子どもは、親を見ています。親のしぐさや口癖をまねて、周囲を笑わせたり、親を赤面させたりすることもしばしば。数年前の子どもの授業参観で、面白い事件に遭遇しました。 授業中に響き渡った「このばか娘~!」という声。一体、誰が発したものだったのでしょう。
月に1度の授業参観
娘は当時、小学1年生でした。学校では毎月1回授業参観があり、その日も娘の普段の様子を見ようと私は学校へ足を運びました。1学期は緊張した面持ちで黒板に向かっていた子どもたちも、学校生活に慣れてきたのか、ずいぶんとリラックスしている様子。授業中でも、隣の子とこっそりおしゃべりをして、クラス全体がざわざわとしています。
娘もキョロキョロとして、後ろにいる親の中に私や旦那の姿を見つけて、うれしそうに手を振ってきました。小学生でも高学年になると、友人の前で親に甘えるのは恥ずかしいのか、
「参観日に来ないで!」と言うこともあるそうですが、まだまだかわいい低学年。親を見つけて、パッと笑顔になる姿はかわいいのですが、授業中なので
「ちゃんと前を向いて、先生の話を聞きなさい!」とジェスチャーで指示しました。
そんなざわざわと落ち着かない教室の中で、ひときわ目立っていたのが、娘の後ろの席に座っていた女の子と男の子でした。教科書を指さし、なにか小声で言い合ってはクスクスと笑っています。盛り上がってきたのか、その子たちの声がだんだんと大きくなり、そろそろ先生が雷を落とすぞ… と思っていたら、意外な場所から声が上がったのです。
「こらああ! このばかむちゅめぇーーー! ちぇんちぇーの話をききなちゃーーい!(こらー! このばか娘! 先生の話を聞きなさい!)」
意外な声の主は?!
教室中に響き渡る大きな声。つたない言葉で一生懸命叫んでいるのは誰だ、と教室を見回してみると、1人のママの足元から、ぴょこんと顔を出している3歳くらいの女の子です。
そのママは焦って
「ちょっ… ちょっと…! やめなさい!」と女の子に言い聞かせていますが、その子は止まらず
「おしゃべりは、やめなちゃいー!」と注意をしています。
突然の大きな声に、先生はもちろんクラスの子どもや親御さんたちもポカーンとしたのち、どっと笑い声が上がりました。すると女の子は、馬鹿にされた! と不満に思ったのか、
「うるちゃーーい! わらわないでーー!!」と、じだんだを踏んで怒っています。
いよいよ焦ったママは、女の子を抱きかかえ、その子の口を手で軽くふさぎながら
「授業中にお騒がせして、すみません!」と教室を出て、廊下に避難してしまいました。面白かったので私も後について廊下に出てみると、ママがしゃがんで、女の子にとくとくと言い聞かせていました。
「ママが、お姉ちゃんのことを『ばか娘!』って叱っていたのが悪いけれど、○○ちゃんがまねするのは違うんだよ。お姉ちゃんを注意するのは、先生やママのお仕事だからね」
ママに叱られて不満そうに膨れている女の子がかわいくて、つい話しかけてしまいました。
「授業中におしゃべりしているのを注意してくれるなんて、しっかりした娘さんですね」 するとママは、
「この子は、なんでも私のまねをするんですよ。私が家で『こらー! このばか娘! 宿題をやりなさい!』と叱っているのが、クラスのみんなにばれちゃいましたね」と恥ずかしそう。子どもの観察力と物まねには、まいってしまいますね。
気が付けば、にぎやかだったクラスは静かになって、授業が進んでいるようです。先ほどまで、ほっぺをパンパンに膨らませて怒っていた女の子は、ママのそばから離れて、トコトコと教室の扉のそばへ近づき、中をのぞきこむと
「ねっ○○ちゃんが怒ったから、みんな静かになったでちょ!」と得意そうな笑みを浮かべるのでした。
(ファンファン福岡一般ライター)