西部ガスグループの広報誌「&アンド」、うちにも配布されます。その秋号に興味深い記事がありました。
「いい店 いい客 いいマナー」という連載で、福岡の代表的な食の情報誌「ソワニエ」の元編集長の弓削聞平さんという方のコラムです。「会話は意外に聞こえています。」というタイトルが付いていました。寿司、天ぷらなどのお店のカウンターに座って同行者と話をしていると、嫌な感じではなく自然に中の店主さんが会話に入ってきて、「今の話聞いてたんだ」と思ったことが何度もある、ということからの話の展開でした。
この話、手伝いで親のラーメン屋のカウンターで皿洗いをしたことのある私には非常によくわかります。
カウンターの中で仕事をしたり、してなかったりすると、お客さんの会話は聞く気がなくても勝手に入り込んできて耳に残ります。私の場合、注文取りと皿洗いとお勘定で大したことしてないというのもありますが、一見みけんにしわを寄せて難しい顔で集中している大将だって、ちゃあんとお客さんの言うことは逐一耳に入ってるものです。寿司握ったり天ぷら揚げる職人さんだって、熟練してるわけですから、他人の話を聞き分けるくらいの余裕はあります。
誰かから聞いたか、何かで読んだのか忘れましたが、カウンターの中のお店の人みたいな客からすると、黒子的立場の人の存在をその瞬間忘れてしまう心の働きがあるんだそうです。「なんとか現象」という専門用語があったような気もしますが、忘れました。
同じことが他にもあって、例えばタクシーの運転手さん。その存在を忘れて同乗の人と話してて気が緩んでまずい秘密の話とかしてしまうことはないでしょうか。
私は20年以上前、しこたま酔っぱらった飲み会の帰りにタクシーで同僚と帰っていて、社内の人の悪口をペラペラしゃべっていたら、その運転手さんから「知ってる人の話だと、告げ口する人もいるから気をつけた方がいいですよ」と静かにアドバイスをいただき、酔いが醒めたことがありました。それ以来、タクシーでは運転手さんとの会話以外ほぼしないように決め、守っています。職業柄無関心な表情をされていても、実は興味津々なこともけっこうあるはずです。
さて、店のカウンターに話を戻すと、お客さんの方からどんどん話しかけてこられることもありました。これがけっこう他で聞けないような話だったりします。真偽不明とかホラ話っぽいのもありますが、6割がたほんとの話だったように思います。デカい魚を釣ったとか、高い珍しい車を買ったとか前向きな話もありますが、「どこそこの会社がもう一回不渡りを出したらつぶれる」とか「なになにさんが首を吊って、山の中で見つかった」といった公になっていない暗い情報もあって、そのときは気が滅入りました。
それはともかくとして、不特定多数の様々な職業、背景の人がラーメン食べに来たので、来店客と話してる限り退屈しませんでした。
よく考えたらラーメン屋は滞在時間が短いし、どちらかというと単独とか少人数で入ってくるお客さんが多いので、「密談」的な話はあんまりなかったかもしれません。とはいえ、気楽な庶民の味を食べる場なので、リラックスしてることは間違いありません。
なにかしらその地域の状況とか情報を仕入れたい人はカウンターのある飲食店で中に入るバイトして意識して耳を澄ましていたら、何か大切なヒントが手に入るかもしれませんよ。
(続く)※次回は、「飲食店の退屈と危険」がテーマです