機能低下した腎臓の働きを人工的に代替する「人工透析」は、重度の腎障害患者が生命維持するために必須の治療。コロナ禍であっても治療を控えるわけにはいきません。そこで「福岡東ほばしらクリニック」の張同輝先生に、密を避け安心して行えるとして注目されている、「完全個室対応」の透析治療についてお聞きしました。
【腎臓専門医】 医療法人やまびこ会 福岡東ほばしらクリニック 張同輝先生
大阪府出身。弘前大学医学部卒業。日本透析医学会指導医、認定医。2019年「福岡東ほばしらクリニック」院長就任。内科、腎臓内科、糖尿病内科を中心として、地域の「灯台」になるような安心できるクリニックを目指す。
新型コロナの重症化リスクが高い透析患者だからこそ環境第一
新型コロナウイルスが猛威を振るうようになり、早2年。感染対策が日常化し、日々新しい情報がアップデートされるようになる前までは、未知の感染症に関する情報が錯綜し、重症化リスクの高い透析患者の方々は不安な毎日だったと思われます。免疫力が落ちている透析患者が、もしも新型コロナウイルスに感染した場合は、症状の程度に関わらず国の指針に沿って、原則入院となっています。しかし、感染が爆発的に流行した時期に、しかるべき施設に入院できなかった透析患者もおられたため、今後も感染リスクを避けた生活や行動が大切です。
「できれば出かけたくない」「人との接触時間を短くしたい」と希望しても、カーテンやパーテーションだけで仕切られた大部屋型の透析室で他の患者の気配を感じながら、最低でも4時間は透析を受けなければならない患者にとって、その環境は大きなストレスになるのではないでしょうか。
しかし「完全個室型」で透析を行う病院では、多くの患者に過剰な不安を与えることなく、いつもと変わらない治療が受けられるとして、全国の患者からの注目を浴びています。
プライバシーを守るだけでなく社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保つ完全個室型透析
もともと完全個室型の施設は、夜間就寝中に透析治療を行う「オーバーナイト透析」を希望する患者のために少数ですが存在していました。
しかし新型コロナウイルスの流行により、「プライバシーを守る個室」であることが、感染リスクを減らす「ソーシャルディスタンスがとれる空間」として注目を浴びるようになったのです。
オーバーナイト透析は夜間の睡眠時間を活用する治療のため、日常生活への影響がほとんどありません。また、日中行われる一般的な透析の2倍にあたる約8時間を使って、ゆっくりしっかりと毒素を抜いていくので、体への負担が少なく、より治療の効果が実感できます。
当院の場合、ドア付きの個室(全40室)の広さは平均して7.7㎡(4畳半相当)。そこに、ベッドと透析装置だけがあるゆったりした静かな環境です。転院や通院を考えて見学に来られた多くの方が、個室の環境も決め手の一つと感じてくれているようです。
今後需要が高まる「在宅透析」。治療回数制限もなく生活の質もUP
もし軽い風邪などで発熱した場合でも、透析患者は生命維持のために「受診控え」することができません。そんな通院時のストレスや感染リスクを解消したい方のニーズにマッチした、「在宅透析(在宅血液透析)治療」のニーズが拡大するのは間違いないでしょう。
在宅透析の場合、週3回の通院の手間が不要で、月14回までという保険上の治療回数制限もなく、毎日透析を行うことが可能です。毎日透析ができれば1回あたりの透析時間を短くしたり、ゆっくり行ったりすることもできるので、身体への負担も低減できます。当然、通院に伴う感染リスクもなく、自分の生活リズムに合わせた透析ができます。また、透析装置も病院から保険適用で貸し出されるので、治療費自体が高額になることもありません。
元気で若い方ほどおすすめ。在宅透析で通院の手間とリスクを解消
それらのメリットから、「自宅で寝たきりの家族に在宅透析をしたい」という問い合わせも多いのですが、在宅透析には「事前の治療トレーニングに2~3カ月通っていただけること」「透析治療を管理できる能力があること」「介助者が必ずいること」などの必須条件があります。
先日、在宅透析を希望される患者が県外からお越しになりました。50代で自営業をされており、忙しい中で日中長い時間拘束される通院透析が難しいものの、オーバーナイト透析を受けられる施設が近隣にないということで在宅透析を決断。
もちろん、「透析器の設置スペースの準備が必要」「電気・水道代が高くなる(地域により異なる)」「治療に必ず介助者が必要なので、同居人や近隣にサポートできる人がいない方は難しい」などの条件はあったのですが、まだ50代と若く、自立した働き盛りのこの患者には在宅透析がベストでした。 世界的に普及が進む在宅透析治療ですが、日本は人工透析患者全体(約34万7千人)のうち、わずか0.2%ほどにとどまっています(※)。私たち医療提供側も、もっと体制を整え、コロナ禍の中で、より患者の生活の質を高める治療を目指すことが課題と考えています。
(※日本透析医学会調査(2020年末)より)