生きていると出会いがあり、別れもありますよね。納得している別れとはいえ、大好きだった人とのお別れの日は切なくなってしまいがち。今回はそんな気持ちもどこかへ吹き飛ぶ、泥棒彼氏のエピソードをお話します。
彼が出ていく日
当時私は専門学校1年生。東京で一人暮らしをしていました。同い年の彼は音楽の専門学校生で、半同棲状態でした。1年半付き合った彼でしたが、価値観の大きな違いから別れることに。
「会うと寂しくなるから」と、彼は私が学校に行っている間に荷物をまとめて出ていくようでした。
別れることに後悔はないとはいえ、当日は「今日で終わりかぁ」としみじみ思いながら帰宅しました。家に着いて中に入ると、テーブルの上には一通の手紙が。開いてみると3枚綴りの長文で、今までの思い出がぎっしりと書いてあります。
「君との思い出を心にしまって、持って帰ります。さようなら」と締めくくられている手紙を読んで、改めて“別れた”ということを感じ、少し寂しくなりました。
クローゼットを開けると…
部屋を見渡しながら、何気なくクローゼットを開きました。当たり前ですが、彼の服はなく、感傷的な気持ちになりました。
「あれ?」閉める間際、なんだか違和感が。
ハンガーにかけてあった、お気に入りの水着がない!? 今年買ったばかりで、一度しか着ていないピンク色のビキニ。とても可愛く、奮発して2万円で購入したものでした。慌ててクローゼット中を探しましたが、ありません。
「可愛い水着…。とても似合ってるよ…!」少し照れながらそう言った彼の姿が頭に浮かびました。
彼が持って行ったのかも…。考えただけで鳥肌が立ちました。
とはいえ、問い詰めて戻ってきたとしても気持ちが悪くて着られません! とても気に入っていましたが、泣く泣く諦めることにしました。
テレビまで持っていかれた
二人でいるときは狭く感じていた8畳の部屋は一人になると広く感じ、とても静かでした。元々多くない彼の荷物でしたが、こんなに広かったっけ… と思うほど。
水着の件は気持ちが悪いし、最後は生理的に受け付けなくなってしまった彼でしたが、手紙を読み一年半の思い出を考えると、切ない気持ちになりました。
気分を明るくするためにテレビをつけようとしたその時。
「え!?」思わず声をあげてしまいました。テレビがないんです。
テレビは、半同棲状態になったときに2人で費用を出し合って購入したもの。なので、所有権は彼にもあります。でも、私にもあります。それを何も言わずに持って行くなんて! 腹が立ちましたが、もう連絡をとることすら面倒で、水着に引き続きテレビも諦めることに。
まだ何か持って行かれているのではと思い、部屋中を見渡しました。そして、驚くべきものがなくなっていることに気づいたのです。
部屋が広く感じた理由
それは、インコのぴーちゃんでした。一年前から飼い始め、実家から連れてきて大切にしていたのに。水着やテレビは諦められても、可愛がっていたインコだけは諦められません。私の怒りは頂点に達し、彼にすぐさま電話をしました。
「ねぇ! ぴーちゃん返してくれる!?」出た瞬間、怒鳴るように言った私に、彼は驚いていました。
「だってこれから、寂しくて…。だからインコくらい…」
「寂しかったら勝手に持って行っていいの!? 大切なの! 返しにきてよ!」
「返すつもりはない! ぴーちゃんは、君だと思って大切に育てる!」逆ギレするかのように強い口調で反論され、一気に彼が気持ち悪くてもう会いたくないと感じてしまい、インコには悪いのですが返してもらうのを諦めることに…。
こうして彼は、水着とテレビ、そしてインコを盗んで出て行きました。部屋が広々としたように感じたのは、テレビや鳥カゴがなくなったからだったとは…。
「君との思い出を心にしまって、持って帰ります」と書いてあった手紙。比喩表現ではなく本当に持って帰ってるじゃん! と呆れたのはいうまでもありません。
その後、友達から
「元カレのSNSの名前が、ぴーちゃん♡になっているけどなんで?」と言われたのは、忘れたい思い出です。
みなさんも、同棲している人と別れるときは、大切なものを持って行かれないように立ち合いすることをおすすめします。
(ファンファン福岡公式ライター/さとう なつこ)