續・祖母が語った不思議な話:その拾肆(14)「罠」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」、多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 秋。
 高校の修学旅行に行く前夜、祖母がお小遣いをくれながらどこに行くのかを尋ねたので京都方面と答えた。
 「あちこち興味はあるけど、二日目の宿泊にE寺の宿坊に泊まるのが一番楽しみだよ」
 「歴史のある立派なお寺さんだね。ただ、そのせいかどうか分からないけれども、あそこのH山は不思議なことも多いから気を付けないと駄目だよ」
 「了解了解! お土産楽しみにしててね」

 翌朝早く、バスは京都に向かって出発した。

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 初日は昼前に京都に入り、金閣寺や清水寺など主立った神社・仏閣を巡った。
 吉川英治の「宮本武蔵」を読んだばかりだったので一乗寺は特に興味深かった。
 その晩は市内に泊まったが皆興奮していて眠るどころではなく、かなり遅くまで騒ぎ先生たちから大目玉を食った。

 二日目は琵琶湖周辺を巡り昼食を終えるとH山に向かった。
 E寺に着くと若い僧侶から歴史を説明を受けた。
 中でも十二年に渡り山にこもる籠山行(ろうざんぎょう)には特に感銘を受けた。


 その後、堂内を案内されたが、ちょうど護摩祈祷を行っていた。
 暗い部屋の中、燃える火を囲むように護摩壇が組まれており、その前で僧が読経している。
 それを眺めながら通り過ぎようとしたとき、目を疑った。
 触ってもいないのに護摩木が次々と火の中に飛び込んで行く!
 
 しばらく唖然として見ていた。
 気が付くと他の生徒はもう他の場所に移動していた。
 急いで後を追おうとしたとき、部屋の出口にK君が立っているのに気付いた。

 「君もあれ見たよね」
 こちらが話しかけるより早くK君が口を開いた。
 「不思議だったね。念力…?」
 「なんだろうね…ただ、なにか…意志が強い場ではあると思う」
 「それって…」と言いかけたとき先生が探しに戻って来たので、話はここで終わった。

 宿泊に使う宿坊は思ったよりも新しく広く、夕食の精進料理も美味しかった。
 風呂から上がり布団に入ると昨夜騒ぎ過ぎたからか、早くもあちこちからいびきが聞こえる。
 横になっていたが昼間の出来事が頭から離れず眠るどころではない。
 何度目かの寝返りを打ったそのとき

 「うーーーーーーーーーーわーーーーーーーーーーーーーー」
 山から総毛立つような男の叫び声が聞こえた。

 驚いて立ち上がったが、ほかには誰一人起きてこない。
 静かに部屋を出て、ロビーに回ったが誰もいない。
 あの声が何なのかこっそり見に行こうと靴を履きドアを開けようとしたとき浴衣をつかまれた。 
 振り返るとK君がいた。

 「行かない方がいいよ」
 「でも…気にならない?」
 「…あれは罠だと思う。ほかに誰も起きてこないだろ。気にしちゃいけない類(たぐい)のものだよ。今出るとたぶん帰って来られない」
 K君のこの言葉を聞いて外に出るのは諦めた。

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 旅行から帰ってお土産の八ツ橋を開けながら祖母にこの出来事を話した。
 「質(たち)の悪いもんだね。無事戻って来られたのはK君のおかげだね」
 「おばあちゃんの忠告もあったからね」
 そう言って頭を下げた。
 祖母はふふんと笑った。

チョコ太郎より

 99話で一旦幕引きといたしました「祖母が語った不思議な話」が帰ってきました!この連載の感想や「こんな話が読みたい」といったご希望をお聞かせいただけるととても励みになりますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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