大自然の中で手軽にキャンプを楽しんでみたいと思う女子が増えています。今回は、フリージャーナリストの池田泰博さんが、そんな夢をサポートするサービスで注目される「キャンプ女子株式会社」代表の橋本華恋さんを訪ね、「不便なものはビジネスになる」と起業した事業への思いをお聞きしました。
女性キャンパーのニーズを知り尽くした国内最大のインスタを運営する
橋本華恋さん(29)は、「スマホ時代だからこそ、本物の自然の喜びを」をコンセプトに昨年2019年6月に起業した。キャンプ予約サービスや関連イベントの企画・運営、企業や自治体向けのセミナーを開催するほか、女性の視点での商品開発や紹介なども手掛けている。 橋本さん: 「女性はキャンプ場でも可愛くておしゃれなグッズを使いたい。気分も上がるし、自宅で使っても楽しいじゃないですか。」
運営する女性キャンパーのためのインスタグラム『@camjyo/キャンジョ』は現在、フォロワー数が4万人を超えている。女性キャンパーのためのインスタグラムとしては国内最大級だ。 グッズやキャンプ場の写真だけでなく、事前に女性キャンパーから相談を受け付け、1週間に1時間ほどフォロワーとライブで話をする。ラジオやテレビの生中継みたいなもので、女性キャンパーのニーズを把握し「キャンジョ」に反映させることで、フォロワーの増加につなげている。
橋本さん: 「キャンプ場に限らず、街中やオフィス、家庭内などさまざまなシーンでキャンプの楽しみ方を提案し、喜ばれています。 」
朝日を浴びる喜びを知り、生活スタイルが一変。同時に、キャンプ場の”不便さ”と”女性視点のなさ”を体感する
湧き水のようにキャンプのアイディアを生み出す橋本さんは、北九州大学(現・北九州市立大学)を卒業後、美容室などの専門店にシャンプーやリンスを製造・販売する企業に就職。営業として福岡を中心に九州各地を回った。パソコンと自動車が欠かせない生活の中で、ストレス発散は友人たちとの深夜までの飲食だった。 転機は3年前、友人に誘われた長崎県大村市であった野外フェスティバルでの2泊3日のキャンプ体験。 橋本さん: 「朝日を浴びながら目覚める爽快感、『あー自由なんだな』って感じた喜びは忘れられません。」
以後、キャンプに行く週末の時間を確保するために仕事をやりくり。キャンプに関われば関わるほど、問題点も見えてきたという。不便なのだ。また、キャンプ場は市町村といった自治体が所有や管理(委託)しているケースが多い。その運営・管理や施設整備で、“女性の視点”がほとんどなかった。 橋本さん: 「女性は虫がダメなんです。それにトイレが汚かったり、洗い場も不潔だと二度と行かないってなっちゃいます。また、ウェブで予約が取れずに、電話かファックスというキャンプ場がほとんどでした。しかも予約受付は、17時で締め切られることも。『え-本当に』って感じですよね。」 営業先だった美容室は、ウェブで予約したり、予約状況を確認できるのが普通だった。不便さを感じることが多かった中で、それなら自分でキャンプ場の予約サービスを作れないかな、と考え始めたのだと橋本さんと振り返る。
女子視点の施設「油山グランピング」が全国から注目される超人気施設に!
「キャンプ場の予約サービスを独自に作る」ことを考えていた橋本さんだったが、ある日、「不便さはビジネスになる」という言葉が頭をよぎる。そこで、手軽に予約ができて、テントや食器などのハード面も準備が必要ないといったサービスを提供する会社を作ろうと決意することに。 橋本さん: 「起業にそれほど抵抗はなかった。福岡市には若い起業家が多いし、チャンスもあると感じていましたからね。」 仕事をしながらプログラミングスクールに通い、市場調査も並行して行った。 一年ほど準備を重ねて会社を設立。自治体などに新しいサービスを提案するが、簡単には採用されない。そこで、机上で提案しても理解が進まないなら実践でと、2019年11月からは、福岡市の油山市民の森キャンプ場で「油山グランピング」を始めた。
「グランピング」は、近年注目されているキャンプ用語で、「グラマラス(魅力的な、華やかな)」と「キャンピング」の造語。テントに家具や絨毯、家電などを持ち込み、快適さを重視したぜいたくなアウトドア生活を意味している。 橋本さん: 「寒さを我慢するのじゃなくて、自分の好きな空間を自然の中にまるごと持っていく。週末移住ですよ。」 油山市民の森キャンプ場は、福岡市中心部から車で30~40分ほど。管理者の福岡市と交渉して、新たなパックケージ形式のキャンプを実現させたのだ。
テントやタープ、寝袋、テーブル、食器付きで1人4,980円~(4人利用の場合)。食材だけ持参すればキャンプができるのだ。経験豊富なスタッフが、テントの設営や器具の使い方、火おこしなど必要なことは支援する。
街なかの専門店で買えば、計50~60万円はするという商品。入門編としてキャンプを体験したいという家族連れやグループに大好評で、新型コロナで閉鎖されるまでは、週末は予約で満杯となるほどだった。この成功がキャンプ場を抱える自治体関係者を中心に注目を集め、問い合わせが相次ぐようになった。 キャンプ女子株式会社の活動は、従来のキャンプ常識を覆す。だから、共感を得て、人気がある。その役割は、ネット上で快適なキャンプ場を紹介することから、次の段階でキャンプ場のコンサルティングやキャンプ商品の開発へと移っていった。
デザイン商品の炊事や食器などいろんな用途に使えるシェラカップ。底に「CAMJYO」などの文字が入る。5つあったデザイン候補をウェブで公開し人気投票の結果、同数一位となった二種類を商品化した。
キャンプには、経済効果がある。交流人口をどう増やすかが課題の自治体も注目する
橋本さん: 「キャンプには、経済効果があるんです。用品だけでなく、その土地の季節の食材、例えば野菜とか鶏肉や牛肉、豚肉などを購入して料理する。地産のワインや日本酒を楽しむこともできます。」 帰りに温泉に立ち寄ったり、お土産を買ったりすることもあるだろう。交流人口をどう増やすかが課題の過疎の自治体にとって、注目するのは当然といえる。すでに、「油山グランピング」を含めて全国5カ所の施設の自社運営やプロデュースをする。
キャンプを含めたアウトドア関連市場は5,000億円を突破しているが、この5年間で約1,000億円も増えていると言われる。橋本さんは反響の大きさにキャンプブームを実感している。そして、こう冷静に分析する。 橋本さん: 「一過性にしないためには、利用者のニーズを的確に把握すると同時に、所有・管理する自治体との連携も欠かせません。 」 フォロワー4万2,000人のうち、7人に1人は台湾や韓国などの海外だという。「キャンプ女子」の飛躍は、まだまだこれからなのだ。 文=池田泰博
キャンプ女子株式会社
本 社:福岡市中央区大名1-3-41 ブリオ大名ビル2F FGNオフィス:福岡市中央区大名2-6-11 Fukuoka Growth Next 設 立:2019年6月 サービス:@camjyo/キャンジョ キャンプ女子株式会社:キャンシェルジュ https://camcierge.com/ 油山グランピング https://aburayama.camp/