2020年4月にコテンラジオがJapan Podcast Awardsで大賞とSpotify賞をダブル受賞。この「コテンラジオ」を運営している「株式会社コテン」って、福岡の企業なんです!そのおもしろさにハマるサラリーマンが続出中ということで、フクリパ編集部がコテンラジオさんに突撃取材させていただきました!
福岡発、全国にファン急増!「コテンラジオ」とは?
2020年4月にJapan Podcast Awardsで大賞とSpotify賞をダブル受賞した「コテンラジオ」。このPodcastを運営している「株式会社コテン」は、福岡発のスタートアップ企業です。 「コテンラジオ」は株式会社コテン(以下、コテン)の広報活動として2018年11月に始まった歴史系Podcast。株式会社コテン代表の深井龍之介さん、メンバーの楊睿之(通称:ヤンヤン)さんと株式会社BOOK代表の樋口聖典さんの3名が日本と世界の歴史を面白く、かつディープに、そしてフラットな視点で伝えてくれるインターネットラジオです。 そのおもしろさにハマるサラリーマンが続出中!なかでもみんな大好き空海と最澄のお話は神的なおもしろさ!ぜひ歴史好きな方も、そうでない方も、まずは実際に聞いてみてください!
日本でのPodcastの主流は英会話、ニュース、芸能人発信のチャンネルなどが上位にランクインする傾向が強く、「コテンラジオ」は英会話に付随する「教養系」の枠で認知されやすかったのではないか、とのこと。そんなコテンラジオを運営している主要メンバーの3人やコテンラジオ誕生までの経緯についてご紹介します! 株式会社コテンの代表取締役・深井さんは、読書家のお父様の影響で、20歳の頃に歴史の本を読んだことがきっかけで興味を持ったそう。 「学生時代は歴史なんて興味もなかったのですが、政治的思想に偏ったり固有の人物を神格化したりしない、雑学的、知的エンタメとして歴史をとらえることができた瞬間から、めちゃくちゃおもしろいな!となりました」と深井さん。 一方、番組内で絶妙にいい味を出しているヤンヤンさんは、幼少期から日本で生活している中国人。お逢いして国籍を知らずにしゃべっていると、「博多の人!」としか思えないほど、(もはや日本語とかいうレベルではなく)博多弁が堪能です。そんなヤンヤンさんは、小学生時代にこれまた福岡出身の漫画家・小林よしのり氏の「ゴーマニズム宣言」を読んだことがきっかけで、歴史に興味を持ったとのこと。 さて、では株式会社BOOKの樋口さんはというと、こちらはラジオの中でもしゃべっていますが、深井さん、ヤンヤンさんと出逢うまでは、歴史なんてさっぱり興味がなかったそうです。
プロフィール
深井龍之介(写真右)島根県出雲市出身。九州大学文学部社会学研究室を卒業後、株式会社東芝の半導体部門経営企画に配属。その後株式会社リーボに取締役として参加。事業計画立案、資金調達、採用、サービス開発など幅広く経験する。2015年 株式会社ウェルモにCSOとして参加、社員2名から60名まで拡大し、2017年10月以降は社外取締役として経営に参画。2016年2月に歴史領域をドメインとした株式会社COTENを設立。 楊睿之(写真左)中国四川省成都出身。小学生の頃より日本に移住。 九州大学文学部比較宗教学研究室卒業後、中国四川でイチゴ・トマト栽培などの農業に従事。 その後、再度来日し環境系コンサル会社に就職、2017年に独立し、コンサルとして働く傍ら2018年よりコテンに参画。
樋口聖典 福岡県田川郡川崎町出身の起業家・実業家。株式会社BOOK代表取締役。元よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。元株式会社オフィス樋口代表取締役会長。どぶろっかーずのギター担当。JAPAN MENSA会員。座右の銘は「男真ん中堂々と」。(写真提供:樋口さん)
深井×ヤンヤン、からの樋口参入
では、なぜそんな3人が、こんな尖った番組をせっせと発信するようになったのでしょうか。 今に至るまでの背景に、いくつかの出逢いがありました。 まず、深井さんとヤンヤンさんは同じ大学の隣の学部だったということで、顔と名前は一致する存在だったのだとか。 あるとき、たまたま居合わせた飲み会で、二人は歴史が好き、という共通の想いがあることに気づき、意気投合します。 そうしてまずは二人でコテンの広報の観点で、YouTubeで音声発信していたのだそうです。 そしてあるとき、コテンが参加したビジネスプランコンテストで、優勝と準優勝を競った相手が、株式会社BOOKの樋口さんでした。 時を同じくして、北九州のコミュニティーFM局・FM KITAQでラジオをやっていた樋口さん。樋口さんの会社が運営する「いいかねPalette」内に録音スタジオがあるということで、「何かおもしろいコンテンツはないかな」と探していた樋口さんは、コンテスト参加メンバーの飲み会で二人と話し、すぐさま声をかけたと言います。 「僕、実は東京で音楽制作の仕事をずっとやっていたのですが、いろいろ思うことがあって地元田川に貢献したい、と今の会社をしています。昔取った杵柄で、音楽関係で何かできないかなということでスタジオまで構えましたが、『これからネットラジオの時代が来る』と考えていたので、二人の語る歴史を僕が茶々を入れながら進行するってアリだなと。最初はYouTubeでやっていましたが、バックグランド再生ができることを考え(当時はYouTubeではバックグラウンド再生がまだできなかったのです)、Podcastを研究してそちらでも配信することにしました」。 「実際に収録してみてわかったんですが、僕と深井君が二人でやっていた頃って、いわゆる録りっぱなしなんです。でも、樋口さんはしゃべりの間や音質に補正をかけてくれる。これが、実際に聞いてみると聞きやすさが全然違うんです。最初びっくりしました」とヤンヤンさん。
「歴史」をビジネスにする理由。
こうして始まったコテンラジオ。いくつかの偶発的な出逢いが重なり、今に至るようにも思えますが、そもそも、ただ歴史好き同士でわいわいくっちゃべるだけではなく、なぜビジネスにしようと考えたのでしょうか?
深井「歴史系のコンテンツって、大きくわけると3つあると考えています。一つはその人の気持ちがわかるような、人を軸にしたもの。もう一つは、社会的な構造がわかるようになるもの。そして三つ目は、思わず誰かにしゃべりたくなるようなトリビア的なもの。そして世の中に落ちている歴史系コンテンツって、どれもこのいずれかに偏っていると思うんです。でも、これをバランスよく織り交ぜることで、これって歴史をデータベースにできるんじゃないかと思ったんです。 僕たちは、思想を伝えたいわけでもないし、何かを証明したいわけでもないし、かといってただの雑学でもない。日本が良かった、悪かったとか、偉人の押し付けではなく、フラットな視点で語れるといいなと考えています。そしてそのためには、もとになるものが必要だと思うんですが、実はまだそれってとても少ないんですよね。こんなにも、おもしろおかしく語られ、ときに涙したり憤ったりするほどのものなのに。 ですから、“歴史をデータべース化する”という、人類がなしえていないものを作り上げることができたら、そこから無限にコンテンツが生まれるのではないかと思い、事業として取り組もうと考えました」。 つまり、コテンラジオはそんなデータベースをもとにした、3人なりの歴史コンテンツのひとつ、として展開しているという建付けということですね。
アキラメタ3人が考える、New Typeの「株式会社」
しかしこれって、どうやってマネタイズしていくのでしょうか…というところ、ズバリ聞いてみました。 深井「はい、お察しの通り、今はコテンラジオのファンからのマネタイズだけが収益です。あとは僕が他のベンチャースタートアップでやっている取締役や顧問の収入を会社に入れています。目標は、資金調達して2年以内にデータベースの完成です。 正直、“ビジネス”になるかはわかりませんが、“新しい価値”は提供できると思っています」。 ヤンヤン「実は僕たち、アキラメテルからこういうことができるんです」。
あ…アキラメル?人生を?サラリーマンを?何をでしょうか?? 深井「これからは、アキラメテル人が価値になる時代がくると思っています。人文学や哲学や歴史って、繊細な人しか興味を持たないのではと思っていまして、僕たちは社会で普通のサラリーマンとして生きていくことをアキラメテ、それぞれのきっかけがあって歴史に興味を持ちました。そうすると、もう知っちゃってるんですよ。名声なんて意味がないし、お金なんてたくさんあってもあっただけ幸せになれるかって、なれないんです。だから、時代によって変化しないものにしか興味を持てなくなってしまいました。もうすぐ資本主義の形が変わると僕たちは思っています。それでもなくならないもののひとつが、人文学であり歴史だと思うんです。 なので、資金調達では、歴史事業の社会的価値をしっかり理解してもらい、相当長い目でみた金銭だけではない社会的価値のリターンを見ていただける投資家の方とお話をしています。 そういう投資家の方って資産を増やそうというよりも社会的インパクトを重視してくれるんです。 そういう活動をするためには、既存の『株式会社』にする必要があると思ったので法人化しましたが、これから株式会社も変わっていくと思います。僕たちは、新しいタイプの株式会社になっていくと思っています」。 エンジェルに対し、ここまで堂々と「リターンなしの投資の提案」を口にする人もなかなか珍しいのでは!と編集部もびっくりしましたが、彼らはそれで失うものもなければ、名声が欲しいわけでもない、という“アキラメタ”ポテンシャルだからこそ、ここまで言い切ることができるのではないかと感じました。 いまは“アキラメタ”と表現している彼らですが、決してネガティブな香りはしないので、どこかでさらにピンとくる表現が出てくるのではないかと、裏テーマとして楽しみに見守りたいと思います!
そんな活動を、福岡でやってる3人に最後の質問!
さて、そんな3人に、福岡で創業している魅力についても聞いてみました。 深井「僕は島根出身で、大学で福岡に来て、東京に就職して死にそうな想いをし、スタートアップ系の新規事業の立ち上げの仕事をするようになってとある案件で福岡に戻ってきたのですが、死ぬほど住みやすいと思っております。とにかくQOLが上がりました。学生時代にはわからなかった街の魅力も、東京で働いてみて、よりわかるようになりました。就職した当初は、東京以外の場所に住むなんて都落ちだ!という選民思想がありましたが、あれ、今になって思えばなんだったんだろう、と…」。 ヤンヤン「とにかくご飯がおいしいことが一番ですね。IT化も進み、仕事は場所を選ばなくなってきていますが、食って場所がとっても大切だと思うんです。福岡に住んでいて本当によかったなと思う一番のポイントですね」。 樋口「僕、現在福岡市民で田川に半分単身赴任しているような形なんですけど、いまの仕事をし始めた想いって、『流動性を増やしたい』と思ったからなんですよね。いまの地方創生って、『うちがいいぜゲーム』になってる気がしまして、都会のコンテンツを田川に持ってこようとするのは非効率的だなと。そういうことではなく、僕は『これなら田川でやれる』をたくさん見つけていきたいと考えています。条件や環境でいけば、福岡に太刀打ちできることなんてそんなにないかもしれませんが、『●●をするなら田川の■■に行けば一番いいものができる!』というものを増やしていきたい。まぁ、そんな感じで福岡を見ています」。
三者三様の人生から、歴史へ歩み寄り、さらには事業化してしまい、と、「歴史」を軸に出逢った3人ですが、人生を“アキラメタ”ことで、とてもニュートラルな立ち位置で事業をとらえている様子が大変興味深い取材となりました。 彼らが描いている世界は、データベース化された「歴史」を活用することでいままでよりも本質的で深みのある人生や事業が創出される社会なのではないかと思います。これからも、コテンラジオ、注目していきましょう! 文=フクリパ編集部