先輩や上司から可愛がってもらえることは、会社で働く人間の一つのスキルかもしれません。ただ、そこには上司の下心が隠れている可能性も…。さらに、上司の後ろ盾があると勘違いして横柄な態度を取ってしまえば、いざというときに助けてくれる仲間を失ってしまうかもしれません。
清楚な新入社員
前職は、従業員20人の小さな会社。会長・社長を含め、全員が女性という中、唯一の男性だった部長が全権を握り、セクハラ・パワハラ何でもありの状態でした。
私と同じ部署の先輩が辞めることになりましたが、即戦力がなかなか現れず採用活動は難航。ある日、面接に来た女性Tさんを見た瞬間
「あ、部長のタイプだ」と、その場にいた全員が思いました。
清楚な黒髪ロングに、くりっとした目、リクルートスーツでもわかる胸の大きさ…。これまで可愛がってきた社員、好きだと言っていた女優など、部長のタイプに当てはまっていたのです。トントン拍子に話は進み、3週間後には入社日を迎えました。
部長の熱心な教育
Tさんが入った部署は、部長・チーフ・私・Tさんの4人体制。部長の妻でもあるチーフが新人教育を担当するはずが
「チーフは忙しいから教育係は俺がやる」
と、部長が名乗り出ました。Tさんが部長のタイプだということは、チーフももちろん気づいていたようです。
期待の新入社員でしたが、Tさんは相手の名前を間違ってメールを出したり、発注を誤って半日を無駄にしたり…。あまり仕事ができないことが周りにバレてしまいました。
しかし部長が一つの仕事が終わるたびTさんをべた褒めするので、「自分はできる子」と、勘違いモンスターに育ててしまいました。
Tさんに
「この書き方ではわかりづらいので、修正をお願いします」と指摘しても
「部長はOKを出してくれましたよ？」と、こちらを悪者扱いした言い方で反論するようになってきたのです。
私もチーフも「本当にこれで進める？」「商品のクオリティに関わるよね？」と疑問や不安になる仕事をTさんがしていても「部長が認めた」と言われると、返す言葉がないのです。
とんでもないミスが発覚
入社から1年経った、ある日
「Tさんに新しい仕事を教えるから、他の仕事は頼まないで」と、部長。新しい仕事とは、アンケートを作成・発注し、商品に折り込みで入れる… というもの。
回答者には粗品が贈られるため、年に一度の人気企画ですが、前年のデータを一部変更するだけなので、数時間で終わる仕事です。しかし、Tさんの隣に座り、画面を指さしながら一つずつ入力させる部長。身体が触れるギリギリで指導する姿に、恥ずかしいやら呆れるやら…。
そのまま2人だけの世界で、本来なら数時間で終わる作業を、数日かけて完成させたのです。
半月後、回答が届き始め、そこで初めてアンケート用紙を目にしたのですが
「期限は○/○まで！ 早めの回答を！」と煽り文句までつけた締切日が空欄のまま。
一番重要な部分が抜けていたのです。青ざめた様子のチーフが部長に報告すると
「俺はそんなところ見ない。チーフは確認しなかったのか？」と言い放ったのです。
さすがにチーフも我慢しきれずTさんを呼びましたが、今度は部長が
「最後に確認するように言ったよね！？」 と、Tさんに責任を押し付け始めたのです。
部長から見放された
急に手のひらを返した部長の変貌ぶりに、血の気が引いたようなTさん。張りつめた空気が流れていました。
実際は毎年回答が届くのは大体1カ月ほどで、締切を過ぎるのは数人程度です。過ぎても粗品を送っていたので、「締切日の記載がなくても問題はない」と発送担当者は知りつつ、ヒートアップする部長の矛先が自分に向くのを恐れて、だんまり。
Tさんの切り札に使ってきた「部長が認めたから」のおかげで、何度もミスの尻拭いをさせられていたのは、他の社員も同じです。誰もTさんをかばおうとはしませんでした。
その後部長が
「今年はどれだけ遅く届いた回答にも、粗品を送ることに決めたから！」と、ドヤ顔で宣言し事態は収束しました。
Tさんにとっては気まずく地獄のような時間だったと思います。いくら部長のお気に入りだからといって、周りに横柄な態度をとると周りから助けてもらえず、しっぺ返しがくるんだなと改めて感じた事態でした。
（ファンファン福岡公式ライター／ふわずみ みか）
