福岡市公式インスタグラム連動企画「#fukuokapeople」。福岡で魅力的な活動をしているさまざまな方にフォーカスを当て、プロジェクトの内容をはじめ、活動の裏側や熱いメッセージを伺います。今回は、福岡市を拠点に活動するアーティスト・銀ソーダさんにインタビュー!表情豊かな青を基調に「記憶と時間の可視化」を表現する銀ソーダさんから、熱い想いで取り組んできたことやアーティストとしての展望など、様々な話をお伺いしました。
思い出が詰まった「大學湯」への再訪が、ターニングポイントに。
生まれも育ちも福岡市・箱崎の銀ソーダさん。SNSで「#GinsodaBlue」とハッシュタグ検索すると、水の中に飛び込んだように伸びやかで美しい青の世界が広がります。特に注目を集めているのが、銭湯跡地「大學湯(だいがくゆ)」をギャラリーとして使用した作品展示。1932年(昭和7年)創業の公衆浴場跡地に、躍動感溢れるブルーの作品が溶け込み、懐かしさと新鮮さが交差するユニークな感覚を体験できます。
「大學湯」は銀ソーダさんが幼い頃から通っていたという地元の思い出の場所。10年前に廃業し、老朽化が進んだことにより建物の存続が危ぶまれましたが、貴重な銭湯跡地を利活用する動きがあり、銀ソーダさんは有志の一人として運用のサポートを行っています。
銀ソーダ:「3年前に大學湯の利活用を目的としたオープンハウスが行われ、思い出の場所に久しぶりに訪れたのですが、長年空き家になっていたことからアチコチがぼろぼろに痛んでいました。建物って誰かによって使われないとこんなにも朽ちてしまうのかと衝撃的でしたし、建物が泣いているようにも感じました」
もともと、芸術を通して地元に貢献したいという想いがあった銀ソーダさん。大學湯のオープンハウスを機に、大切な思い出の地について改めて考えるようになったと語ります。
地域の思い出の銭湯跡を利活用するプロジェクトに参加!
その後、銀ソーダさんは東京で大學湯の所有者・石田さんと再会を果たし、銭湯の思い出話で意気投合。また、自身の作品に懸ける想いについて語ったところ、大學湯の修繕工事着工前の一定期間、浴場スペースをアトリエとして貸し出してもらえることに…!
銀ソーダ:「私は『記憶と時間の可視化』をテーマに作品を制作しています。記憶と時間は目に見えないものですが、自分の人生に色濃く積み重なっていくもの。大學湯で過ごした記憶と時間も、今の私の作品に大きな影響を与えていると思うんです」
そして、2019年には大學湯の銭湯跡地で個展も開催しました。
銀ソーダ:「個展をきっかけに、皆さんが大學湯にも興味を持ってくれて嬉しかったですね。ここでたびたび展示会を開いてきましたが、回を重ねるごとに大學湯への思入れが増して、本腰を入れて利活用のプロジェクトに携わりたいという想いも強くなりました」
2020年7月、所有者の石田さんを筆頭に一般社団法人DGYを立ち上げ、銀ソーダさんは昨年理事に就任。アート制作の傍ら、大學湯の利活用プロジェクトに本格的に加わりました。
銀ソーダ:「昔から大學湯は、人と人のコミュニティの場として親しまれてきた場所。その記憶の片鱗や文化を引き継げるようレンタルスペースにして、再び人が集い、温かい繋がりやコト・モノが生まれる空間に育てていくことを目標にしています」
昨年挑戦したクラウドファンディングが目標支援額を達成し、大規模修繕が実現。銭湯の名残や温かな空気感が見事に蘇りました。
銭湯跡地での個展が、“アートの体感”を楽しめる唯一無二の機会に。
銀ソーダさんは、「大學湯という空間に、自分が表現するアートの可能性を拡げてもらった」と語ります。
銀ソーダ:「今までは平面のキャンバスに絵を描いてきましたが、銭湯跡のスペースを活かして空間芸術作品をつくることができ、個展でも大きな反響をいただきました。私は大學湯に表現の幅を拡げてもらえましたし、大學湯としてもアートが加わることで息を吹き返したようにも感じます。相乗効果を実感しましたね」
廃業から時が経ち、朽ちて果てていた銭湯跡に光が差し、色が加わり、人に使われることで生気が戻ってきました。そしてアートとの融合により、かつての輝きを取り戻しながら唯一無二の存在へと昇華しています。
銀ソーダ:「大學湯での初個展で、私が表現したかった抽象作品はこれだ!と感動しましたね。『記憶と時間の可視化』という簡単には表せない、本質的な核の表現を追求してきましたが、様々な記憶や情景を残す銭湯跡地でアートを制作し、展示したことで、理想とする表現を具象化できたように感じます」
まちや日常に、心を映すアートが寄り添うって素晴らしい。
昨年、福岡市内の仮囲いや壁面等にアート作品を掲出する「Fukuoka Wall Art Project」が行われました(現在も一部箇所で掲出中)。美術分野のアーティストにスポットを当て、まちなかの仮囲い等を活用し、作品発表の場と展示・販売の機会を提供しようと福岡市が企画したプロジェクトです。
このコンテストに応募した銀ソーダさんは見事入賞し、博多駅前の西日本シティ銀行本店本館建設工事の仮囲いに作品が掲示されました! 絵のタイトルは「鏡」。
銀ソーダ:「私自身、抽象画を鏡のような存在だなと思っているんです。同じ作品でも見る時々の心境によって作品の見え方が変わり、まるで自分の心を映し出す鏡のようだなと。『Fukuoka Wall Art Project』で飾られた私の抽象画も、通勤・通学する人々の目に毎日触れる場所に掲出されるので、絵を通して自身の心に向き合えるきっかけになればいいなと思いました」
多くの人々が行き交うまちに自分のアートが溶け込む景色を見て、感慨深くなったという銀ソーダさん。
銀ソーダ:「『Fukuoka Wall Art Project』は私たちアーティストのためだけではなく、街ゆく人の心を刺激し、感性を育てられる機会になったと思います。感性が磨かれ、豊かになれば、身の回りの小さなことにも感動できます。福岡市のこうした素晴らしい取り組みを見て、地元への期待値が上がりました」
夢を抱くことの大切さと地元への想いを胸に、未来へ邁進!
30代まではアートの創作活動に集中しようと心に決めていた銀ソーダさんですが、大學湯との繋がりによって新たな目標が芽生え、アート活動にもいい影響がもたらされているようです。
銀ソーダ:「人間と同じように建物も生きていて、その寿命は永遠ではありません。今誰かが手を加えないと存続できないと知り、覚悟を決めて大學湯の利活用のプロジェクトに取り組んできました。箱崎は歴史が深い情緒あるまち。魅力的なこのまちと建物を未来に残し、古き良き文化や情景を多くの人に体感してもらいたいですね」
また、アーティストとしてのこれからの展望も伺いました。
銀ソーダ:「人生は短く、時間も限られているので、その中でいかに楽しんで生きられるか。大切な夢を持っていきいきと歩めるか。そういった大切なことを伝えられるよう、まずは私自身が体現していけたらと思っています。
今はアートの制作活動に打ち込んで、30代は拠点を世界各地に移し、40代は大好きな福岡市に戻って表現者をサポートできるようにもなりたいです。最終的には地元・箱崎に自分の美術館を建てて、地域を盛り上げたいという夢もあります。そのためにも、心動かされる「なにか」を画面に表現していき、ひとりでも多くの方に届ける努力をしていきたいと思います!」
「記憶と時間の可視化」を生涯かけて表現していきたいと語る銀ソーダさん。高い志で邁進する若きアーティスト、銀ソーダさんの今後の創作活動に注目しましょう。