スポ根なんて言葉もすっかり聞かなくなり、今では体罰や暴言は厳しく罰せられる時代になりましたね。それにより子どもたちはのびのびと楽しくスポーツに打ち込めるようになったと思います。
その一方で、厳しい指導がないことで、スポーツに取り組む姿勢や、指導者に対する態度に頭を悩ませているチームも多いのではないでしょうか。
監督は優しいおじいちゃん
小学生の娘は今バレーボールに夢中です。平日の練習に加え、休日も大会があり忙しい日々を送っています。そんな娘の頑張りを見ることは私の1番の楽しみでもあります。
チームの監督は75歳の大ベテラン。優しくて怒ったところは見たことがありません。
一度は引退したものの、指導者不足に悩むチームのために、老体に鞭を打って指導にあたってくれているのです。
長年バレーボールに携わってきたため教え子の年代も幅広く、監督がまた指導を始めたと聞き、手伝いや差し入れにきてくれる卒業生もいるほどです。
そんな監督の下で練習に励む子どもたちは、素人の私から見ても日々上達しているのがわかります。しかし私にはどうしても気になる子がいるのです。
腹が減ってはなんとやら
私が気になるAちゃんは、身体能力が高く器用です。小柄ですが、技術力の高さが評価されスタメンで起用されています。ただ、その子はやる気がなく「面倒くさい」が口癖です。
ある日の練習時、監督から
「声が小さいぞ」と言われたことで機嫌が悪くなってしまったAちゃんは、それ以降声も出さず返事もしない、監督の指導も完全に無視です。見兼ねた保護者が
「具合が悪いのかもしれないから練習から外してもらったら?」とAちゃんのお母さんに声をかけました。すると
「大丈夫! お腹が空いただけ。そろそろおやつの時間だもん。だから気にしないで!」と言うのです。
しかしAちゃんは小学6年生。空腹だからなんて何の言い訳にもなりません。そもそもお腹が空いていればどんな態度も許されると思っているお母さんにも驚きました。
それでも監督が怒ることはなく、他の保護者も、注意すればさらに機嫌を損ねてしまうことがわかっているのでそれ以上何も言いませんでした。
心の育て方
その態度は試合中でも同じです。少し点差が開き、負け始めるとあからさまに機嫌が悪くなります。
目の前のボールしか触らず、サーブも入りません。娘の話によると、試合中
「真面目にやっている人ってバカみたい。私は勝ちたいとも思ってない」と言っているのだそうです。
他のメンバーも最初のころは
「そんなこと言わずに頑張ろう」と声をかけていたものの、最近は無駄だと諦めてしまったようです。すぐに機嫌が悪くなってしまうAちゃんに気をつかい、腫物に触るように接しているように感じます。
そしてお母さんもまた、
「地味な練習ばかりでモチベーションも上がらない。他のポジションを希望しているのに聞き入れてもらえないんだから、あんな態度にもなるよね」と。
チームは始めたばかりの子が多く、Aちゃんをスタメンから外すことはできないようです。また、実力があるのにもったいないという監督の想いもあるようです。
保護者からしてみれば、やる気のない子を出すくらいなら、初心者でも良いから他の子を出してほしいというのが本音です。しかし、そこまで保護者が口を出すわけにはいきません。
たった1人やる気のない子がいるだけで上手くいかないのがチームスポーツですよね。果たしてこの子たちが一致団結して試合に勝てる日は来るのでしょうか。
監督もAちゃんの指導には悩んでいるようで、バレー経験のある保護者に声をかけ
「私の代わりにサーブを教えてあげてほしい。私が言っても聞いてくれないからね」とお願いすることもあります。
監督は、年齢的にもこの子たちが最後の教え子になるだろうから、教えられることは全て教えてあげたい、バレーボールを通して、楽しい・悔しい・協力・支え合いなど、ここでしか得られない感情や経験を自分の財産にしてほしいと願っているようです。
いつかAちゃんが監督の優しさや想いに気付き、真っ直ぐに向き合ってくれる日が来ると良いなと思います。そして6人で協力して勝ち取った1勝を監督にプレゼントしてあげられることを願っています。
(ファンファン福岡公式ライター/はる)