コロナ禍で、「仕事のために出社する」「毎日同じ場所で働く」というこれまでの“常識”が塗り替えられようとしています。今はまだ国内外を自由に飛び回ることができない状況ですが、「世界中を旅しながら働く」ためのサービスで人気を集めている「HafH(ハフ)」。福岡と長崎に直営拠点を立ち上げる時は、2度のクラウドファンディングで計1,200万円を越える応援金を獲得しました。今回はライターの佐々木 恵美さんが、立役者の大瀬良亮さんに、事業にかける思いから展望、クラファンのコツまで教えてもらいました。
住まいのサブスク!36の国と地域、360都市に滞在できる
「好きな時に、好きな場所で働くための、住まいが見つかる月額制のサービス」をコンセプトに、2019年4月に事業をスタートした「HafH」。毎月定額を払えば、世界中に住むことができるプラットフォームだ。 現在利用できる施設は、世界36の国と地域、360都市、535施設まで広がっている。施設は、高級リゾートホテルから温泉宿、ゲストハウスまでさまざま。4つの料金プランがあり、ハイランクの施設を利用する場合は、月額に加えてHafHコインが必要となる。
そんな画期的なサービスを立ち上げた大瀬良さんは、長崎市出身の元電通マン。大学時代の友人と株式会社 KabuK Style(カブクスタイル)を設立し、「HafH」を始めた経緯をこう語る。 大瀬良さん 「2015年に内閣官房の内閣広報室へ出向し、ソーシャルメディアの担当になりました。世界中を移動しながら、パソコンひとつで仕事をする毎日。 朝フランスから昼はドイツに移動して、夜はベルギーに泊まるような目まぐるしい日々でしたが、街の風景も食べ物も現地の人たちとの交流も刺激に溢れていました。 東京では出社ギリギリまで寝ていたのに、睡眠時間を削って早朝に散歩に出たりして、自分が成長している実感もあって。だから、同じような経験ができるサービスを作りたいと思ったんです。」
告知目的のクラウドファンディングで、あたたかいコメントが支えに
「HafH」は“Home away from Home”(第2のふるさと)の頭文字で、「住まいとオフィスと地方をシェアする、全く新しい形のコミュニティ」を作ることを目指し、国内外の施設と連携を進めた。 一方で、HafHの象徴となる直営拠点を長崎市に作る際、Makuake(マクアケ)でクラウドファンディングを実施。408人のサポーターから、目標額200万円を大幅に上回る1,079万円を集めた。 なぜクラウドファンディングを利用したのだろうか。 大瀬良さん 「一番の目的は、告知マーケティングです。だからメディアのプロモーションに力を入れていて、しっかりコンサルティングもしてくれるMakuakeを選びました。サービスを始める前に、確実に売上をあげられるというのもクラウドファンディングの魅力でした。」
大瀬良さんがクラウドファンディングを利用したのは、実はこれが初めてではない。 2015年、戦後70周年を迎える長崎で原爆の記憶を未来につなぐイベントにはじまり、長崎・五島列島の高校生がドローンレースを行う時など、プライベートで関わるプロジェクトでMakuakeを利用してきた。 だが、HafHは自身が会社をやめて人生をかける一大プロジェクト。応援のありがたさが、より一層身に染みたという。 大瀬良さん 「事業を始める前からファンができたことは、すごくうれしかったです。知人はもちろん、全く面識のない人たちが僕らの取り組みを知り、共感して応援してくれるのはありがたいですよね。あたたかい応援コメントを書き込んでくださって、クラウドファンディング中はもちろん、今でもコメントに励まされています。」
「九州とアジアをつなぎたい!」との思いから、福岡に直営拠点をオープン
2019年4月のサービス開始から利用者は順調に増え、第2の直営拠点として2020年2月には福岡市の博多駅前に「HafH Fukuoka THE LIFE」をオープン。その際に行った2度目のクラウドファンディングでも、200万円以上を調達した。 大瀬良さん 「クラウドファンディングを通じて、またファンを広げたいという思いでした。福岡はアジアの玄関口。拠点を作るなら東京という風潮はあったものの、10年先20年先を見据えると、九州のポテンシャルはかなりデカい。 HafHを通じて九州と東南アジアをつなげて、地方創生の成功例になるといいなという狙いもありました。今はコロナ禍で地元の方の利用が多い中、長期間お住まいの方も増えてきました。ただの宿泊施設から働き暮らす場所に進みつつあります。」
都道府県別にみると、HafHの施設で最も多く利用されているのは東京の30%で、次が長崎15%、福岡は9%で3位につけている。コロナ禍のオープンとしては上々で、ポテンシャルの高さがうかがえる。
クラウドファンディング成功のコツは「キャッチ」「事前告知」「リターンの設計」
数々のクラウドファンディングを成功させてきた大瀬良さんにとって、うまくいく秘訣は何だろう。 大瀬良さん 「一瞬で“いい!”と思ってもらえるように、トップのキャッチの作り方が大切だと思います。僕らの例が見本になるかは分かりませんが、長崎では『長崎から広めたい!』、福岡では『We all♡Fukuoka! 福岡に旅して働き暮らせる拠点を!』と入れました。 このWe~は福岡の人向けというより、福岡の外の人たちの『福岡って何となくいいよね』という思いに刺さるように考えました。」
「さらに、“欲しい!”と思ってもらえるリターンがあるかどうかもクラウドファンディングにおいてはとても大切な要素なので、社内でしっかり検討しました。 「HafH」の場合は実際に店舗があるので、店舗まで来られる方へのリターン(割引や特典をもらえるもの)と、店舗まで足を運びにくい方向けのリターンを分けて設計しました。 我々の今回のプロジェクトの場合、店舗が福岡だったので、地域の方が訪れる際に使える特典がついたリターンだけでなく、ふるさと納税の返礼品のような形で“地元愛“を遠くからでもカタチにできるリターンも用意。地元・九州の食材を使った「九州パンケーキ」とのコラボリターンだったのですが、実際のところ、九州パンケーキ自体は僕たちのプロジェクトに直接関係はありません。 選定ポイントは、僕たちのプロジェクトに直接関係がなくても、リターンとして支援者が「欲しい」と思ってもらうリターンを用意することの方が大切だと思っています。コラボリターンを用意することで、もちろんコラボレーション先からの告知支援をいただける可能性もありますから、さらに告知が広がるというメリットもあります。 また、オープン前に『何日からこんなプロジェクトをします。〇〇さんにおすすめのリターンは〇〇です。もし買ってもらえなくてもシェアしてもらえるとうれしいです』みたいなメッセージを、お世話になっている方や知り合い、一人ひとりに送ります。クラウドファンディングはとにかく初動がカギなので、地道な事前準備や告知が本当に大切なんです。」
知人にアプローチするということは、反対に知人がクラウドファンディングするときは大瀬良さんも応援するのだろうか。
大瀬良さん 「もちろんです、僕は皆さんにすごくお世話になっているので、声をかけられることも多いですよ。メッセージが来たら忘れないようにすぐ買うのですが、すぐ忘れてしまい、実は同じクラウドファンディングで同じリターンに2回申し込んだこともありまして…相手から見ると『おい、また大瀬良から来たよ』って感じですよね(笑)。」
自身の経験を踏まえて、クラウドファンディングをやってみたい人にはこうアドバイスする。 大瀬良さん 「クラウドファンディングは事前に声をかけたり、一人ひとりに合うプランを考えたり、リターンを送ったりという手間はむちゃくちゃかかるという覚悟を持っておくことが大事だと思います。一方で、応援してくださるファンができるというのは、その後のビジネスやプロジェクトにも絶対に役に立ちます。」
ライフスタイルのプラットフォームとして進化する
2019年のオープンからHafHの利用者は右肩上がりだった。しかし、コロナ禍の緊急事態宣言により、2020年4月には利用者数が底を打ったという。その後、会社員の利用が増えて見事にV字回復。さらなる成長に向けて、チーム一丸となって情熱を注いでいる。
大瀬良さん 「場所にとらわれずに働きたいという空気感が高まり、どんどん拠点が増えています。今は360都市の拠点を500都市にしようとスパートをかけているところです。これまでJR西日本さんやANAさんと連携して移動も含めたサービスも展開してきましたし、今後はさらにライフスタイル全体のプラットフォームになるための布石を置いていきます。」 また、海外の利用者を増やすべく、まずは台湾の人向けに繁体字のページを作りPRに力を入れ始めたところ、かなり好評だという。
大瀬良さん 「コロナ禍のこの1年、皆さんが理想とする新しい働き方や暮らし方が少しずつ見えてきたのではないでしょうか。2021年は、世界中の人たちが新しい未来に向けて歩み始めるスタートライン。 会社や自宅から解放されて、自由に働き暮らす時代へと変化する中で、ファーストステップとしてぜひHafHを利用していただきたい。僕らももっともっとチャレンジしていきます。」 大手企業をやめて、世界を相手に新たなサービスにチャレンジしている大瀬良さん。起業して「悔いは全くございません」と潔く言い切る。「会社員時代は、名前ではなく“電通さん”と呼ばれることもありました。でも、今は自分の経験や思いによってサービスを作りながら、心からの精いっぱいの言葉で紹介することで共感してくれる人が増えていく。大瀬良亮として勝負する怖さと隣り合わせではあるけれど、ものすごくやりがいがあります」と明るく軽やかに語る。まさに時代の潮目に立ち現れた新事業は、きっと心躍る未来を私たちに見せてくれるだろう。 文=佐々木 恵美