パスタやお料理のソース。お菓子。サンドイッチ。 私達が毎日のように食べるチーズって一体、いつごろ誕生したのでしょうか? 今回は「チーズの歴史」を探ってみましょう。
パスタやお料理のソース。お菓子。サンドイッチ。 私達が毎日のように食べるチーズって一体、いつごろ誕生したのでしょうか? 今回は「チーズの歴史」を探ってみましょう。
1.チーズの起源 羊や山羊を牧畜するようになったのが紀元前1万年。牛の牧畜は紀元前8000年。 チーズ作りとなると紀元前3500年頃のギルガメッシュ叙事詩にチーズに関する痕跡が残っていることから、チーズの歴史は数千年以上前から始まっていたとされます。 場所はチグリス川とユーフラテス川の間で、現在のシリアあたり。 古代オリエント文明が指すところの「肥沃な三角地帯」と言うこの地はメソポタミア文明が栄え、また聖書で「約束の地カナーン」とかぶる、宗教的にも非常に重要なポイントです。
2.なぜチーズを食べるようになったの? ではなぜ、その地でチーズ作りが始まったのでしょう? また、なぜ私達日本をはじめとしたアジア諸国ではチーズを食する文化がそこまで広く強力に浸透しなかったのでしょうか? メソポタミア周辺では当時、野生の麦が自生しており、山羊や羊がそれらを食べるために集まっていて、人間がそれらの動物を囲い込んで原始的な牧畜をはじめました。 殺して食べてしまうと「はい、そこで終了」ですが、乳を利用すれば恒常的に食べ物を手に入れることができますよね。それが乳利用の始まりです。 日本などの東アジアの古代文明でも乳を利用した記録は残っていますが、チーズなどの乳製品は、西洋から入ってきたものというイメージで、日本で伝統的に食べられていたわけではありませんよね? 肥沃な三角地帯…とはいっても、豊かな自然や四季に恵まれた私達日本人からみれば非常に厳しいステップ気候、半砂漠気候で私達の思う「肥沃さ」とは違ったのではないでしょうか。
本来動物の赤ちゃんの大切な食べ物である乳に対して 自然豊かなモンスーン気候で生きる私達東アジアの人間は「そこまでしなくても…」という感覚が働いたといわれていますし、逆に中東では「そこまでしなければ生きていけない」状態だったとも考えられています。 3.最初のチーズはどんなもの? 現在もモンゴルで食べられる「アーロール」や「ホロート」 そして北ドイツの歴史ある「クワルク」 クワルクは水分をきったヨーグルトです。アーロールやホロートはそれを天日干しで乾燥させた保存食。これらがチーズの始まりなのではないかといわれています
冷蔵設備の充実した現代は牛乳を搾って冷蔵できますが、昔はありません。 搾ってすぐに乳は乳酸発酵を始めます。 乳酸発酵がどんどん進み、酸で固まる性質の蛋白質が固まると…ヨーグルトのようにゲル状になり、すっぱくなると同時に乳酸発酵によって有害な雑菌から食べ物を守る。 こういうチーズを乳酸発酵による酸凝固のチーズと言います。 ドイツのクワルクや、フロマージュブランなどがこの仲間で、 チーズ発祥の地イラク周辺を境に東方で盛んにひろまりました。 では逆に西方へ広まったのは…? そう、私達がよく知る、しっかり固いゴーダやエメンタールなどの大きくて固いチーズ。 上記の酸凝固したチーズにさらにレンネット(凝乳酵素)を加えてしっかり固めたチーズです。
4.レンネットって何? ではレンネットってなんでしょう? これは別名「凝乳酵素」といい、お乳で育つ動物の胃に含まれる酵素です。 赤ちゃんがミルクを飲んで、しばらくしてから吐き戻したときに、お乳がちょっとヨーグルトのように固まっていませんか? 液体であるお乳にこの凝乳酵素をくわえることで、乳の蛋白質をがっちり固め、しっかりとしたチーズを作ります。 昔の水筒は動物の胃袋を利用していましたから、たまたま胃袋水筒に乳を入れて旅をし、 胃の成分である凝乳酵素で自然に固まったものがレンネット凝固チーズの起源だそう。 しっかり水気を切って日持ちも良くなるし、持ち運びもでき、大きく作れば保存食として一冬越せそうですよね。 今でもイラクでは乳酸菌発酵したヨーグルトに似たチーズも、レンネットで固めたしっかり固いチーズも両方食べるそうです。 が、不思議なことに、発祥の地イラク周辺を境に東のモンゴルやアジアではレンネットのチーズはあまり広まりませんでした。 わざわざ胃袋水筒に入れて持ち運ばなくても常に家畜と移動する遊牧生活だったからでしょうか? 反対側の西にレンネットの固いチーズが広まったのは 古代ギリシャ文明と共に発展したチーズはその後、ローマ帝国の拡大や進軍と共にヨーロッパ各国へ広まるから。 兵士達の大切な食糧だったからです。 ローマ帝国行軍の兵士の食糧として「蜜、凝乳、羊、チーズ」とあり、栄養価を大変評価されてたんですね。 古代ギリシャではホメロスの「イーリアス」「オデッセイア」にもチーズは男をたくましく、女を美しくすると書かれています。 5.日本ではどうだったのでしょう? 「蘇」や「醍醐」という言葉をご存知ですか? この二つは聖徳太子の時代に大陸から伝わったチーズです 「蘇」は乳をひたすら煮詰めて固めた…あるいは湯葉のような製法で作ったと記録があり、現在ノルウェーのイエトストのようなチーズではなかったかと思います。 「醍醐」は、「蘇」を熟成させたものだそう。 イエトストは甘み控えめのキャラメルのような味わいですので、昔の人にとってご馳走だったでしょうね。「醍醐味」という言葉もこの「醍醐」からきているくらいですから。 さらに歴史は下って八代将軍徳川吉宗の時代に、インドから牛を謙譲され、「白牛酪」という乳製品を作ったと記録にあるものの、一般大衆にまで普及することはありませんでした。 ですが、明治時代に入ってから京都府の牧場が「牛乳を新たに搾れるものは死すべき命も助かるほどの効能あり。精を強くし、顔色を良くし、皮膚を肥し、五体を健康にする」と広告をうっていますし、あの福沢諭吉も「牛乳の用法を世に広めんと…」とおっしゃっています。 歴史の中でなかなか一般に浸透しなかったチーズは文明開化で西洋文化を取り入れ始めた日本の目玉商品であったのではないでしょうか?
日本人が今のようにチーズに親しむようになったのは、かれこれ40年ほどです。 万博、バブル。イタ飯やボジョレーヌーボーが流行ったことがきっかけとなったようで バラエティ豊かなプロセスチーズがどこのスーパーでも並ぶようになりました。 しかし、このプロセスチーズはナチュラルチーズを加熱溶解し乳化して固めたもので熟成しませんし、有用な熟成菌は死滅しています。 チーズの美味しさはその熟成にあるといっても過言でないほど。 ナチュラルチーズとプロセスチーズの違いは次回詳しく語らせていただくとして、暑さも和らいだような気がする夏の終わり。 ナチュラルチーズとワインをゆっくり楽しんでみませんか?