アメリカ・ダウンビート誌”未来を担う25人のジャズ・アーティスト”に選出され、オリジナルアルバムがグラミー賞にノミネートされるなど大躍進を続けるジャズ作曲家の挾間美帆さん。ここに至る道のりと、新たな世界へのチャレンジを語っていただきました。
音楽が大好きな家族とともに
私の父はビートルズ、母はディスコ・ミュージック、祖父はベートーヴェン、そして祖母は合唱という、あらゆるジャンルが好きな一家で、常に音楽を聴いている幼少時代を過ごしました。
見ていた両親がヤマハ音楽教室とバレエ教室に通わせてくれました。父が転勤族だったので、全国どこに行ってもヤマハ音楽教室なら一定水準の音楽教育を受けられると考えたようです。私は中学校から音楽の専門校へ進みましたが、音楽教室は並行して高校3年生まで通いました。
NHK大河ドラマの音楽に憧れて
中学は国立音楽大学付属のピアノ科へ進学し、高校から作曲科に移りました。漠然とですが子どもの頃からNHK大河ドラマに憧れて、このドラマの作曲をしてみたいと夢見てきました。自分が物心つく前の作品ですが池辺晋一郎先生の曲は特に好きでした。実は大河のテーマ曲だけを集めたアルバム(3枚組!)を持っているくらい。(笑)
池辺先生に実際にお会いできた時はテンション上がりましたね。だって普通作曲家というとベートーヴェンやバッハは既に亡くなっているんですよ! 池辺先生が司会をなさっていたN響アワーも毎週観ていました。私にとってはジャニーズよりもときめきを感じる存在でしたから。
アメリカでの留学生活は毎日がコントのような日々
国立音楽大学を卒業してからアメリカNYのマンハッタン音楽院大学院へ留学しました。あまりにクラスメイト達のレベルが高すぎて衝撃を受けましたね。そして、自分は英語もろくに話せませんでしたから毎日がもうコントのようでした。(苦笑)
なにせWaterが通じない、スタバでTall Latteが通じない。最初の数か月はビールばかりオーダーしていたような気がします。毎日が必死、いちいちショックを受けている場合じゃないんです。日々が秒単位で過ぎていきました。そうして2年を過ごすうちに自分のブランドとは何か、キャリアのステップアップを考えるようになりました。
日本では頑張っていれば誰かが助けてくれたり、手を差し伸べてくれて、小さくともライブのチャンスができたりしますが、NYは5年頑張っても全く相手にされない。競争率が高すぎるのです。途中でくじけて母国に帰る人もたくさんいます。
私も住んで5年が過ぎた時点で未だ何も出来ていなかった。何も持ち帰れない。ここに住み続けようと強い意志を持ってきたはずなのに、NYに負けた? いやいやそれだけは絶対に嫌だ! と思いNYに住み続けるうちに、あっという間に12年目になっていました。
自分のブランドを創っていくために
ジャズ・ビッグバンドはアメリカにおいて遺産文化なのです。新しいものに投資するよりもこの100年間培ってきたアメリカの音楽文化として昇華させることが重要です。
例えば、W.マルサリスが自身の素晴らしいオーケストラを持って自分の作品にフォーカスしていくことに需要があります。ローカルはここ、アメリカなんですね。
ビレッジ・バンガード・オーケストラはおそらくこの何十年も新作の委嘱はしてないんじゃないかな。ディジー・ガレスピー、デューク・エリントン、カウント・ベイシーのオーケストラも本人は亡くなっているのに、彼らの作品しか演奏しません。
では、私達は何をすればいいのでしょう? 自費でオーケストラを創って、名刺代わりにアルバムを作っていくしかない。駆け出すまでに5年くらいかかりますから(それも走り出せるかどうかもわからない)大抵の人はくじけてしまいます。でも私には諦めるという選択肢がなぜかありませんでした。
2018年くらいから少しずつ歯車が回り出したような気がします。ヨーロッパにも呼んでもらえるようになり、あちらは大陸でつながっているので広がりが見えてきました。
そして東京JAZZでデンマークラジオ・ビッグバンドと初めて一緒にやる機会を得ました。これが今に繋がるきっかけにもなっています。
初のDRBBとの日本ツアーに向けて
この11月にいよいよデンマークラジオ・ビッグバンド(以下DRBB)との初めての日本ツアーが始まります。全国7会場で福岡公演は11月14日アクロス・シンフォニーホールです。九州での公演は初めてなので私自身とても楽しみにしています。何といっても福岡は食べ物がおいしい!(笑)
DRBBとこれだけ長く一緒にツアーをするのも初めてなので、プログラムがどのように熟成していくのか、自分たちにとってもエキサイティングな時間となっていくだろうなと思っています。
デンマークの人々は温かくてマイペース、そして人としての賢さが備わっています。インテリジェンスと言ったらいいのかな。どこか日本人に近いものがあるかもしれません。自分のペースは守るけれども他人への思いやりと理解があり、組織として先を見据えています。これはバンドを率いる意味で私自身とても助かっています。
そしてデンマークのジャズは気候のせいもあると思いますが、とてもクール! このサウンドはNYと共通しているかも。ぜひ一人でも多くのお客様に私たちの音楽を聴いていただきたいですね。
今までは目の前にあることや自分のやりたいことに邁進してきましたが、このDRBBの首席指揮者に招いていただいたことで、バンドの未来のために何をするか、彼らのための布石となる責任を感じています。さらに頑張らないといけませんね!
これからの「挾間美帆」 未来への展望
ジャズ作曲家としてはより深く、アレンジャーとしてはより広く、編曲であっても自分のエッセンスをいかに入れられるか? 色々な分野から刺激を受けて、それが最終的には自分の楽曲に活きてくると思っています。
基本的にはNYを拠点にコペンハーゲンと東京を行き来していますが、どこに住んでいるとか、あまり関係がなくなってきています。ブランド「挾間美帆」はどんな音楽を創っていくのか、そしてそれが浸透していくように。それに尽きますね。
例えば坂本龍一さんは日本で映画音楽を書かれていてもアメリカでブライアン・イーノとライブをされていても、それは「坂本龍一」という人間であり、ブランドなのでどこにいるかは関係ありません。そう言った意味でも憧れるし、私にとってロール・モデルと言えるかもしれません。
(聞き手: 樋口洋子)
挾間美帆&デンマークラジオ・ビッグバンド 福岡公演
日時: 2022年11月14日(月) 18:00開場・19:00開演(18:20より場内でプレトーク予定)
会場: アクロス福岡 シンフォニーホール(福岡市中央区天神1-1-1)
料金: 全席指定8,000円 / 学生券4,000円(いずれも税込)
チケット取扱所: アクロス福岡チケットセンター(2F) 092-725-9112
チケットぴあ http://t.pia.jp/ 【Pコード:219-199】
ローソンチケット http://l-tike.com 【Lコード:85055】
エムアンドエム 092-751-8257
問い合わせ: エムアンドエム 092-751-8257
挾間美帆オフィシャルサイト http://jamrice.co.jp/miho/