ある商社で派遣社員として働いていた時、上司から、ずっと言われていた一言があります。 ある日の飲み会でその一言がヒートアップ、周りのみんなも引いてしまった私の体験談です。しかし後日、上司から告げられた真意は違っていて…?
上司の口ぐせは「早く子ども産め」
以前、私が派遣先として勤務したのは、とある化学系商品を扱う商社でした。
初めての分野での仕事でしたが、取引先からその会社にいる社員まで良い人に恵まれ、私も程なくして毎日の仕事をこなせるようになりました。けれども、直属の上司がとても癖の強い方でした。
彼の口癖は
「早く子ども産みなよ~」
私は当時結婚して2年ほどが経過し、29歳になったばかりでしたが、挨拶替わりのごとく、この言葉を言われていました。書類のハンコを頼んでも「早く子ども産みなよ~」、外回りから帰ってきた上司に電話があったことを伝えても「早く子ども産みなよ~」…
はじめは少し苛立ちを覚えましたが、次第に言われる事に慣れてしまい、私も「そうですね~」と毎回流していました。まるで同じことを毎回繰り返す高齢者の介護をしている気分でした。
でも、とある飲み会でついに事件が起こってしまいました。
職場の飲み会でドン引き
職場の仲間内で開催された飲み会。その飲み会で例の上司の「早く子ども産みなよ~」がヒートアップしたのです。
その日私は、仕事の事はもちろん、他愛のない話などで、色々な人との会話を楽しんでいました。そこへ、酔っぱらった例の上司がやって来て、
「早く子ども産みなよね」の攻撃が始まりました。私は「ああ、またいつものか」と思ったのですが、この時上司は酔っぱらっていたのです。
「早く産まないと、産めない体になっちゃうよ~」
「高齢出産は難産になりやすいよ~」
「すぐできるとは限らないんだからさ~」
「まだ30にもなってないかもだけど、40とかすぐなっちゃうよ~」
聞いててあまり気分が良くはない言葉が、次々と上司の口から出てきました。実は、その時私は二度流産を経験していて、次に流産となったら不育症の検査を受けようと思っていた時でした。そんな私の事情など知らずに、デリカシーのない言葉をどんどん上司は言っていきます。
そんな上司の様子に、周りで飲んでいた会社の人たちも段々と引いていき、営業さんの一人が遂に見かねて、私と席をかわってくれました。営業さんは私を気遣ってくれましたが、私自身は
「この人はボケちゃってるのと一緒なんだからしょうがない」と、達観した様な気分だったので、その場ではあまりダメージはなく、その後の飲み会を再び楽しむ事ができました。 けれども、家に帰って冷静になると、だんだんと涙が溢れてきてしまいました。
意外な真意を知ることに ~泣き出した上司~
その後、私は三度目の妊娠をしました。
今回はついに安定期まできたので、職場に妊娠を報告しました。すると、例の上司がいきなり泣き出したのです。私への
「早く子ども産め~」の言葉は、実は上司の娘さんと同じ目にあってほしくない、という気持ちから言っていたという事を告白されました。
上司の娘さんは、結婚してからしばらく子どもは作らずにいたのですが、気が付くと高齢になってしまったそうです。そしてなかなか妊娠せず、不妊治療の甲斐もなく子どもを諦めざるをえない年齢になってしまったそうです。
飲み会で言ったキツイ言葉は、娘さんが周りの人に言われていた心無い言葉だったそうです。だからと言って、私にも同じ言葉を言わなくても… と思いましたが、不器用な上司なりの忠告のつもりだったようです(そう言われても納得できるものではありませんでしたが…)。
私は臨月までその職場で働いて契約を満了し、上司とも職場とも離れました。元上司となった彼に、無事出産をしたことを報告すると、
「頑張った、元気な子が産まれて良かった」と喜んでいました。その後、私は二人の子供に恵まれ、今でも元上司と一応年賀状のやり取りはしています。
(ファンファン福岡一般ライター)