福岡の書店員さんに福岡ゆかりの本を紹介してもらうファンファン福岡の「福岡キミスイ本」シリーズ。20回目は「MARUZEN 博多店」(福岡市博多区)和書売場担当の森山幸生さんを訪ねました。雨が多いこの時季は、家で読書を楽しむのも一つの過ごし方ですよね。今回は、どんな本を教えてもらえるでしょうか。
福岡市出身の著者が描く、ほとんど実話? の父と息子、家族の物語
「またね家族」 松居大悟 著
―こんにちは。今回取り上げておられる本は何でしょうか? こんにちは。5月に発売されたばかりの「またね家族」(講談社、1650円+税)です。 ―松居大悟さんですね! 気になっていた本です。 そうです。松居さんは福岡市出身で劇団ゴジゲンを主宰し、映画監督でもあります。 ―本棚の隣に並べてあるように… 福岡で活躍されているタレントのトコさんの息子さんですよね。この物語は、自身のこと、父、母、兄、義理の弟といった家族のこと、特に埋まらない確執を抱えた父親とのことが多く書かれています。
―実話ベースなんでしょうか。 おそらく実話に近いのではないかと思って読みました。裕福な家庭だったのですがお母さんが家を出てしまい、その後にお母さんとお兄さんと暮らすようになる。お兄さんが荒れていたころのエピソードもありますし、松居さん自身は内にこもるタイプだったみたいで、兄からいじられて耐えていた少年時代なども書かれています。 ―昔のことも書かれているんですね。 そうですね。でも中心は、お父さんが、がんで余命宣告をされ、お兄さんがそれを伝えにきてからの話です。複雑な思いがありつつ、父に寄り添おうとする息子の姿が描かれます。お父さんが昔かたぎというのか、頑固で寡黙な、“ザ・九州男子”なんですよ。 ―少し暗いトーンなのでしょうか。 それがそうではなく(笑)、劇団のエピソードも挟み込まれていますし、福岡での会話は博多弁ですし、お父さんはなかなか死なずに親戚とのすったもんだがあるし(笑)。笑えるところもあって、どんどん読めてしまいます。
―印象的な場面などあれば教えてください。 いよいよお父さんの余命もいくばくかになったある日、家族で好きな花は何かという話題になり、おのおのが好きな花を言っていく中で、お父さんが聞き取れないようなか細い声で「パンジー」とつぶやくんです。それは両親が離婚する前の家でいつも玄関に置かれていた花で、花言葉は「わたしを見て」。言葉足らずの父親の”思い”であり、息子にとっては”願い”なのだろうかと思える、心に残る場面でした。家族とは、いら立ちや理不尽さを抱えたまま、向き合わなければならないことも。分かり合うことはできなくても、寄り添うことはできるかもしれない。そんな気持ちが伝わってきました。お父さんとの最後の花見の場所が、大濠公園というのも印象的でした。 ―家族の関係ってそれぞれですし、いいことも悪いこともありますよね。 私も父を亡くしていますが、父と分かり合えていたとは言えなかったので、心の奥を突かれたような気がしました。それに最近は、新型コロナの影響もあって家にいる時間も多く、家族のあり方を見つめ直す時期でもあったと思いますし、この本はぴったりだと感じました。
―主にどんな方が手に取られていますか? 気鋭の映画監督ですし、情報番組で取り上げられたこともあり、若い方が多いです。劇団関係かな、という方も。松居さんは普段脚本を書かれているからか、会話をはじめ、とにかくテンポよく書かれていてどんどん読めますので、どんな世代の方にもおすすめです。劇団のエピソードや自身の性癖までもあけすけに書かれていて、まあ、どこまでがリアルかは別として(笑)、とても面白かったです。 ―この「またね」というのが気になりますね。 いびつでも家族は家族。何度でも顔を合わせる間柄ということもかもしれないし、次に生まれてくるとしても、このお父さんの家族かもしれないという意味かも。未来に対しての「またね」かもしれませんね。 ―家族のことをじっくり思う一冊になりそうです。ありがとうございました!