私は毎日子育てに追われるワーママです。家事や育児の分担について夫には常々不満を抱いていており、ついに夫婦に危機が訪れます。そんな時出会ったカップルカウンセリング。まだ日本では馴染みがないカウンセリングが、夫婦の危機をどう救ったのかをお伝えしたいと思います。
夫婦仲が険悪化していった理由
当時専業主婦だった私は家事の99%をこなしており、夫は通勤のついでにまとめられたゴミを集積場にもっていく程度でした。また子育てに関しても、子どもが泣こうが喚こうが、夫はずっとテレビやスマホを眺めながらソファでゴロゴロ…。私が
「おむつを替えて」などとお願いして、夫はやっと重い腰をあげます。
「ハイハイ、わかりましたよ」と投げやりな態度の時もあり、だんだん怒りが湧いてきた私は、鬼嫁化して夫に指示を飛ばすようになりました。
鬼嫁効果で動くようになった夫ですが… 例えば息子の話に付き合って、と指示を出したとします。夫は最初こそ息子の相手をしますが、そのうちTVに目が移り、だんだんと生返事に。すると息子は
「お父さん、つまんない!」と憤慨し、それをなだめつつ私が家事をこなすことになるのです。
夫婦を諦めた私の決断
鬼嫁で試行錯誤を繰り返して2年。改善の余地がない夫に怒りを通り越して諦めの境地に入った私は、真剣な眼差しで
「距離を置きたい」と夫に申し出ました。慌てた夫は
「もう一度話し合おう」と言いましたが、今さら何をとつっぱねました。私は仕事を始め、家事や育児もすべてこなし、文句やお願いは一切言わず、卒婚や離婚を視野に入れながら、自分1人でどこまでやれるか試してみたかったのです。
でも「なんで私ばっかり…」という思いが常につきまとい、私は疲弊していきました。そして夫も、なぜかやる気をなくしたような鬱々とした状態に…。私や息子たちとも全く話さなくなり、まるで父親不在の家庭のようでした。限界寸前の私にママ友が教えてくれたのが近所で評判のカウンセラーの先生。わらにもすがる思いで先生の元を訪れました。
険悪夫婦がカップルカウンセリングを受けたら?
憔悴しきった私に、先生は夫婦でカウンセリングを受けることを提案します。まずは先生が個別に夫に会い、性格検査やカウンセリングをします。その後先生からフィードバックを受けた私は、夫がトラウマを抱えていることを知りました。両親の不仲のせいで人と向き合うことができなくなっているそうです。そして夫にも私の苦しい胸の内を伝えてくれました
そしていよいよカップルカウンセリングがスタート! 傍から見ると仲介人がいる夫婦の話し合いですが、先生は私たちのやりとりを分析し、心理的な手法を使って介入します。私が夫に怒りを露わにすると、先生は
「奥さまはすべて1人で背負ってお辛いのですね。ご主人にその荷物を背負ってもらうにはどうしたらいいでしょう?」と優しく夫に語りかけます。また逆に夫の辛さも丁寧にすくい取り、私に訴えかけます。
トラウマと鬼嫁攻撃で殻に閉じこもった夫の心を、先生は温かな笑顔で解きほぐし、良い夫婦関係を構築していくヒントを私達に与え続けました。そしてカップルカウンセリングが始まって数カ月後。夫は少しずつ自分から家事をやるようになり、子どもたちにも自分から話しかけるようなってきました。
父親の関心が自分に向いていると感じ取った子どもたちが
「ねえ、お父さんちょっと聞いてよ…」と夫に話しかけることもあり、父子の自然なコミュニケーションが生まれるようになりました。私も自分から家事や育児をするようになった夫に感謝できるようになり、少しずつ関係がいい方向に向かっているのを感じています。
こうなると、ほぼ解決に向かっているように見える状況ですよね。でも実はまだ解決ではないのです。これから一番肝心な夫のトラウマに取り組むことになります。そもそもトラウマを抱えた夫が人に心を開けず、夫婦のお互いの理解や絆が深まらないがために、子育てや家事の分担が上手くいかない、ということが最大の原因。夫がトラウマを乗り越えなければ、表面上は上手くいっていても、本当の家族の絆が築けないのです。
先生から提案された驚きの作戦
ある時、先生から
「一旦カップルカウンセリングを中止して、個別にやりましょう」と提案がありました。先生のことだから何かしらの意図があると感じ取った私は快く承諾。一年近くのカウンセリングを経て、先生のことをすっかり信頼しきっている夫にも、全く異論はありませんでした。
まず夫と個別のカウンセリングを行い、トラウマについて深く掘り下げます。そして次に私の番が来た時、先生は驚くべき提案をしました。それは
「次はカップルカウンセリングを再開しますが、殴り合いや怒鳴り合いになりそうなくらいの喧嘩を奥さんから旦那さんにふっかけてください」というものでした。
仲を改善するためのカウンセリングなのに、なぜ喧嘩? しかも深いトラウマを抱えた人にそんなことしていいの? 傷口に塩をぬるようなものでは? と疑問しか浮いてこない私に、先生は激しい喧嘩の意図を次のように説明しました。
夫は両親の激しい喧嘩を幼い頃に目の当たりにして、喧嘩=良くないこととすっかり思い込んでおり、揉め事から逃げる人生を送ってきた。本来なら喧嘩はお互いの主張のぶつかり合いであり、ぶつかることでお互いの真意に気付いたり反省したりを繰り返し、人と人は仲を深め合っていくもの。昔から雨ふって地固まると言うが、心理の世界でも同じことが言えるのです、と。
確かに、今まで私は何度となく鬼嫁化して喧嘩をふっかけてきましたが、大体夫は何も反論せず
「わかった」というだけで、全く喧嘩にはなっていませんでした。そうやってぶつかり合いを避けてきたから、お互いの真意に気付かず、反省もせず、仲も深まらなかったのです。
私が史上最大級の喧嘩をふっかけることで、夫を
「なにくそっ!」という思いにさせ、本音を引き出そうという作戦です。かなりの荒療治ですが、本音と本音がぶつかり合う喧嘩は決して悪いことじゃない、むしろ良い結果を生むこともあると夫に経験させることが目的。そして良い喧嘩体験がトラウマを乗り越えるきっかけとなるのです。ただし先生は
「専門の資格や知識を持ったカウンセラーの元で行うから上手くいくのであって、決して家庭では行なってはならない」ともおっしゃっていました。
先生の真の狙いと夫婦の決戦の日
はじめは疑心暗鬼な私でしたが、次のカウンセリングが近づくにつれて、なんだかワクワクしてきたのです。かなり小さくなったとはいえ、まだ私の中に確かに存在する夫への怒りが、もしかしたらスッキリするかもしれない… という思いに至ったからです。夫のトラウマの克服と私の中の鬼嫁退治、これこそが先生の真の狙いなのでしょう。
まもなく決戦の火ぶたが切っておとされます。喧嘩についてはあくまで私と先生の秘密。次のカウンセリングもいつも通り穏やかな場だと信じて、夫はのほほんとやってくるでしょう。そんな夫に思いっきり一撃を食らわせてやります。
先生からは
「もし行き過ぎたならば私がフォローするので、思いっきりやっちゃってください」とお墨付きをもらっています。だから今までの恨みつらみのありったけをこめたカウンターパンチをお見舞いするつもりです! 果たして夫は史上最大級の私の挑発に乗ってくるでしょうか? 今から楽しみで楽しみでしょうがない私は、やっぱり鬼嫁なのかもしれませんね。
(ファンファン福岡ライター/日野原 花)