからだそうです。日当たりの差、水やりの頻度、部屋のどの場所に置いていたか、などによって育ち方が全く違ってきます。 生き物を相手にしている予測不能さ、意外性を感じられるのが、植物のよさですね。
大好きな一鉢
レアなものを求めるという愛好家ではなく、自分の心が動くものを手に入れたいタイプです。どういう植物に引かれるのかなと考えてみると、どうやら「失敗を乗り越えてきた個体」や「ストーリーがある個体」が好みのようです。
例えばこれは、生育環境が過酷だったのか、根元の方が木質化してしまい、それが個性になっていて好きな一鉢です。このゆがんだ形も、キャラクターがあっていいと思いませんか?
これは「金晃丸(きんこうまる)」というサボテンですが、一般的なものに比べて足元が広がってユニークな形に育ちました。特別な鉢のように見えますが、実は元はナーセリーの片隅で枯れかけの500円で投げ売りされていたものを集めて寄せ植えにしたもの。それがこんな変化を遂げてくれるのも、植物のおもしろいところです。
これまでに失敗したこと
一時期どんどん鉢が増えてしまい、自宅なのに150鉢を越えてしまったことがありました。さすがに一鉢一鉢に目が行き届かなくなり、さらに本業のグラフィックデザインの仕事が忙しくなり、自分を生かすのが精いっぱいになって、気付けばたくさんの植物を枯らしてしまいました。何が原因で枯らしてしまったのかも分からないありさまで、その時は落ち込みました。
「仕事」にすることへの違和感
自宅で育てられる量の限界を感じていたところへ声を掛けてもらい、福岡市中央区清川にある福岡のクラフト作家たちの作品が並ぶアンテナショップ「清川リトルスタンド」に植物を移し、そこで店をやった時期もあります。同時にデザインの仕事の拠点も移し、ここで店番をしながら仕事ができればいいやとのんきに考えていましたが、思った以上にお客さんが来てくださって。うれしい誤算でした。植栽の依頼や、アパレル店で販売する植物の依頼を受けるなど、植物が仕事になりそうな時期でした。 ところが仕事となってくると、「好きで欲しい植物」と「ある程度効率よく売れる植物」のギャップが気になってきました。やっぱり好きで育て始めたものなので、クオリティーを妥協することに疑問を感じてきました。今では店舗は持たず、たまにポップアップショップができたらいいなと思っています。
費やしたお金
合計300万円くらいでしょうか。この金額には、店の内装などに使った100万円くらいも含まれています。限られた収入をいかに植物関係に回すかを考え、業務用スーパーで食品を大量に購入。食費を極力減らしました。そのための専用冷凍庫もあります。
植物を趣味にしたい人へ
植物を趣味にすると、天気や温度、風の流れや日当たりなど、いろいろなことを感じやすくなります。植物を取り巻く環境に敏感になると、毎日がより豊かに感じられますよ。 日々忙しくて時間がないという人には、サボテンがお勧めです。2週間に一度くらいの水やりで、こんなにキャラクターの強い同居人ができるのだから、いいと思いませんか?
植物と絵本とヘアサロン 店主の「好き」がいっぱい 福岡市の「TABLIER」