噂の日本酒バーに潜入すべく、千代町にやってきました。 天神から地下鉄で5分ですが、なかなか飲みに来る機会がないので、ちょっとした“旅先ディナー”の気分です。
訪れたのは、千代県庁口駅より徒歩5分足らずのこちらのお店。「日本酒バー 夜茶蔵(よざくら)」です。
カウンター席のみ14席。壁には日本酒の一升瓶や四合瓶がズラリ。それがすべて、「喜多屋」の銘柄で占められています。 「喜多屋」といえば創業200年の歴史を誇る八女の老舗酒蔵。2013年に国際的なワインの品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」で日本酒部門の最高賞を受賞したことで、その名を知った方も多いと思います。
カウンター前の日替わりメニューは、左サイドが旬の肴、右サイドが旬の「喜多屋」。ということで、否が応でも期待が高まります。
一本目に選んだのは『寒山水スパークリング』。その名のとおり、スパークリングの日本酒です。口に含むと、スッキリとした飲み口に対して、しっかりとした後味。これまでの “ほんのり甘くて軽い口当たり” という「日本酒スパークリング」の先入観が一気に吹っ飛ぶインパクトです。
合わせる料理は、熱々の肉豆富。『寒山水スパークリング』は一般的な日本酒の度数と同じ14~15度。牛肉の脂身や添えられた半熟卵の濃厚な味わいにも負けない強さがあります。
二本目は『純米大吟醸 あらばしり 生原酒 50%磨き』。 さて、その一杯を口にする前に、この商品名を読み解いてみましょう。 「あらばしり」というのは、できたての日本酒のいわば“上澄み”の部分。2月に入ると各地で蔵開きが行われ、日本酒の出荷が始まるわけですが、今回訪れたのは1月の下旬。まさにこの時期でないと味わえないお酒です。 また、製造の過程において、樽やタンクの中でできあがったばかりの日本酒のアルコール度数は通常20度前後。通常の商品であれば、加水して13~16度に調整し、また、アルコール発酵が進まないよう、“火入れ”(加熱処理)を施して出荷されます。「生原酒」というのは、“火入れ” も “加水”もしていないお酒のことで、文字通りフレッシュで濃厚な味わいが楽しめます。 さらに、「50%磨き」とは “日本酒の原料となる酒米を50%になるまで磨いて(外側から削って)作りました” という意味。酒税法上、精米歩合(磨いたあとの酒米の割合)50%以上で「大吟醸酒」、60%以上で「吟醸酒」、70%以上で「純米酒」「本醸造酒」と表示することができ、一般に精米歩合が低いほど、香味や色沢が良くなるとされています。加えて、醸造アルコールを添加しない「大吟醸酒」や「吟醸酒」には、その頭に “純米” という表示をつけることができます。
華やかな香り、多彩な風味、米本来の力強さがガッツリと喉の奥に響く「あらばしり」と合わせるのは、脂がのったブリの刺身。まさに “世界最強タッグ” といった趣です。
三本目は、『純米吟醸 蒼田』。青のラベルが鮮やかなこの一本。口に含むと、潮の風味をかすかに感じたあと、吟醸酒らしい軽い口当たりとサラッとした後味。
合わせるのは、佐賀県いろは島産の牡蠣。小ぶりですが、牡蠣本来の旨味と甘みが凝縮した一粒を味わい、その余韻を『純米吟醸 蒼田』で喉の奥へと流し込むと・・・まさに “快感” の二文字。
四本目は、『山廃特別純米酒 蒼田』。「山廃」とは自然界にある乳酸菌を取り込みながら日本酒を作り上げていく製法のことで、現在では一般的となっている乳酸を添加する製法と比べると、手間も技術も必要となりますが、その分、独特な風味や酸味、味わいが生まれます。口に含むと、リンゴのような爽やかな酸味が舌先を刺激し、まるでシャルドネ100%のフランスワイン「シャブリ」を連想させる気品と風格。
合わせるのは、天ぷらの盛り合わせ。「山廃」ならではの酸味と芳醇な味わいは揚げ物にも抜群の相性です。
そして、最後にオーダーしたのは、『長期樫樽熟成麦焼酎 吾空』。厳選した大麦から造られた本格焼酎を、アメリカンウイスキー『ジャックダニエル』の樽で4年熟成させたという、超こだわりの一本。樽熟成ならではの、ほのかなバニラ香がたまりません。バーボンと同じような楽しみ方ができ、気分に応じて、炭酸割りでもロックでも。ここは千代町なのか、八女なのか、はたまたテネシー州なのか・・・時空を超えた美酒美食の世界を存分に堪能した夜となりました。
さて、こちらのお店。実は「ねこ蔵ホステル」というゲストハウスの一部で、昼は「ジャパニーズカフェ 茶蔵(さくら)」として営業されています。 また、この「ねこ蔵ホステル」には動物愛護センターで殺処分の運命にある猫たちをレスキューする保護猫シェルター「福ねこハウス」が併設されており、ゲストハウスの宿泊代と飲食の売り上げの一部が「福ねこハウス」の運営費になっています。 いろいろな出会いと思いがあふれる千代町の注目スポット。ぜひ一度足を運んでみてください。 Produced by 福博ツナグ文藝社