私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
祖母には船乗りの叔父がいた。
小さな帆船に四、五人で乗り込み塩や海産物を大阪や岡山に運び、食糧や日常品を積んで村に帰るという仕事だった。
いつものように荷物を届けた帰り、真夜中に叔父が当番で舵を取っていると船の柱の下に祀(まつ)っている船霊(ふなだま)さんから「ちんちん」と音が聞こえる。
「船霊さんのお知らせや! こら用心せんと何が起こるやら分からん」
眠っていた仲間のところへ行きかけて、おかしなことに気がついた。
帆は風を受けているのに船は進んでいない…。
灯火を下ろしてみると、波がぎらぎらと光った。
いや、波じゃない…海面を埋め尽くすおびただしい数の魚だ!
「ひっ!」
思わず出た声に、魚達が一斉に叔父の顔を見た。
なんとも言えない光景に呆然としていると、背後で声が聞こえた。
「こりゃ大漁じゃ! なんぼでも獲れるわい」
いつの間にか起き出した仲間のRが網で魚をすくっている。
「こんな魚を獲っちゃろくなことにゃならん。船霊さんの知らせもあったぞ!」
「そうじゃ! やめておけ」
起きだして来たほかの仲間も激しい剣幕で迫ったので、Rはしぶしぶ獲った魚を海に放った。
「惜しかったのう…」Rがそう言うと暗い波の上から声が聞こえた。
「ほんに…」
女の声だった。
Rはそれからすぐ船乗りをやめた。
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