私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
祖母が六、七歳の夏、叔母の家へ使いを頼まれた。
子どもの脚には遠い港の方だったが、お駄賃をもらえるので勢い良く出発した。
母親と一緒に数回通ったことしかない道だったので、角を曲がる度に
「大きな枇杷(びわ)の木」「お地蔵さん」と覚えながら進んだ。
「わあ〜、すごいなあ〜!」
大輪の向日葵(ひまわり)が咲き誇る一角では、思わず目を見張った。
無事、叔母の家に着いて使いを済ませると、来た道をたどって家路についた。
来る時に覚えた目印を確認しながらどんどん歩くうち、「向日葵の角」に差しかかった。
そこで祖母は向日葵の中で笑っているたくさんの顔を見た。
若い男、おばあさん、男の子、女の子…
祖母の動きに合わせるようにそろって目が動く。
何度か行きつ戻りつしたが、やはり顔に見える。
陽も傾いてきたので、後ろ髪を引かれるような気持ちでその場を離れた。
家に帰った祖母は、家族に話したが誰も真剣には聞かなかったそうだ。
「その後、何度もこっそり見に行ったけど、顔を見る事は二度となかったよ」
夏が来る度に、祖母が話してくれた思い出である。
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