明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
その傷に気づいたのは2歳の頃だった。
おんぶされていたとき、目の前の祖母の頭に1カ所の毛が生えていないところがある。
小さな唐辛子みたいな形で手を伸ばし触るとつるつるしている。
すごく不思議な感じがしたが、すぐに忘れてしまった。
それから数年、小学校に上がったとき友達になったE君の頭に傷があるのを見て、祖母の傷のことを思い出した。
「おばあちゃんのあたまのきず、どうしてできたの?」
家に帰るなり祖母に尋ねた。
「ああ、コレかい?私のひいおばあさんが亡くなった日にできたんだよ」
「どういうこと?」
それではと座りなおし、祖母は語り始めた。
………………………………………………
ある暑い夏の日、祖母のひいおばあさんが亡くなった。
祖母は子どもだったがお寺さんへの使いを任された。
亡くなったことを告げると住職は、「準備が出来次第伺いましょう。先にこれを届けてはくれますまいか」と言う。
ひいおばあさんが預けていて、お寺さんに来る度に拝んでいた銅でできた小さな観音像だった。
こくりと頷き、それを受け取ると家に向かって歩き出した。
ひいおばあさんの事を考えながら歩いていると、「行ってはいけない」と教えられている方の道を通ってしまっているのに気づいた。
草木が生えていない奇妙な窪地を囲む道をぐるりと回りながら進んでいると、前方を飛んでいた雀がふらふらと窪地に落ちた。
「助けなければ!」
観音像を道ばたの石の上に立てると、雀のところへ向かった。
雀は飛べないがパタパタと動いていた。
「ああ、良かった。生きてる」と手を伸ばしたときに息ができなくなり目の前が暗くなった。
…どこだか分からない暗い隧道(トンネル)の中を歩いている。
懐がごそごそするので見ると雀が入っている。
しばらく歩くと前方が明るい。
さらに進むと明るい日差しが溢れる野原が見えた。
「出口だ!」
駆け出そうとしたとき、頭に強い衝撃があった。
気づくと窪地に倒れていた。
手には雀を掴んでいる。
さっきのことは夢かと思ったが、頭に手をやると血が流れている。
周囲を見回すと鳥や小動物の骨が散乱しているのに気づいた。
その中に置いて来たはずの観音像が転がっている。
それを引っ掴むと窪地から逃げ出した。
ふらふらしながらも家に帰りつくと母に観音像を渡した。
「あら?これは…?」
見ると観音像には血がついていた。
雀は翌日にはすっかり元気になったので、「おうちにお帰り」と庭に出て放した。
一旦飛び上がった雀はすぐに戻って来て祖母の頭をちゅんと嘴(くちばし)でつついた。
驚く祖母の頭上をくるりと回ると、西の空へ飛んで行った。
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「すずめはたすけられたおれいを言ったんだね。でもどうしてそのくぼちで生きものがしんじやうの?」
「日本のあちこちには亜硫酸ガスやメタンガスが吹き出す場所があってね。あの窪地もその一つだったんだよ」
「ふ〜ん。ききいっぱつだったね。かんのんぞうがとんできてぶつかったのかなぁ?」
「確かに道ばたに置いたんだけどね…ひいおばあさんが観音像に宿って助けてくれたんだと思うよ」
そう言うと祖母は傷をなでた。
祖母が亡くなった今もあの傷を触った感触は覚えている。
チョコ太郎より
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