明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
気が付いたのは四歳の初冬、近所の銭湯に初めて近所の子どもたちだけで行ったときだった。
湯船に浸かっている時「これ何?」と隣りの家のケン坊が指差す。
見ると自分の左肩が兎のような形に赤くなっている。
「何だろう? 今まで気が付かなかったよ」
「ふ〜ん。あっ、かいじゅうのポスターだ。 ゴジラのむすこだって!」
ケン坊はすぐに興味を失ったが、気になって仕方がなかった。
「左のかたがうさぎみたいなかたちに赤くなったんだけど、なぜ?」
家に着くなり母に聞いた。
「今も出てる?」
袖をめくってみると跡形もない。
「それは赤ほやけ(赤痣)と言って、お風呂に入ったり運動して体温が上がったら出てくるのよ」
「なんで出るの?」
「血行の関係らしくて…赤ちゃんのときはずっと出てたのよ」
「ふしぎだな〜」
「それね、私のせいかも」
「え?」
「あなたがお腹にいるときに近所で小火(ぼや)があってね。みんなで消火の手助けをしたのだけれど…」
「それで?」
「『妊婦が火事を見たら赤ちゃんに赤ほやけができる』って後から聞いて…生まれたときやっぱりあったのよね。気になる?」
「ううん。おもしろいよ!」
「そう…」
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それから十数年、桜が満開の季節に母はあっけなく逝ってしまった。
四十九日法要を終え、実家で風呂に入っているときに気が付いた。
赤ほやけが出ていない?!
風呂から上がると、このことを祖母に話した。
「お母さんが持って行ったのかもしれないね。あなたが生まれたとき、だいぶ気にしてたから」
「そうなんだ…全然気にすることなかったのに。なんだかちょっと寂しいよ」
二人で仏壇に線香をあげた。
遺影の母が少し笑ったような気がした。
チョコ太郎より
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