明治生まれの祖母が話してくれた、ちょっと怖くて不思議な思い出を紹介する連載「祖母が語った不思議な話」シリーズ第2弾。今回は母に聞いた話です。
小学2年生の冬の夜、母と食い入るようにテレビを見ていた。
その頃流行っていた心霊写真の特集だった。
いろんな写真と共に幽霊を見たというエピソードがいくつも紹介された。
二人とも怖い話や不思議な事件が大好きだったので、大変満足して見終えた。
「お母さんは幽霊って見たことある?」
「幽霊…あれはそうかも…見たのではないけれど」
そう言うと母は語り始めた。
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十八歳の早春、母は東京にいた。
四月からD服飾専門学校に通うことになり、住む家を探すために上京したのだった。
「今の時期に来られて正解でしたね。これからはどんどん物件が埋まっていくから」
不動産屋の主人がそう言いながら案内してくれた部屋は、学校からも近く家賃も手頃だったのでその場で契約した。
三日間くらいかかるだろうと思っていた家探しが初日に決まったので気持ちが軽くなった母は、従姉妹の案内で東京見物に出かけた。
主立った名所を一通り見て回った後、従姉妹の友人Sさんの下宿に立ち寄った。
Sさんは九州出身の陽気な女の子で、歳が一つしか違わないこともありすっかり意気投合、そのまま泊まらせてもらうことになった。
下宿は古かったが三部屋と広く、風呂もあった。
「先にお風呂に入ってね」
昼間の疲れで夕飯を食べ終わるなり眠ってしまった従姉妹を隣りの部屋に寝かせると、Sさんがそう勧めた。
母は感謝を述べ、それではと風呂に入った。
湯船に浸かっていると居間から細い歌声が流れてきた。聞き覚えはないがとても心に響く歌だった。
風呂から上がり服を着ている間も歌声は続いていた。
「Sさん、すごく歌が上手だね」
そう言いながら風呂場から出た瞬間、歌声はパタっと止まった。
部屋には誰もいなかった。
不思議に思い、隣りの部屋を見るとSさんは従姉妹と並んで眠っていた。
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「それから東京での暮らしが始まり何度もSさんの家に泊まったけど、二度とその歌を聞くことはなかったな」
「Sさんにそのこと言った?」
「怖いとか悪いといった感じはしなかったから言わなかったよ。何より、いい歌だったし」
「何という歌?」
「それが分からないのよ…ずっと探しているんだけどね」
そう言うと母は小さくハミングした。
曲名はいまだに分からないが、その哀愁を帯びたどこか懐かしいメロディーは母がいなくなった今も覚えている。
チョコ太郎より
99話で一旦幕引きといたしました「祖母が語った不思議な話」が帰ってきました!この連載の感想や「こんな話が読みたい」といったご希望をお聞かせいただけるととても励みになりますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。