博多を代表するグルメといえば、ラーメン、もつ鍋、一口餃子…。いろいろありますが、外せないのが「明太子」。今や全国で知らない人はいないというほどの博多名物「明太子」ですが、その歴史はそれほど長くありません。始まりは、昭和24(1949)年、戦後まもない博多・中洲の小さな食料品店「ふくや」。博多名物「明太子」はどのような経緯で誕生し、博多の味としてこんなにも広がったのか―。ふくや4代目社長の川原正孝社長とランチを楽しみつつ、お話を伺いました。
川原社長おすすめランチ 企業の社長とランチデートをしつつ、おいしいごはん&お話をいただくコーナーとして始まった企画。「どこかオススメのランチスポットを教えてください」とお願いし、川原社長が教えてくれたのは、福岡サンパレスホテル&ホール(福岡市博多区築港本町)9階の博多料理「銀河」でした。
「やあ、どうも」とにこやかな笑顔で目の前に現れた川原社長にエスコートされた席は、視界360度、見晴し抜群のロケーション。「ここの『はかた親子丼』が旨いんですよ。博多の味が堪能できるし、博多の街も一望できる。意外と穴場で知らない人も多いんですけどね」。確かに。JR博多駅から博多港まで眺められるランチスポットがあるなんて知りませんでした。 親子丼には、博多名物の「水炊きスープ」と「おきゅうと」、そして、もちろん「明太子」も!
ボリューム満点のランチですが、明太子と一緒だとご飯がどこまでも進む、進む!新たな刺激を舌で楽しみながら、「ふくや」の歴史や今に受け継がれている「ふくやスピリッツ」についてお話を伺いました。 創業者の思い受け継ぐ 「ふくや」の創業者は、現社長の川原社長のお父様である故・川原俊夫さんです。戦後、韓国・釜山から引き揚げて昭和23年10月5日、中洲市場に食料品店「ふくや」を開業。「ふくや」という名は、俊夫さんの兄が釜山で開いていた食料品店「富久屋」を、母・千鶴子さんが「ひらがなにしよう」と提案したことから付けられたそうです。
開店当初は干し魚などの乾物や豆類、調味料、海産物を販売していたそうですが、俊夫さん夫妻は釜山で食べていた「メンタイ」の味が忘れられず、10年近くの年月を費やし、試行錯誤の末に、ついに「味の明太子」が誕生しました。
川原社長の兄で3代目社長を務めた川原健・取締役相談役の著「明太子をつくった男」(海鳥社)には、ヒット商品になるまでの明太子の軌跡が綴られています。「試しては捨て、捨てては試し…。父は、これを十年近く幾度となく繰り返した」。そして、当時小学生だった川原社長が、まったく売れずに売れ残った明太子を博多川に捨てに行くよう言いつけられとても嫌がっていた、というエピソードも綴られていました。 「私」より「公」 親子丼を食べながら、川原社長に「いつごろから明太子を食べているんですか?」と伺ったところ、「もうずいぶん昔、物心がついてからですよ」「よく自社の製品しか食べないという人もいますが、私は他のメーカーの明太子も食べます。もちろん、味の違いはあるけれど、それぞれに美味しくてね」と笑顔で答えてくださいました。 苦労して作り上げた明太子の製造特許を「ふくや」が敢えて取らず、それゆえに多くのメーカーが育ち、博多の味として明太子が浸透した話は有名ですが、自社の利益ばかりを追求せず、「おいしいものはおいしい」「みんなが喜べばそれが一番」といった創業者の姿勢は、4代目の川原社長までしっかりと受け継がれているように感じました。 「山笠」と「ふくや」スピリッツ 川原社長といえば博多祇園山笠(…と勝手に思っていました)。博多出身の男性の中には「3歳(のころ)から山のぼせ」と誇り高く言われる方がいますが、川原社長は「0歳から参加している」とのこと。以来ずっと(父・俊夫さん、母・千鶴子さんが亡くなられた年以外)博多祇園山笠に参加しているそうです。 博多祇園山笠で受け継がれているまっすぐな男気のようなものが「ふくや」には感じられます。 「ふくや」の経営理念は「強い会社・良い会社」ですが、川原社長は「強くなければ優しくできない。儲けなければ地域に還元できない。利益至上主義ではなく、品質の良い美味しい食品を消費者に届け、地域の役に立てる企業であることが大切」と話していました。 また、「山笠の中で子どもは大人たちの背中を見て成長する。年長者は若手の模範となるよう襟を正し、そして見守る。私は常日頃から、企業人としても若い人や新しいことを始める人を応援したいと思っていますが、それは山笠を通して自然と身についたことかもしれません」と話してくださいました。
大ヒット商品の裏側 さて、最近話題のふくやのヒット商品といえば「めんツナかんかん」。発売から1年で100万缶も売れたそうです。 国産のビンナガマグロを「味の明太子レギュラー」の漬け込み液になじませたフレークタイプの〝ご馳走ツナ缶”。ツナと明太子の運命的ともいえる絶妙なコラボ。これが美味しいんです。温かいご飯にのせるだけでご馳走です。
「『めんツナ』は副社長のアイデアですが、そのアイデアをなんとか商品化につなげようと、女性社員たちがスーパーでマグロの柵を購入し、『どうしたものか…』と挑戦に挑戦を重ねて誕生させたものです。産みの苦しみはありましたが、予想以上のヒットになりました」と川原社長。 創業者である川原社長の父、俊夫さんが試行錯誤の末に「味の明太子」を誕生させたように、新商品開発への意欲と、柔軟なアイデア、納得いくまで味にこだわる姿勢…といったものは、今も確かに「ふくや」に受け継がれているようです。 ところで、私は「めんツナかんかん」を買いだめしているのですが、そのことを川原社長に伝えたところ、こっそり「すぐに開けて食べるより、半年から1年ほど置いておいたほうがさらにおいしくなるんですよ」と教えてくださいました。知らなかった…。ワインみたいに熟成するのでしょうか…。 約1時間のランチタイムで、博多の味と博多っ子の気質を堪能。レストランから眺めた博多の景色が、1時間前とは違って見えるほど濃厚な時間となりました。 博多料理銀河 福岡市博多区築港本町2-1福岡サンパレスホテル&ホール9階 092-272-1485 はかた親子丼(1080円)