今年で2回目を迎える福岡の小さな音楽祭。デュオ・アクロス(広田勇樹&矢野雄太)がトップレベルのゲスト小林美樹と須田祥子を迎えて室内楽の妙技をお贈りする真夏の夜の夢。
イタリア留学で実感した生活の中の音楽
東京藝術大学、同大学大学院修士課程卒業後、イタリア・ミラノで研鑽を積んだピアニスト矢野雄太さん。数々の国際コンクールに挑戦し、受賞を重ねながら指揮も学んできました。そんな中で痛感してきたことがあると言います。
「イタリアでは子どもたちが本当に幼い頃からクラシック音楽が身近にあります。教会のミサで聖歌隊の歌声を聴き、または歌い、オルガンの音を聞いて育ちます。イタリア最高峰と言われるオペラハウスのミラノ・スカラ座は12月がシーズン開幕となり、その模様が国営放送が流すので国民みんなが観ているのです。日本で言うならNHKかな? 伝統的なものはみんなで守っていこうと言うような気概があるので、日々の生活の中にクラシック音楽が根付いているのです。だからコンサートも大きなものから小さなものまで沢山あり、いつでも身近に楽しむことができるのです。日本も吹奏楽はさかんですけれど。。。」
演奏会もストーリー性が大事、選曲も工夫して。
「敷居が高いと言われるクラシック音楽、それでもプログラムにストーりー性を組み込んで、お客様に興味を持っていただき、楽しんでもらう工夫はいつも考えています。」と応えるのはチェリストの広田勇樹さん。
「例えば、チェロの名曲と言えばサン=サーンスの”白鳥”と言う曲があります。これは”動物の謝肉祭”の中の一曲なんですね。他にも”亀”だとか”象”、”かっこう”なども登場するので、そのストーリーをお話ししながら演奏すれば小さなお子さんでも興味を持って聴いてもらえますよ。」
「小さな会場、小さなコンサートだからこそ伝えられるものがあると思います。お客様と一緒に作っていくのがこのコンサートの醍醐味。演奏する側もお客様の息づかいや熱量みたいなものを受け取りながら、どんどん音楽が変わっていきます。これが本当に面白い! 空気感の共有、会場の一体感が楽しいんです。」
「先程、選曲には工夫をと言いましたが、お客様と距離が近いからこそできる曲があります。以前に関東の公演で子ども達のためにメンデルスゾーンの重厚な曲を弾いたのですが、みんな身を乗り出して聴き入ってくれました。普通はあまりやらないですよね。奏者の息づかい、弓をこする音、ビブラートの指の震え、すべて子ども達は感じとっているのです。楽しいとか、美しいとか、全部伝わります。ただしネガティブになればそれもね。(苦笑) それにチェロの場合はエンドピンを床に刺して演奏しますから、床も振動して子ども達に共鳴していたはずです。まさに全身で音楽を感じてもらえたと思います。」
「歴史を突き詰めると、本来室内楽は小さな会場でやるものです。貴族の館やサロンなどで演奏されてきたのですから。ピアノは近代化の一途で2000人のホールでも聞こえるよう発展を遂げてきましたが、チェロはそのままです。笑 楽器の構造は数百年前から変わっていません。」
留学から完全帰国、最初の公演がアクロス福岡シンフォニーホール
そもそも二人とも福岡・博多出身でもなく、特にゆかりもなかったのに、なぜ”デュオ・アクロス”なのでしょうか? そしてなぜ福岡で音楽祭をやろうと?
「もともとは東京藝大の先輩・後輩関係でしたが特に付き合いはなく、2016-17年くらいにパリのオーディショんで再会したのがきっかけですね。音を聴いて、あっこれは!と感じました。これがきっかけです。そして、二人とも完全帰国して最初にいただいた演奏の仕事がアクロス福岡でした。この時の経験がとても良くて、アクロスのディレクターの方とも相談して”デュオ・アクロス”という名前をいただきました。」(広田さん)
「初めて福岡のお客様と接して、これは熱いなと。積極的に音を聴いてくださり、ストレートな温かさを感じました。そして新しいことに敏感です。だからこの地でクラシック音楽の楽しさを広めていく何かをやりたくなって、小さな音楽祭を立ち上げました。”弦楽器工房まつもと”さんの協力が得られたこともありがたかったです。」(矢野さん)
昨年の夏に初めて福岡の地で音楽祭を立ち上げ、いきなりNHK交響楽団のコンサート・マスター篠崎史紀氏が聴きに訪れるという奏者にとっては冷や汗をかきそうな嬉しいサプライズもあったようですが、それも若きアーティスト達への期待とエールが込められたものではなかったのでしょうか。
豪華なアーティスト陣、生で聴くクラシック音楽が熱い夏に
今年は東京フィルハーモニー交響楽団のビオラ首席奏者の須田祥子さんとヴィエニャフスキー国際ヴァイオリン・第2位を受賞して多くのオーケストラや室内楽団との共演多数で活躍を見せるバイオリニスト小林美樹さんも参戦(?)、8月16日から19日までピアノと弦楽器の魅力満載の5日間の音楽祭が福岡で繰り広げられます。
ピアニスト矢野雄太さんは最後にこう語ってくれました。
「コロナが始まってオンライン・コンサートが増えました。もちろんこれは物理的に行けないコンサートを楽しむことができると言うメリットもありました。これらを経験して私たちはあらためてお客様がいらしてこそコンサートは面白いのだと実感しています。繰り返すようですが、奏者と聴き手の共感・共有によって生まれる音楽があるのです。オンラインやCDでは伝わらない”生”の魅力をぜひこの音楽祭で味わっていただきたいと思います。」
福岡で開催される小さな音楽祭。”第2回浜の町音楽祭”でぜひアーティスト達と一緒に熱い音楽を、極上の室内楽を楽しんでみませんか。
スケジュールとお問合せ
◆会場: 弦楽器工房まつもと スタジオ201号室 定員各25名(要予約)
(福岡市中央区舞鶴3-3-17インペリアル舞鶴201 TEL.092-406-4092)
※すでに満席の公演もありますのでご注意ください。必ず事前にお問合せください。
2022年
8月16日(火) 14:00開演 子供といっしょに楽しむコンサート”チェロとピアノ” 入場無料
8月17日(水) 19:00開演 DUO ACROSSによる室内楽”チェロとピアノ” 3,000円
8月18日(木) 14:00開演 矢野雄太ピアノソロコンサート 3,000円
8月18日(木) 19:00開演 須田祥子と室内楽”ビオラ&ピアノ” 3,000円
◆会場: あいれふホール 定員250名(要予約)
(福岡市中央区舞鶴2-5-1 TEL.092-751-7778)
2022年8月19日(金) 19:00開演 極上の室内楽 須田祥子、小林美樹を迎えて 3,000円
演奏曲目:ベートーヴェン 弦楽三重奏曲ト長調Op.9-1
ブラームス ピアノ四重奏曲第2番イ長調Op.26 他
◆チケットの購入・お問い合わせは
弦楽器工房まつもと TEL.092-406-4092
http://www.studio-matsumoto.com/
19日の公演のみ「チケットぴあ」でお求めいただけます。
http://w.pia.jp/t/hamanomachi-ongakusai/
セブン-イレブン(マルチコピー機) Pコード:212-756
主催/ 聴色計画 協賛/三菱地所株式会社
後援/NPO法人 芸術・文化若い芽を育てる会、西日本新聞社、(公財)福岡市文化芸術振興財団
企画/ DUO ACROSS & 株式会社弦楽器工房まつもと