福岡のコーヒー業界をけん引する「REC COFFEE」。コロナ禍の危機を救ったファンからのエール

福岡のカフェ好き、コーヒー好きであれば、知らない人はいないであろうスペシャルティコーヒー専門カフェ「REC COFFEE(レックコーヒー)」。現在の共同代表である岩瀬由和さん・北添修さんが2008年に移動販売店舗からスタートし、今や東京にも店舗を持つ福岡生まれのコーヒーショップです。地元ファンが多くいる身近なカフェですが、2020年春、新型コロナウイルス感染症拡大で大きなピンチを迎えてしまいます。今回は、ライターの戸田 千文さんが、従業員の雇用を守り、お店を続けていくために支援を募ったクラウドファンディングでの経験を、岩瀬さんにうかがいました。

出典:フクリパ
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福岡で生まれ愛される、コーヒーショップ「REC COFFEE」

2008年に移動販売店舗からはじまった「REC COFFEE」。現在は福岡の薬院駅前店、博多マルイ店などのほか、東京にも店舗を構えています。お店でいただけるのは、豆の栽培からこだわるスペシャルティコーヒー。新鮮な豆で淹れたコーヒーは、ほっと心をほぐしてくれます。コーヒーやスイーツを味わったり、店員さんと挨拶をかわしたり、そんなひとときを楽しむためにお店に足を運んでいるという読者もいることでしょう。

多くのファンがいるREC COFFEEでしたが、2020年春、新型コロナウイルス感染症の影響で、営業の自粛を余儀なくされました。テイクアウトやオンラインショップの販売を行ったものの、店舗の売り上げには及ばない状態。そんな苦境に立たされた同店が、「なんとか従業員の雇用を守りたい」とチャレンジしたのが、クラウドファンディングです。

雇用を守り、店舗を継続するためにクラウドファンディングに挑戦

REC COFFEEがクラウドファンディングで支援を呼びかけたのは、2020年4月末。日本全国に緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出自粛や飲食店をはじめ、多くの商業施設が休業要請を受けていたころです。REC COFFEEでも、テイクアウトやオンライン販売を中心とした営業に切り替えました。代表の岩瀬由和さんは、どんな思いで支援を募ることを決めたのでしょうか。

出典:フクリパ:移動販売車でコーヒーを販売していたころ

岩瀬さん 「感染症の影響で、客足が減ってきたのは2020年の3月ごろでした。緊急事態宣言が発令されてからは営業も自粛することに。地域と共存するコーヒーショップとして、人が集まり感染症を広げる可能性があるなか、通常通りの営業は考えていませんでした。 とはいえ、当時はまだ行政からの支援の施策はほとんど発表されておらず、経営は非常に厳しい状態に。店舗継続のために、「自分たちでできることはなんでもやろう」と動いていました。カレーを売ったり、デリバリーをスタートさせたり、思いつくことにチャレンジ。そのひとつがクラウドファンディングの取り組みです。 支援を求めたのは、従業員の雇用を守り、店舗を継続するため。リストラをすれば、店舗の継続はできたかもしれませんが、それはしたくなかった。REC COFFEEのアイデンティティであるバリスタたちを辞めさせたくないという強い思いがあったんです。」

出典:フクリパ:REC COFFEE 薬院駅前店

気持ちを後押しし、支えてくれた応援メッセージ

こうして、2020年4月27日からクラウドファンディングをスタートさせました。リターンには、コーヒーチケットやおうちで楽しめるドリップバッグ、コーヒー豆などを用意。どれも支援してくれた金額以上の価格で販売しているものです。告知は、REC COFFEEの公式SNSのみでしたが、多くの人に拡散され、およそ1カ月で440人から460万円以上の支援金が集まりました。これはいい意味で岩瀬さんの予想を裏切る結果だったそうです。

岩瀬さん 「当初の目標金額は300万円。集まっても300万円が限界で、正直、目標を達成できるとは思っていなかったんです。それなのに、3~4日ほどであっという間に目標を達成。最終的に460万円を超える支援が集まったのには、感謝の言葉しかありません。 お金が集まることはもちろんありがたかったのですが、それ以上にうれしかったのが皆さんから届いたメッセージです。読んでみると、これまでカフェを利用してくださった方がほとんど。以前、福岡に住まれていて今は県外に引っ越された方、創業当時に利用してくださった方もいらっしゃいました。 普段、直接お聞きすることない言葉をメッセージでいただけて、まるで手紙みたいだなぁと思いました。読んでいると泣けてきましたね。非常に大変な時だったので、その言葉のひとつひとつが気持ちを後押しし、支えてくれました。」

出典:フクリパ

本質を大事にして真摯に向き合うことで、愛される店に

岩瀬さんを支えた支援者からのメッセージは、今もクラウドファンディングのプロジェクトページで読むことができます。これほどまでに、多くのお客さまに愛される理由は何だと思われますか。

岩瀬さん 「私たちは、お客さまに「ワクワクするような体験を届ける」ことを目標にしています。コーヒーは、お客さまとスタッフを繋いでくれるもの。REC COFFEEという場所で、それぞれの時間や思い出、大切なものを作ってもらえたらと思っているんです。 コーヒーを淹れる技術はもちろんですが、それ以外にも、スタッフにはサービスやホスピタリティで楽しさやワクワク感をお客さまに届けようと伝えています。具体的に何をしよう、というのを私から直接伝えるのではなく、方法はスタッフの解釈次第。コーヒーを利用しながら、人と人とのつながりを作り、地域に根差したお店になっていったのかなと考えています。 私は大学卒業後に愛知から福岡へ引っ越してきたのですが、福岡の方は、本質を見抜く力が強いと感じています。接客や品質が、中途半端なものは残らず、いいものだけが残っていく。本質を大事にして、お客さまと真摯に向き合うことで、福岡の人やまちに愛されていくんだと思いますね。」

出典:フクリパ

メリットは、フェアな条件で支援を募れること

「多くの応援メッセージをいただけたことが、何よりうれしかった」と話す岩瀬さん。クラウドファンディングでは、前を向くきっかけをもらえたことが最大の喜びといえますが、実際に経験してみてどんなメリットやデメリットを感じたのでしょうか。

岩瀬さん 「クラウドファンディングでは、自分たちの気持ちや状況をしっかりと伝え、リターンをしっかり用意することで、フェアな条件で支援を募ることができるのはとても良いと思います。私たちも、格好つけることなく、正直に状況を伝えることを大切にしました。せっかく皆さんが支援してくれたお金をどう使うのか、収支も細かく報告できたのもよかったです。 デメリットは、思いつかないですね。あえていうなら、今回のような支援の場合、手数料は極力抑えたいのでプラットフォームを吟味する必要があります。デメリットではないかもしれませんが、プロジェクトの成功はタイミング次第ということもあると思います。 例えば、私たちがチャレンジを決めたのは2020年4月上旬。すぐ準備に取り掛かりましたが、実際にプロジェクトがスタートしたのは、4月のおわりです。これは申請や審査に2~3週間程度必要なため。5月の半ばごろには、同様のプロジェクトが増えていたので、タイミングがずれたら、同じ金額は集まらなかったかもしれません。」

アフターコロナを見据えて、新しい取り組みも

消費者の環境が大きく変わる時代の転換期を迎え、奮闘する飲食業界。そんな中、REC COFFEEでは、ニューノーマルな時代に向けて新しい取り組みをはじめています。

岩瀬さん 「カフェには、徐々にお客さまが戻りつつありますが、コロナ禍以前に比べればまだまだです。この1年でライフスタイルは大きく変わったので、感染症が落ち着いても、以前の8割程度のお客さましかお店には戻ってこないのではと感じています。だからこそ、今後はオンライン販売を強化していく予定。おもしろい企画を考えて、新しいコーヒーの楽しみ方をどんどん提案していきます。 もし、次にクラウドファンディングで支援を集めるなら、ポジティブな挑戦をしたいですね。「助けてください」というのは、もうやりたくない。トライしたいことがあるけれどまずはテストマーケティングをしたいときや、お客さんと一緒に楽しみながらできる内容でチャレンジしたいです。」

出典:フクリパ

取材中、岩瀬さんが繰り返し述べていたのは、支援した方への感謝の言葉。クラウドファンディング自体は、経営者として不本意なチャレンジだったのかもしれません。そんな中、「クラウドファンディングでたくさんの支援者の声を聴くことができたのは、良い機会でした」と岩瀬さん。福岡の人々に愛され続けるお店だからこそ集まった多くのエールは、お金以上の価値があったに違いありません。 文=戸田 千文

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

成長する地方都市 #福岡 のリアルな姿を届けます。福岡のまちやひと、ビジネス、経済に焦点をあて、多彩なライター陣が独自の視点で深掘り。 「フクリパ」は「FUKUOKA leap up」の略。 福岡で起こっている、現象を知り、未来を想像し、思いをめぐらせる。 飛躍するまちの姿を感じることができると思います。 https://fukuoka-leapup.jp

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