私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
小学校2年生の6月…雨が降り続いていたある日、近所の材木屋さんが祖母を訪ねて来た。
「ちょっと来てくれん?」
挨拶もそこそこにそう早口で告げると、祖母を伴って出て行った。
その慌てた様子が気になったので二人の後を追いかけた。
材木屋に着くと、積んである材木を指差しながら話している。
「昨日までなかった、いやおらんかったんよ。何やろう?」
最初は猫かと思った。しかしすぐに「全然違うモノ」だと分かった。
ソレは材木の上で雨にうたれていた。真っ黒な塊で、表面はゴム糊か溶かしたニカワのようだった。
何だろうとじっと見ていると…「えっ? 動いた?」
側に立てかけてあった木材で突こうとすると、祖母に止められ先に帰るように言われた。
しぶしぶ先に帰って待っていたが祖母はなかなか戻ってこない。
結局帰って来たのは日が落ちてからだった。
「あれ何だったの? どうなったの?」
「昔々…子どもの頃に一度だけ同じモノを見たね。その時、私のおばあさんが“お還し”するのを見てたので、同じ事をやってきたよ。あまりヨクナイモノだから、ああいうのには近寄っちゃ駄目だよ」
久しぶりに太陽が顔を見せた翌日、学校の帰りに友達を誘って見にいったがソレはもういなかった。
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【50年後の後日談】
先日、実家に戻った際にふと気になって見に行ったら、あの材木屋がない。
場所を間違えたかと思い、夕涼みをしていた人たちに尋ねると年配の男性が答えた。
「たしかにここは材木屋さんだったけれど、不審火で丸焼けになってね…もう二十年くらい前になるかな…」
ぞっとした。