私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
祖母が毎年楽しみにしていたという夏祭り。
六歳になったその年も、祖母はうきうきと出かけて行った。
みんなで踊り、金魚すくいをし、屋台で飴細工やおでんを食べて楽しんだ。
翌日、友達の家に寄ると、奥から出てきた友達が何か手に持っている。
見るとそれは、小さな鳩の形をした笛だった。
「ほーほー」。
友達が吹くと本物の鳩が鳴いているようで、なんとも可愛らしく思えた。
「それ、どうしたの?」欲しくてたまらなくなった祖母は尋ねた。
「昨日、屋台で買ってもらったよ」
それを聞いて、祖母はたいそうがっかりした。
夏祭りは昨夜で終わり、屋台もよその村に行ってしまったからだ。
あきらめのつかなかった祖母は夏祭りの会場にも行ってみたが、人っ子ひとりいなかった。
悲しい気持ちで家に帰る途中、夕暮れの神社に灯がともっているのに気がついた。
「なんだろう?」祖母が近づいてみると、なんとそれはたった1軒だけの屋台だった。
狐の面に張り子の虎、起き上がりこぼし、いろんなものが並んでいる…あった! 鳩笛だ!
夢のような気持ちでお金を払い、鳩笛を大事に握りしめ、走って帰った。
家に着くと、嬉しくて何度も何度も吹いてみた。
その笛の音を聞いた祖母の兄が「自分も欲しい」というので、神社の屋台の話をした。
兄は飛び出していったが、しばらくして不機嫌そうな顔で戻ってきた。
「屋台なんか無かったぞ!」
「だってそこで買ったんだよ、ほらちゃんと鳩笛あるでしょ」
兄はぶつぶつ言っていたが、そのうちあきらめた。
その後、友達みんなにも聞いたが、その屋台を見た者はいなかった。
「欲しい欲しいという気持ちが通じて、まぼろしの屋台が現れたのかな…」
語り終えた祖母は鳩笛を吹いた「ほーほー」