福岡、北九州、東京を拠点にウェブ・モバイルサービス開発を行う「フロイデ」。社長の吉谷愛さん(45)は、フリーのプログラマーから一歩ずつ事業を拡大してきました。今、さらに大きな夢に向かって進んでいるという吉谷さんに話を聞きました。
―どんな会社ですか。 企業から依頼を受けて、ウェブ・モバイルサービス開発をしているエンジニア集団です。プログラマーを未経験から育成することにも力を入れています。 私は29歳で結婚し、プログラマーとして勤めていた会社を辞めました。ところがその直後に夫が体調を崩し、夫婦そろって無職になってしまったんです。「来月の家賃が払えない!」と切羽詰まって、プログラミングの仕事を請け負ったのが、この会社の始まりです。初めは仕事のあてなどなかったので、求人誌でプログラマーを募集している会社を探し、飛び込み営業をしました。仕事はどんどん増えて人手が足りなくなり、無職やフリーターだった友人にプログラミングを教えて、手伝ってもらうようになりました。 ―なぜプログラマーを雇わずに、一から育てたのですか。 優秀なプログラマーを雇うには、給料ややりがいなど相応の「価値」を提供しなければなりませんが、成り行きでスタートした会社でしたからね。でも結果として、未経験者を育成することが他社にはない強みとなり、2008年のリーマン・ショックでも生き残ることができました。社会にとっても意義があることだったんです。 夫が働けなくなって私が仕事を探そうとしたとき、社会の「不条理」を実感しました。30代で中途半端なキャリア、結婚していて子どもを産むかもしれない女性にできる仕事は、こんなにも限られているのだなと。 女性だけではありません。キャリアがなくフリーターや無職になっても「自己責任」と言われる。そうした行き場のない人たちを採用して育てることは、私の使命なのかなと思うようになりました。それに、みんなが力を付けて、キラキラしているのを見るのは楽しいですからね。 ―大きな目標も掲げたそうですね。 「無職、フリーターを含む未経験者1000人をエンジニア(技術者)にする」という目標です。1000人の無職やフリーターがエンジニアになって、結婚したら2000人の人生が変わる。子どもが生まれたら4000人、それをいいなと思う人がエンジニアになったら8000人、そう考えると1万人くらいの人生が変わる。北海道夕張市の人口を超えます。すると社会もちょっと変わるんじゃないかなと思います。この目標を打ち出した途端、共感し支援してくれる人が増えて、潮目がガラリと変わりました。 ―いつまでに達成する予定ですか。 あと12年。今6歳の長女が18歳になるころです。達成したら娘と一緒に大学に行きたい、女子大生になりたいと思っています。情報工学や経営学などを学んで、自分がやってきたことを見つめ直したいです。会社の方は、1000に「0」を一つ足した「1万人をエンジニアに」を新たなミッションとして、次の経営者に渡したいですね。
―子育てではどんなことに気を付けていますか。 どんなに忙しくても、1日30分は娘としっかり向き合う時間をつくっています。まだ4歳の長男は、放っておいても向こうから来ますが、娘は周りが見えてきて「ママは忙しいかな」などと〝忖度(そんたく)〟が始まっています。なので一緒に本を読んだり、踊ったり、最近はお小遣い帳の書き方を教えています。 ―最後に、9月に出版された著書「土日でわかるPythonプログラミング教室」について教えてください。 人工知能を使う環境づくりから、チャットボット(自動会話プログラム)を動かすまで、2日間でプログラミングの基礎を学べる本です。人工知能を一から作るのではなく、既存のウェブアプリを使うので、ホットケーキミックスを使ってホットケーキを焼くようなもの。小麦粉やベーキングパウダーから作るよりずっと簡単でしょう? だからプログラミング未経験者でも大丈夫。考えるよりまず、この本を片手に実践してもらいたいです。
「土日でわかるPythonプログラミング教室」(SB Creative) B5変型判、240㌻、2380円(税別) 【吉谷愛さんプロフィル】 北九州市出身。短大を卒業後、会社員やフリーのプログラマーを経て2007年からフロイデ社長。デジタルハリウッドなどで講師の経験があり、16年に未経験者を即戦力に育てる技術者研修「Q-Tech-bootcamp」をスタートした。