丁寧語、尊敬語、謙譲語。 日本語の敬語の種類は数知れず、遣い方も多種多様。 日本語を学ぶ外国の方は、まず敬語で詰まると聞きますが、母国語として学んできた私たちだって、きちんと遣いこなせている、とは大きな声じゃあ言えません。 今回は、そんな敬語の話です。
——————- まず、「です。」「ます。」など、丁寧語を遣う場合、 「今日はそれじゃないです。」 もしくは、 「今日はそれじゃありません。」 方言になると、 「今日はそれじゃなかとです。」
となります。 この、「です。」の取ってつけた感が、なんとも言えない。 そこまでは普通に方言なのに、いきなり標準語混ざってきた!と思いませんか? これに一回気づいてしまってから、方言の敬語表現に、俄然興味がわいてきました。 余談ですが、この「ない」という形容に対しての丁寧表現、「ないです」と「ありません」については、どちらも意味としては同じ、使用方法も正しいとされています。 調べてみると、ちょっと奥が深い言葉でもあります。 ただし、方言になった場合、「ありませんとですよ」にはならないのが、面白いところです。 ——————- 続いては、尊敬語の場合。こちらは、シンプルな丁寧語と違って、あらゆるアレンジが可能です。 「大根、もう収穫されているんですか?」 と、尊敬語の「~される」が遣われる場面では。 「大根、もう収穫しよんなっとですか。」 という風に「動詞+なさる」になることが、うちの地元ではよくあります。 「しよんなっ(る)」の部分が、「されなさる」の方言です。 動詞が変換され、尊敬語の部分もイントネーションが変わり、激しく方言化しております。 初めて聞く人には、「です」が付いていることで、かろうじて敬語と分かるレベルですね。 さらに、初対面の相手に対してだったり、より尊敬の意識が高くなると、 「大根、もう収穫されよりなさるとですか。」 と、意識しすぎて二重で尊敬を上乗せしちゃって、もうカオスです。
でも方言なので、意味が正しいのかどうかなんて、話す人、聞く人の気分次第ですから。 ビバ、口頭言語。 この「~なさる」は、標準語でも尊敬語なんですが、ほとんど古語。 「~される」の方が、公共放送なんかで聞いたりするときは一般的ですよね。 それなのに、いまだに方言に溶け込んで遣われるこの「~なさる」。おそらく、ずいぶん昔から遣われてきたんだろうなぁ、と推測ができます。 ——————- 標準語と近い変換で、標準語と似たように敬語になる方言。 方言が独立した言語ではなく、あくまでも国語からの派生だと感じるのはこんな時です。 ただ、方言を耳にして育ってきた私にとっては、教科書に載っている正しい敬語よりも、こうして方言にとけこんだ敬語の方が、かたくるしくなく、親近感があるように聞こえちゃいます。 目上の方に、自分がどんな敬語を遣っているのか、一度気にしてみたらいかがでしょうか? そこにもまた、方言のおもしろさが隠れているかもしれません。