私が勤める会社に新卒入社したSさん。地味で物静かな性格の彼女でしたがすぐにその本性を現し、楽しかった職場は一変します。新人Sさん対先輩女子社員。勝敗の行方は!?
時は90年代 会社に新人さんがやってきた!
私が勤める会社へ入社した新人Sさん。控えめな印象のSさんでしたが、すぐに気になる言動が増えはじめます。ある女子社員がクッキーを焼いてきてくれた時のこと…
「みなさんよかったらどうぞ!」かわいい箱につめた手の込んだアイシングクッキーを手に微笑む女性の声をかき消す声で
「こんなことなら昨日つくったケーキを持ってくればよかった~。三段デコレーションにしてしまったから、満員電車で持ってこれなくて。次は持ってこれるような簡単なものを作りますね」と心から申し訳なさげな表情で話すSさん。
また、女子社員で将来住みたい家について他愛のない話をしていた時、誰かが
「2階建ての家に住みたい」と言えば
「今住んでいる家は2階建てなんです~」
また誰かが
「縁側でお昼寝するのが夢だ」と言えば
「昨日した!」と返す有り様。女子社員たちはイライラを募らせていきます。
友達はあの国民的アイドル!?
そんなSさんには仲の良い男友達がいます。彼の愛称はたくちゃん。
「この前、たくちゃんとスイーツビュッフェに行ったら、毎回たくちゃんが取って、盛り付けてくれて。かっこいいし、ほんとやさしいんです!」
迷惑がかかるから名前は言えないけれど、大手アイドル事務所に所属している超有名人だそう。誰がどう考えても木村○哉。20代の結婚前の木村○哉…
え… 彼氏はあの人??
しばらくするとSさんに彼氏ができます。
“何カ月か前に東京駅で肩と肩をぶつけた男性がいた。その後、大阪駅でまた肩と肩をぶつけた男性がいて、なんと東京駅と同じ彼だった。運命を感じお付き合いをはじめた彼は天才音楽プロデューサーだった。”
そう、時代はTKブーム。その彼は誰がどう聞いても小室○哉なんです。ちょうど離婚され、シングルになったタイミングの…。
クリスマス翌日の昼休み、彼氏とクリスマスツリーを見に行った話を嬉しそうにする女子社員を笑顔で見つめるSさん。今日はやけにおとなしいなと思っていると、話が終わった瞬間
「昨日彼氏が3メートルはあるクリスマスツリーを家に持ってきてくれました! 本物のモミの木にオーナメントの代わりにプレゼントがいっぱいぶら下がってるんです。バッグとかアクセサリーとか!」と、Sさんが満面の笑みで言うと女性先輩社員が
「どうやって持ってきたん?」と切り込みます。
「トラックです!」と、余裕の笑顔で話すSさん。
先輩「小室○哉が東京から運転してきたん? そんなでっかいツリー持って来られたね」
S「彼の名前は言えないんです…。けど寝ずに運転してきてくれました。木を横倒しにして、イルミネーションのキラキラでくくってくれて、きれいだったな」
このようなやり取りがしばらく続き、仕事帰りにそのツリーを見せてと突っ込まれると、
「ツリーは邪魔だからプレゼントだけおいて持ち帰ってくれたんです」と笑顔で答えていました。
あれから30年、今でもSさんを思い出します。話のネタが尽きない彼女と先輩女子社員とのまるで漫才のようなやり取りが私は好きでした。今はどんな仕事をされているのかな。お母さんになっているかしら。入社してすぐ結婚退職されたけどあれは事実だったの? 頭の回転の早さと豊かな想像力を持ち合わせたSさん。もしかして今ごろ芥川賞小説作家にでもなっていたりして。
(ファンファン福岡公式ライター/原田らむね)