お腹(なか)の不調には、さまざな原因が考えられます。松坂クリニック(福岡市東区)の松坂紀幸先生に聞きました。
【消化器内視鏡専門医】 松坂クリニック 松坂紀幸先生
福岡県出身。福岡大学医学部卒業、九州大学第二内科入局。浜の町病院、千早病院勤務などを経て2015年「香椎胃腸科医院」副院長、同年9月院長就任。2017 年「松坂クリニック」と改称。高い技術とぬくもりの共存がモットー。
ある日突然出血したら…。実際に見ることのできない器官をしっかり診る。内視鏡検査で早期発見
出血は体からのSOSサイン。まず内視鏡医の診断を
お腹(なか)の不調といわれる原因は人それぞれです。例えば、炎症性ならウイルスや細菌感染、隠れた腫瘍の影響などが考えられます。辛(から)いものなど刺激性の食物、薬剤性の場合は抗生剤や胃酸を抑える薬の副作用などでお腹を壊す方もいらっしゃいます。他にもストレスからくる過敏性大腸炎などの下痢、生活習慣が積み重なって起こるひどい便秘なども考えられます。遺伝性や環境の変化など原因はさまざま。お腹を壊すと肛門などにも影響があります。 多くの方はお腹の不調や出血(下血や吐血)が不安になり、来院されます。内視鏡クリニックの患者さんは男性が多いようですが、当院は女性医師もいるためか男女比率はほぼ同じです。 まず、来院されたらはじめに問診です。生活習慣や数日の食事内容など細かく聞き取り、触診や聴診を行います。その後必要に応じて血液検査をし、絶食して来られた方はその日に内視鏡検査が可能です。不安で来られた方は、一刻も早く原因を知りたいものです。安心していただくためにも、なるべく当日検査ができるように対応します。病理検査が必要なものに関しては後日また来院していただきます。
見えない病変を可視化。早期発見がキーワード
内視鏡には、胃や十二指腸を見る「上部消化管内視鏡」と、大腸カメラといわれる「下部消化管内視鏡」があります。カメラはずいぶん進化し、小型化しています。昔、胃カメラを飲んで苦しかったからと躊躇される方も多いのですが、今は直径10㎜ 以下のコンパクトサイズです。希望があれば麻酔を使いますので、痛みや違和感を感じることなく、寝ている間に検査することができます。 大腸カメラの場合、時間をかけて薬を飲むなど一日かけての検査になるので、そこは余裕を持った検査の計画を立てましょう。 内視鏡検査以外にバリウム検査もありますが、当院では行っていません。バリウム検査は影を見る検査です。影しか見えないので診断が難しく、胃がんの早期発見には向いていません。内視鏡は見えないところを可視化するもので、大腸なら検査と治療を同時に行うことも可能です。見えない場所だからこそ病気の早期発見に繋がります。
軽度であれば薬物治療。状況に合わせて外科的手術や負担の少ない内科的手術も
内視鏡による手術で合併症などのリスクが低減
内視鏡検査では、早期のがんやポリープなどを早期発見することができます。大腸がんの原因のほとんどは大腸ポリープです。そのため早期に大腸ポリープを発見し切除することは直接大腸がんの予防につながります。微細な病変でも確認できれば、すぐに治療へ進むことができます。特に、早期に見つけるべきは食道がんです。早期食道がんは、とても分かりづらく早期発見が難しいといわれています。食道壁は薄いので少しでも進行すると外科的手術になります。外科手術となると手術時間は12 時間ほどもかかり、難易度が高く手術中に亡くなるというケースもあります。 しかし、内視鏡によって早期に見つかればESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)による治療が可能です。これは、内視鏡検査で消化管の内腔から、粘膜層を含めた粘膜下層までの病変を一括切除できる手法です。クリニックが外来でESDを行うところは数少ないようです。だからこそ当院は、そこに力を入れています。 早期発見することで、手術が日帰りで済み、合併症のリスクも減らせます。まさに内視鏡検査だからこそできることです。 特に病状がなくても内視鏡検査の経験がない方は検査を受けてみてください。消化器関係のがんは静かに進むことが多く、痛みも出血もないからと、のんびり構えていると手遅れになります。早期発見こそ、健康的に年を重ねるためのキーワードかもしれません。少しでも痛みのないレベルの高い検査ができるように努めることが我々消化器内科の使命だと思っています。