明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」、多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
小学校に上がる前の年の五月、家の前の道路で隣りの家のK坊とパッチン(めんこ)をして遊んでいた。
人気プロレスラーや特撮ヒーロー、怪獣が印刷されたパッチンを取り合うのに夢中で、気が付くと空は真っ赤に染まっていた。
「こんにちは」
声がしたので顔を上げると、ご近所のTさんだった。
「おじちゃん、おかえりなさい。今日は早いね」
「なんだか気分が悪くてね。早めに帰って来たんだよ。君たちも暗くなる前にお帰り」
そう言うと製鉄所勤めのTさんは足早に立ち去って行った。
「どうする? もう終わる?」
「さっきガメラ取られたから、このままでは終われないよ!」
K坊はやる気満々だったので、延長戦に突入した。
パッチンを地面に並べ「さあ勝負!」というとき、声が聞こえた。
「こんにちは」
見上げると声の主は通り過ぎ、歩き去ろうとしていた。
(Tさんだ! あの声、あの背広…Tさんだ! さっき帰ったはずなのに?)
K坊と顔を見合わせ、広げたパッチンもそのままに後を追い角を曲がると、もう姿はなかった。
二人でぽかんと立ち尽くしていると六時を告げるサイレンが鳴った。
狐につままれたような気持ちのままK坊に別れを告げ家に帰った。
数日後、Tさんは急死した。
お通夜から帰って来た祖母に先日の出来事を話した。
「何か関係あるのかなぁ…?」
「同じ人があちこちで目撃されることは昔からあってね。〝影の病〟とか〝影患い〟と呼ばれているよ」
「…あのときボクがすぐに教えたらおじさんは助かったのかなぁ?」
「〝影の病〟は防ぎようがないからね…気の毒だけどこればっかりはね」
翌日、K坊を誘いTさんの家に焼香に行った。
遺影に写るTさんは別人のように見えた。
チョコ太郎より
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