元小学校教師で現webライターの冬野はなです。公立小学校に勤めていると、色々な家庭の事情が垣間見えることがあります。今回はほかの先生から聞いた話です。
家庭へ連絡が取りづらい場合もある
R君は、小学4年生の元気な男の子です。気遣いもできてクラスの人気者でした。ですが、そんなR君には入学時から各担任に「気を付けてほしいこと」が申し送られていました。
それは、R君の母親が重い病気を長きにわたって患っていることです。また、母親は精神的にも参ってしまっていて、度々不安定となり、R君の持ち物や行事に必要なものに配慮できる状態ではなかったそうです。
R君は一人っ子で、父親はいるようですが、ほとんど帰って来ないそうです。親族は遠方なので頼ることもできず、通院や生活などは行政の助けを借りながらなんとかされているようでした。
学校から持ち物の電話をすると、母親の負担になってしまい、R君に厳しく当たってしまうといいます。そういった経緯もあり、母親へのお願いの連絡は少しずつ控えられていくようになっていました。
お弁当はどうする?
文房具なら教師が貸すこともできますが、行事ごとのお弁当には悩まされました。
学校側が個人のためにお弁当を用意することは、金銭の捻出なども難しいためできません。結果的に、当日R君がお弁当を持ってくるかどうかを待つしかありません。たまにR君が前日の夕ご飯の残りなど持ってくることもありましたが、やはり何も用意できない場合も多々ありました。
ある遠足での出来事です。
その日はお弁当の用意ができなかったようで、朝職員室に来たR君は、顔をくしゃくしゃにして
「先生、ごめんなさい。お弁当がないんです…」と、声を絞りました。
担任は
「R君が謝ることはないよ。ほかの用意は自分でしたの? 偉かったね」と頭を撫でました。 いつも笑顔のR君の目から、涙がこぼれました。
突然の提案
と、そこへ校長先生が声をかけてきました。
「R君、おはよう! 今日は校長先生も一緒に行くから、よろしくな! 実はね~、先生はちょっと太り気味でダイエットしてるんだよ! でも、奥さんが大きなお弁当を用意しちゃってさ! R君も食べてくれないかな?」と言いながら、お弁当箱を見せました。
なんと重箱サイズが二段! お花見に持っていくサイズです。
R君はびっくりしていましたが、担任の後押しもあり、受け取ることになりました。
その日の遠足は、お弁当を食べるR君と校長先生の周りにほかの子も集まり、
「私も一つもらっていい?」
「僕の卵焼きと交換しよう!」などと賑やかに過ごしていたそうです。
お弁当の後はみんなが楽しみにしているお菓子タイム。でも、R君には当然お菓子はありません。すると、まわりの子たちは、何でもないことのように
「R君、このグミ一つあげる!」と、さらっと渡していきます。
担任はその光景を見ていて、
「この子たちは毎年のことから、R君に何か事情があることを、なんとなく感じ取っていたのだろう。でも、偽善的な行いではなく、ただ相手と楽しい時間を一緒に楽しみたい純粋な気持ちで接しているように思う。素敵なクラスだなと思った」と言っていました。
この話を聞いて
健気に頑張るR君と、まわりの子どもたちの柔軟性と純粋さに胸を打たれました。
この話は特別なことで、どの学校でも対応できることでは決してありません。ですが、子どもに行事を楽しんでもらいたいと考える、教師たちの想いもまた素敵だと思いました。
(ファンファン福岡公式ライター/冬野 はな)