福岡のタウン情報誌の編集者として活躍していた帆足 千恵さんが、舞鶴公園から大濠公園というまさに「福岡のセントラルパーク」を散策しながら楽しめる半日の旅を紹介しています。福岡市民のオアシスで憩い、福岡の歴史に思いをはせ、時空を超える旅に出かけてみませんか。
「時間がなくても楽しめる福岡観光のおすすめってどこ」ときかれると、私は迷わず博多駅周辺の博多旧市街とこの大濠パークエリアをすすめます。福岡市の中心・天神から地下鉄で一駅の赤坂駅からスタート!舞鶴公園から大濠公園というまさに「福岡のセントラルパーク」を散策しながら楽しめる半日の旅です。お城好きでなくても、そして真冬の現在でも、心和むプチ旅行が満喫できます。福岡市民のオアシスで憩い、福岡の歴史に思いをはせ、時空を超える旅に出かけてみませんか。
公園そのものが広大なミュージアム?! 「福岡セントラルパーク構想」とは
福岡市は、2014年6月に「セントラルパーク構想」を策定しています。 福岡市中央区・大濠公園と舞鶴公園の一体的な活用を図り、県民・市民の憩いの場として、また、歴史、芸術文化、観光の発信拠点として、公園そのものが広大なミュージアム空間となるような公園づくりを進めるための構想です。 そう、舞鶴公園から大濠公園は、歴史や美術、芸能を楽しめる広い屋外ミュージアムであり、一年を彩る植物、四季折々の風景を満喫できる植物園としても楽しめます。 まちの真ん中にこんな公園がある幸せを改めてかみしめながら、ぶらりご紹介していきます。
天守閣がなくとも見どころいっぱい!想像力を働かせて福岡城時空の旅
まずは、福岡市営地下鉄空港線・赤坂駅の2番出口からあがってみましょう。ここから案内する一帯は、舞鶴公園。昔、福岡城を海側からみると、羽を広げた鶴のようだと言われたことからこの名がついたといわれています。 左手にお濠をみわたす歩行者と自転車を分けた道が続きます。ウォーキングもいいですが、サイクリングも楽しい道ですよ。
もし、あなたが土日にここを通りかかったら、地下に保存されている石垣をみるチャンス!福岡城跡堀石垣保存施設は、明治43年に市内電車を通した際に埋められ、昭和53年の地下鉄工事で発見された外堀の石垣の大部分を保存したもの。入場は無料で、ガイドの方に質問するといろいろ答えてくれます。
上之橋をわたって福岡城址に入ります (春の時期は約1,000本の桜が花を咲かせ、来園者をお迎えします)。
石垣をみながらのぼっていくとかつては平和台野球場だった鴻臚館(こうろかん)広場に出ます。ここでまず立ち寄ってほしいのが「福岡城むかし探訪館」。
「福岡城むかし探訪館」
みどころはなんといっても、昔の福岡城をCGで再現したバーチャルムービー。取材時の11月下旬では、コロナの影響で放映されていませんでしたが、古地図と模型でありし日の福岡城に思いをはせることができます。 ここで福岡城の歴史をかいつまんでご紹介しましょう 福岡藩の初代藩主、大河ドラマ『軍師官兵衛』の主人公にもなった黒田官兵衛(如水)の息子・長政が、1601年から7年の歳月をかけて、総面積80万㎡、東西1Km、南北700mと全国でも有数の規模の平山型の城を築城。 海側からみると、鶴が羽を広げている姿に見えることから別名「舞鶴城」とも呼ばれました (今回紹介する福岡城跡一帯は「舞鶴公園」です)。 城郭の周囲には堀がはりめぐらされ、大小47基の櫓が並ぶ福岡城は、複雑な構造の石垣のうえにあり、敵が攻め込みにくい造りだったとのこと。 そのほか「忍者泣かせ」だった城の秘密などが、この「福岡城むかし探訪館」で紹介されていますので、ぜひ立ち寄ってみてください。
■住: 福岡市中央区城内1-4 ■TEL: 092-732-4801 ■開館時間: 9:00〜17:00 ■休館日: 年末年始(12月29日〜1月3日) ■入館料: 無料
さらに、福岡城址には、もっと古い歴史を垣間見ることができます。それが、「鴻臚館跡展示館」。
「鴻臚館跡展示館」
7世紀後半から11世紀前半の約400年間、外国からの使節を迎え、接待する迎賓館として作られた鴻臚館の遺構がそのままに、海外からもたらされた陶器などの出土品も展示されています。 観光地としても有名な太宰府にあった大宰府政庁と鴻臚館を結ぶ一直線の官道、約16kmが1,300年前にはあったと言われています。 ここから太宰府ははるか遠い気がしますが、まっすぐに太宰府に続く道を思うと、そこまで歴史好きではない私でさえ、古代に日本の玄関口であった博多にロマンを感じてしまいます。
■住: 福岡市中央区城内1 ■TEL: 092-721-0282 ■開館時間: 9:00~17:00 (入館は16:30迄) ■入場料: 無料 ■休館日: 12月29日~翌年1月3日
二の丸があったと言われる梅園、本丸跡を通って、次に向かうのはいよいよ天守台!
「福岡城 天守台」
全国で人気のお城は、きれいな天守閣がシンボルとしてそびえたっていますが、福岡城に天守閣はなく、黒田如水・長政親子が江戸幕府に遠慮して作らなかったというのが定説でした (近年は実際に10年ほど存在したという説も浮上しています)。 私としてはかえって天守閣が復元されていないことがロマンにつながるかと。天守閣を想像しながら、天守台にのぼってみましょう。福岡のまちが一望できます。春には一面に広がる桜をみわたすことができます。遠い昔には、ここから太宰府も見ることができたのでしょうか。
私が何より舞鶴公園を好きな理由は、年中季節の植物に彩られ、都心の真ん中にありながら静寂の時を楽しめること。今は花の少ない時期ですが、それでも石垣の道を歩いていると、不思議と気持ちが和らいでくるのです。
南に下って、多門櫓(たもんやぐら)周辺も緑あふれる散策路。小春日和の日にぶらぶらするのにぴったりです。
美術館にカフェ、ボート遊びにラン&ウォーキング。市民も憩う大濠公園
多門櫓まで来たなら、福岡市美術館から大濠公園に入りましょう。赤レンガの風格ある建物がみえてきます。設計は日本近現代建築の巨匠・前川國男です。
「福岡市美術館」
地元のタウン情報誌で、アート担当だった私は、福岡市のアートに対する先見性について声を大にして言わせてもらいたい。1979年に「九州の美術センター」を目指して開館した福岡市美術館は、独自の方向性をもって、収蔵品を増やし、企画展を展開してきました。
2階の出入り口にある草間彌生「南瓜」。1994年に、天神のまちに現代美術を展開させたアートプロジェクト「ミュージアム・シティ・天神 ’94 Fukuoka, Japan」の出品作だったこの《南瓜》こそ、草間彌生が初めて手がけた野外彫刻作品。1996年に福岡市美術館のコレクションに
【スゴさその①】 コレクションの充実ぶりがスゴイ!公立美術館でありながら、戦後の現代美術や存命作家の作品を多く収集 当時の常識ではなかなか考えられなかったことで、後に価格が高騰する作家の作品を、コレクションにできていたのです。例えば、アンディ・ウォーホルの「エルビス」。ポップ・アートの騎手として、一躍時代の寵児になったアンディ・ウォーホルですが、福岡市美術館が収集した作品は、生前に世に出ることはなく、彼のスタジオにかけられていたものを直接購入したそう。 現在開催されている『コレクションハイライト』では、ダリ、ウォーホル、草間彌生といった、20世紀を代表する作家の作品が一堂に展示されています。 【スゴさその②】 アジアのアートにいち早く着目 今でこそ、アートや映画の世界では、アジアが注目を集めていますが、40年前ではまったくというほど見向きもされていなかった状況。そんな中、40年前に福岡市美術館が開館特別展「近代アジアの美術 インド・中国・日本」を企画、開催。 その後もアジア美術展を継続し、欧米偏重だった美術界に一石を投じました。資料もなにもない中で、現地でネットワークをたどりながら、アジアの作家、作品を発掘。1999年に20年間の成果をアジアの近現代美術専門の美術館『福岡アジア美術館』に結実させたのです。 ついつい熱く語ってしまいましたが、2019年にリニューアルし、さらに見やすく、楽しくなっています。常に新しい何かが生まれる美術館です。カフェやレストランも充実していますよ。
■住: 福岡市中央区大濠公園1−6 ■TEL: 092-714-6051 ■開館時間: 9:30〜17:30 (7~10月の金・土は20:00迄) ※入館は閉館の30分前迄 ■休館日: 月曜(月曜が祝日・振替休日の場合は、その後の最初の平日)、12月28日~1月4日
福岡市美術館からすぐ近く、2020年9月にオープンした「大濠テラス」へ立ち寄ってみましょう。
ニューオープン「大濠テラス」
日本の和、福岡の伝統文化を堪能できる、地域の良質な産品が一堂に集められています。1階カフェスペース「& LOCALS(アンドローカルズ)」では、福岡県南部の八女を産地とする八女茶や福岡県産の日本酒、クラフトビールなどのアルコール、福岡・九州の食材を使ったスイーツや軽食が楽しめます。テイクアウトもできますよ。
1階のきものレンタルショップ『Yamato Tsunagari Gallery(やまとつながりギャラリー)』では、気軽に着物をレンタルでき、各産地からセレクトした商品が販売されています。
【大濠テラス】 ■住: 福岡市中央区大濠公園1-9 ■営: 9:00~20:00 ■定休日: 月曜
この和の雰囲気に浸って、大濠公園日本庭園へ入場してみましょう。
「大濠公園日本庭園」
緑に囲まれた庭園は、喧騒から離れて、静寂の和を堪能できます。設計者は、庭園美術館として人気がある足立美術館や二条城の日本庭園を作庭した中根金作と現代日本における茶室・数寄屋建築研究の第一人者・中村昌生氏です。
【大濠公園日本庭園】 ■住: 福岡市中央区大濠公園1-7 ■TEL: 092−741−8377 ■開園時間: 9:00〜17:00 (入園は16:45迄) ※6・7・8月は9:00〜18:00時、入園は17:45迄 ■入場料: 大人250円 ■休園日: 月曜(月曜が休日の場合はその翌日)、12月29日〜1月3日
そもそもここ大濠公園は福岡市民にとって、憩いの場所。幼い頃に近くに住んでいた私は、休日にはよく父にボートに乗せてもらっていました(ボートは12月〜2月は休止)。 1周2kmの外周はランやジョギングするのに最適の場所。足に優しくジョギングに適するといわれるゴムチップ舗装や、距離表示等が整備され、朝から夜まで、ランナーや散歩する人で賑わいます。
1周2kmがわかりやすく、走りやすいグランド でも何もしなくても、のんびり水辺でくつろげるのがここの魅力。池の畔にも、公園内を縦に結ぶ松島にもベンチがあるので、そこでくつろいでくださいね。
大濠公園は、池を縦断する緑に囲まれた森があります。12月〜1月は通常のライトアップに加えて、華やかなイルミネーションに彩られています。
この池の中の道を北上すると地下鉄大濠公園駅のすぐ近く。入口近くにある大濠公園能楽堂は、気軽に能や狂言を楽しめる公演が行われています。
広大なミュージアム&植物園を堪能しよう
コロナ禍以前、ここは早朝から市民だけでなく、海外からの旅行者も集い、賑わっていました。今回は4時間程度のモデルコースを提案しましたが、1時間〜一日中のんびりできるところ。 何度も力説しますが、ここは広大なミュージアムであり、一年を通して花や植物に彩られる植物園でもあるのです(今は冬鳥とイルミネーションですね)。 市民にも旅行者の方にも、この清々しく、「福岡らしい」パークライフを堪能してほしいです。 文=帆足 千恵