ブルゴーニュでの出会いを胸に 伊藤治美さん(ソムリエ、ベネンシアドーラ)

スペイン、ヘレス地方の特産品であるシェリー酒の専門職「ベネンシアドール」。日本では現在、約130名がその資格を持っていますが、今回ご紹介する方は、2014年度公式ベネンシアドール認定試験に合格し、福岡県内の女性で2人目のベネンシアドーラとなり、現在、福岡市の会員制レストランで働く伊藤治美さん。伊藤さんは、JSA認定シニアソムリエ、CPA認定チーズプロフェッショナルの資格も持つワイン、シェリー、チーズのスペシャリストです。

Q)ワイン、シェリー、チーズの3つの資格を併せ持つ方は日本でも数名しかいないと聞きます。資格を持つきっかけを教えてください。 A)大学時代に花嫁修業の感覚でフランス料理を学び、半年間フランスのボルドーに留学したことがありました。そのときは資格を持つとは思っていませんでしたが、福岡のホテルのバーで働くようになり、オリジナルのお酒をつくるバーテンダーや料理人の方を見ているうちに「私はこのままホテルのバーでどのように年をとっていくんだろう」と、不安になって。それでもお酒や美味しいものが大好きだったので、それに関わる自分の生き方を見つけたい…と結婚後再びフランス、ブルゴーニュへ留学しました。

出典:ファンファン福岡

Q)ブルゴーニュでの体験が転機になったんですね。 A)そうですね。ブルゴーニュは世界的にもワインで有名な地域ですが、ここには世界トップクラスの料理人やソムリエが集まっています。とても刺激的でした。   留学は4ヶ月の期間だったのですが、この4ヶ月で学べることは学ぼうと必死でした。1日3件自分で電話してワイナリーを巡るといたノルマを課し、ワイナリー巡りも貪欲にしました。そんな時、何年ぶりかの豪雪でひどい雪道をかき分けてたどり着いたワイナリーで、運命の出会いがありました。

出典:ファンファン福岡

Q)どんな出会いですか? A)いつもワイナリーに行ったら自分が美味しいと思う1本を購入していました。そのワイナリーでもお気に入りのワイン1本を購入し、帰りのバス停に向かったのですが、不運なことにバスが行ってしまった後で。次は1時間半ほど待たなければいけません。寒さで手足はしびれてくるし、途方に暮れていると、1人のおばあさんが通り過ぎました。しばらくして、そのおばあさんが車に乗って私のところへ再び訪れ、乗せてくれたのです。   おばあさんは85歳。戦争中に教師をしていて、ブルゴーニュ地方にはイタリアの孤児たちがたくさんいたことを教えてくださいました。雪の中、途方にくれていた私とその当時の孤児たちの様子が重なって、放っておけなかったようです。それだけではありません。私がワイナリーで選んだワインに目を向け、「あなたの持っているワインは私の孫がつくっているワインよ」と教えてくださったんです。

出典:ファンファン福岡

Q)素敵な出会いですね。 A)はい。この出会いを機にソムリエに対する思いも変わりました。ソムリエはワインの知識に詳しいだけではいけない。日本に帰国したら、ワインをつくっている人たちがどのような思いでつくっているのか、どのようにワインの味が受け継がれているのか、そうした作り手の思いをちゃんと伝えられるソムリエになりたいと思いました。   伊藤さんは帰国後、2006年にJSA認定ソムリエ資格を取得。2人の子どもを出産後、2011年にはCPA認定チーズプロフェッショナル、2012年にはJSA認定シニアソムリエ、2013年にはベネンシアドールアフィシオナド、2014年にはベネンシアドールオフィシャル資格を取得するなど、幅広い分野でプロフェッショナルとして活躍しています。

出典:ファンファン福岡

Q)その原動力はどこから湧いてくるのでしょうか。 A)やはりブルゴーニュでの体験が大きいです。あの地で出会った人たちに少しでも恩返しをしたいという思いで頑張っています。作り手の思いを言葉にしてお客様に味わっていただくのがソムリエの仕事です。チーズやシェリーを勉強し、資格をとったのも、お客様に対して曖昧な姿勢で向き合いたくなかったから。ただ、資格をとっても毎日が勉強。奥が深いですね。   Q)弧を描きながらグラスに注ぐベネンシアドールの動きは難しそうですね。 A)実技には苦労しました。筆記はいいけれど、なかなかうまく注ぐことができない。試験前は先輩からコツを教わり、熊本城や皇居前などいろんな場所でまるで「巨人の星」の特訓のように練習しました(笑)。この、弧を描いてグラスに注ぐ動きは、注いだ相手の健康や長寿を祝い、命を吹き込む意味があります。技だけでなく、こうした動作に込められた意味も大切にしていきたいと思っています。   Q)伊藤さんのポリシーを教えてください。 A)出会った人との縁を大切にすること。家族の協力はもとより、理解して応援してくださる勤務先のオーナー。励まして支えてくれる友人。学びの場を与えてくれたブルゴーニュの人達。チャンスを与えてくださる東京や福岡のワインシーンにおける多くのプロフェッショナルな方々すべてに感謝を忘れず恩返ししていきたいと思います。

出典:ファンファン福岡

Q)失敗談などはありますか? A)私は島根県出身なのですが、ちょっとイントネーションが違うことがあるようで、「これはイチゴのシャーベットです」と答えた際、お客様から「イチゴのイントネーションが違う。どこの出身?」と聞かれ、思わず「台湾です」と答えたことがあります(笑)。お客様は信じられて「難しい日本語を知っているね」と感心され、頑張る台湾人がいる、ということでちょっとした話題になったこともありました(笑)   Q)未来の自分へメッセージをお願いします。 A)ワインやシェリーを通じてたくさんの方たちと縁をつなげていきたいです。そうした縁を大事にし、私がブルゴーニュで得た素晴らしい経験を少しでもほかの人と共有できたらと思っています。

※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

ファンファン福岡(fanfunfukuoka)は、街ネタやグルメ、コラム、イベント等、地元福岡・博多・天神の情報が満載の街メディア。「福岡の、人が動き、人を動かし、街を動かす」メディアを目指しています。

目次