アメリカで華やかなキャリアを積みながら、今は目の前にある仕事を一つ一つ丁寧に取り組んでいきたいと可憐な笑顔で話すジャズ界の若きエースがいよいよ2025年福岡市美術館に登場。今に至る道程と”これから”についてお話しを聞きました。
初めての作曲は5才のとき
4歳上の姉の影響もありヤマハ音楽教室でエレクトーンを始めました。高校生まで毎年のようにコンクールやJOC(ジュニア・オリジナルコンサート)に出ていました。ご存じの方も多いと思いますが、エレクトーンは演奏だけではなく子供の頃から作曲や即興演奏もやっていきます。私が初めて書いたオリジナル曲は5才の時で、タイトルは「ミッフィーちゃんと仲間たち」。もちろん今でも演奏できますよ。(笑)
エレクトーンは色々なジャンルの音楽を学べるので、私は主に吹奏楽やクラシック音楽を中心にコンクールにも出場していました。確か小学3年生くらいの時に友人がジャズに傾倒していてチック・コリアの作品を弾いていたのです。それを聴いて興味を持ち、高校に入ってからジャズに取り組むようになりました。
すると丁度、国立音楽大学に”ジャズ専修”が設置されることを知り、高校3年生の時に夏期講習に参加しました。その時の先生が小曽根真さんです。
小曽根 真さんとの出会いが人生を変えた
何の専門知識もなく、まっさらな状態で小曽根さんと一緒にピアノを弾かせていただき「なんて楽しいのだ!」と感じました。何が何だか当時の自分にはわからなかったけれど、とにかく楽しかった。この時の気持ちは今も忘れられない。そうして、絶対ここに(国立音楽大学)入ってジャズをやるのだ!と決めました。 入学してからは毎日がとにかく楽しくて楽しくて… 新しいことを学べる、新しいことに挑戦できる、その連続でした。そうこうしているうちに3年が過ぎて、師匠(小曽根真氏)のあるコンサートでアンコールに呼んでいただき、本番で演奏する機会があったのです。その際に卒業後はどうするつもりなのかと問われました。
私はまだ真剣にジャズに取り組んでから3年ほどで日々のことに精一杯、先のことなんて考えられていませんでした。けれども師匠から「RINAはアメリカに行った方がいい、バークリー(※)で勉強しておいで!」と言われ、そこで心が決まりました。
注(※)ジャズの世界最高峰と言われるバークリー音楽大学のこと
バークリー音楽大学に留学 そして国際コンペティションで入賞
アメリカに渡ってからやはり英語には苦労しました。なにせほとんど勉強していませんでしたから。(笑) 国立音楽大学でも英語の単位は落とし、生活にも英語は必要ないと思っていました。そして現地に渡ってからは日常生活の中でなんとか習得していきました。ボストンでは3年間学び、卒業後は就労ビザを取ってニューヨークに移りデビューしました。
2018年にエリス・マルサリス国際ジャズ・ピアノ・コンペティションに出て幸運にも第2位と最優秀作曲賞をいただくことができました。コンペティションは順位を決めるものではありますが、私が出場した一番の理由はブランフォード・マルサリスなど世界のトップ・アーティスト達と共演できて、自分の演奏を彼らに聴いてもらえることでした。こんな素晴らしい機会はありません。だから絶対にファイナルまで進みたかった!
世界中から160人もの若いジャズ・ピアニスト達が集まってきて4日間のコンペティションは本当に濃密な時間でした。結果には満足していますし、最優秀作曲賞までいただけたので、少しは自信をもっていいのかなと思いましたね。
そして、審査員のお一人だったジョン・バティステのマネージャーの方からまだコンペティションの結果が出る前にTV出演のオファーをいただき、その後アメリカCBSの番組で3日間連続で出演できたことは大きな経験となりました。
NYで初のレコーディング、コロナ渦で帰国
ファースト・アルバム「RINA」をニューヨークでレコーディングし、アメリカと日本でツアーの準備に入ったところでコロナ渦が始まってしまいました。アメリカではコンサートの類はすべて即ストップ。日本はまだ少し音楽界が動いていたので、取りあえず小さなスーツケース1個持って帰国しました。けれども日本も段々同じような状況になってしまい、アメリカに戻るに戻れず悶々とした時間を過ごすことになってしまいました。
そうして2022年にアメリカ・ロチェスター・インターナショナルジャズフェスティバルに呼んでいただき、本当に嬉しかった! 久々にお客さまの前で弾かせてもらえる幸福感に酔いました。アメリカのお客さまはとても熱くて反応がストレートです。それがすべて自分に跳ね返ってくることに感動を覚えました。
日本に戻ってからまだ2-3年、少しずつコンサートがやっていけるようになってきました。日本のお客さまと繫がってきた実感があります。この秋に、国内有数のジャズ・フェスであるハママツ・ジャズ・ウィークに呼んでいただき、ソロや塩谷哲さんとのデュオをやらせていただいたところです。これからやってみたいことは沢山あって、オーケストラとの競演や映画音楽の制作など可能性はあると思うので、今は目の前のことを一つ一つ丁寧に取り組んでいきます。
福岡では美術館ならではのコンサートに
日本でジャズがもっと若い人たちにも楽しんでもらえたらいいなと常々思っています。ジャズ・クラブというと夜に地下室に降りていくイメージもあるかもしれませんので、そこに学生服の子たちは行けませんよね。けれども昼間の美術館なら話しは別です。(笑)
今回の福岡市美術館でのコンサートにはジャズを聴いたことがない方、興味はあってもなかなかコンサートに足を運べなかった方、そんな方々に是非いらして欲しいです。ジャズは難しくありません。ただただ音楽に身をゆだねて感じていただければ。
実は帰国して間もない頃に、北九州市の響ホールで小曽根真さんのコンサートへゲストに呼んでいただき、演奏したことがありますが、福岡での公演は初めてです。そういえば…中学2年の時にエレクトーンのコンサートで天神のイムズ・ホールで演奏したことがありました。え? イムズ・ホールはもうないんですか? それは残念です… 福岡市美術館のミュージアムホールにてみなさまとお会いできるのを楽しみにしています!
( 聞き手: 樋口洋子 )
撮影・取材協力/ ヤマハ銀座店
◆ジャズを聴きたくて~Transparent Blue RINAリナ
・日 時 2025年2月16日(日) 1st Stage 13:00開場 13:30開演 / 2nd Stage 15:30開場 16:00開演
・会 場 福岡市美術館 ミュージアムホール
・料 金 1,500円/事前申込制 各ステージ170席定員 ※申込多数の場合は抽選
・プログラム Transparent Blue/For N.K./マイ・ファニー・バレンタイン 他リクエストコーナーあり
・お問合わせ先 福岡市美術館 092-714-6051(9:30-17:30休館日を除く)
・主 催 福岡アートミュージアムパートナーズ
・協 賛 積水ハウス/大王製紙/福岡銀行/日本通運/ウエスト/セイワ地研/草苑
・申込方法 福岡市美術館ホームページより申込みください。
◆ Artist Profile
RINA ジャズピアニスト / 作曲家
ジャズピアノを小曽根真に師事。バークリー音楽大学に招かれ、オーディションを受けて学費全額免除を獲得し、入学。在学中、ジャズ・パフォーマンス・アワードを受賞。卒業後NYでデビュー。エリス・マルサリス国際ジャズ・ピアノ・コンペティション2018にて13カ国/160人以上の参加者の中で第2位、最優秀作曲賞を受賞。米CBSの番組に3日連続出演しオバマ大統領夫人の前で演奏を披露する等、本場ニューヨークなどで活躍が高く評価されていたが、ツアー直前にコロナ禍で帰国。2020年に全曲オリジナル作品を収録したアルバム『RINA』でデビュー。同アルバムで第13回CDショップ大賞受賞。2022年アメリカ・ロチェスターインターナショナルジャズフェスティバルへ招聘され、万雷の喝采を浴びる。2023年セカンドアルバム『Transparent Blue』発売。2024年横浜市港北区民文化センター・ミズキーホール ホールアーティスト就任。自身のトリオでCotton Clubに3度の公演を果たすなど、各地で積極的に演奏活動中。