私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
小学2年生の冬、雪が散らつく日暮れどきにA町まで出かけた。
「和菓子屋Sの破れ饅頭が食べたい」
母が急にそう言いだしたからだった。
「もうお店は閉まっているのでは? お饅頭だったら近くのお店にもあるけど…」
そう聞いたが、どうしてもSの破れ饅頭でなくてはダメだというので自転車で家を出た。
案の定、お店のシャッターは閉まっていた。
困ってしまい、裏に回ると顔見知りの店員さんがいた。
これこれこうで…と説明すると、店員さんは少し待っているように言い、裏口からお店に入って行った。
4、5分すると紙袋に入れた饅頭を渡してくれたので、お礼を言い代金を支払った。
帰りついた頃はもうすっかり暗くなっていた。
急いで家に入ろうとした時、玄関の戸が開き祖母が出て来た。
「遅いから心配したよ。おつかいかい?」
「お母さんに頼まれてお饅頭を買いにね」
「Sの破れ饅頭か…お母さん、具合が悪くなりそうだね」
「どうして?」
「本人も気付いてないみたいだけど、あんたのお母さん寝込む前日には必ずその饅頭を食べたがるんだよ」
祖母の言う通り、翌日から4日ほど母は寝込んだ。
それからは気を付けて見ていたが、なるほどてきめんだった。
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大学生の時にその話をすると、母は全く自覚がなく大変驚いていた。
そしてこんなことを言いだした。
「私も不思議なことを知っているのよ」
「何?」
「あなたが帰って来る前日には、必ずおばあちゃんがちらし寿司を作り始めるの」
「そういえば、何も言わずに突然帰って来てもちらし寿司があるね」
「もう100%の確率で当たるのよ、不思議でしょ。おばあちゃんなぜ分かるのかしら?」
たしかに不思議だった。
…そして不思議なことがもう一つ。
ちらし寿司は父の好物で、私はむしろ苦手だったということだ。